68.メダリアの街は今日も忙しない
最終回です。
あれから2ヶ月が過ぎた。
その間に自称神を名乗る詐欺師が私達の前に現れた。まるで示し合わせたように現れたので何か裏があるかと勘繰ってしまいそうだ、そして警戒する私達など気にする事なく二択を迫ってた。
『復讐したいのなら海に捨てて良いよ、君にはその権利がある。逆に指輪を返すという事は復讐をしないで泣き寝入りするという事だけど良いのかい?』
いやらしい言い方にムッとするが、フランも含めこれ以上私達に関わらない事を約束させて指輪を渡した。元凶ならちゃんと最後まで責任を取るように詰め寄ると、苦笑いしながらとんだお人好しだと馬鹿にされてしまった。
それでも強引に指輪を突き返す、するとやれやれといった表情をして消えてしまった。「約束は守るよ」という捨て台詞を残していったので、ちゃんと返してくれると信じるしかないようだ。
そして今日は腕の症状を診てもらうために王都まで来ている。王都に着くと船着場でベベルに迎えられ王立病院まで強制的に連れてかれてしまった。
経過は順調?なのかは分からないがあと2ヶ月は安静にするように言われた。
そして診断が終わるとベベルにすぐに早く帰るように急かされる、少しブラブラしようと思った私は出鼻を挫かれた。
気になったので何かあったのか聞いてみる。何やらローゼリア家の方で何か問題が起きており、お父様達はすでに王都から離れた後だったらしい。ベベルを追求すると仕方ないといった様子で話してくれた。
「小競り合い?お父様達は大丈夫なの?」
ベベルが私に不穏な事を伝える。
「はい、ミゼット伯爵の領軍とローゼリア家で小競り合いがあったそうです。どうやらミゼット伯爵は軍備を強化しているという噂を聞いております、ですのでお嬢様も今後は王都には極力近づかないようにして下さい」
ミゼット伯爵?確かフランの実の父親だ。
「それはフランが原因?」
私の質問にベベルは頷く。
「やはりローゼリア家と王家で王妃フランシソアを勝手に処断した事を不服に思っているようです。生きている事が知られれば政治利用されるか、暗殺されるかのどちらかです。こちらが真実を話せない分、余計に不信感を募らせているようです」
フランを守るためには生きている事を公に出来ないのか、難しい話だな。
「まあ、ミゼット卿はフランシソアが王妃時代に甘い蜜を吸っています。なので味方はする者は少ないようです」
何か複雑な気分だ、親として怒っているのだろうけど、誰からも共感されないなんて。
「それと、これは極秘なのですが、前王グランの国外退去が決定しました」
国外退去・・・要するに国外追放って事かな?さすがに王族だから死刑とかにはならなかったか。
「ウォルテアに王妃側の大叔母がいるそうです。そちらに身を寄せるとの話で、すでに内密にアメリアを出国したと聞いてます」
船が沈没でもしたら良いのに・・・でもそれだと他の人にも被害が出るからダメか。
もう2度と会う事はないだろうし、嫌な事を考えるのはやめておこう。
「それとお嬢様の」
「いい加減キアって呼んでよ、もうお嬢様なんて呼ばれるような年齢でもないし」
ベベルだけは相変わらずお嬢様と呼ぶ、そもそも私は平民なんだから名前で呼んで欲しい。
「ゴホン、ええと、キア様の」
本当は「様」も要らないんだけどね、まあ名前で呼んでくれたから良しとしよう。
「キア様の教え子であるエリナの件です。実は彼女の父親であるダンが王都にいたようです」
な、何だって!?借金まみれじゃないの?お金ないのに何で王都に行けるんだよ。
「エリナの母親へ接触しようとしたそうです。どうやら金を無心に来たようで、エリナ様がすぐに気付いてディランド将軍を頼ったそうです。それで借金を肩代わりする代わりに2度と接触しない誓約書を書かせたようです」
「ありえない!何でエリナが借金の肩代わりをするのよ!!」
久しぶりにムカッときた、エリナが働いて稼いだお金なんだぞ、親だからってそんな事が許される訳がない。
「私も立ち会いましたが、ディランド将軍も同じように怒っていましたよ。ただエリナは親族としての情もあるが、完全なる手切金だと言ってました。私と将軍を立ち合わせて誓約書を書かせたのはその為です、もし次に接触してきた時は誓約書をもって犯罪者として通報すると厳しく言ってました。それに王宮勤めのエリナの収入からしたらダンの借金などその場で払えるくらいの額だったようです」
エリナは本当に優しくて賢いな。私だったら追っ払って絶対にお金なんて払わないわ。
「それからディランド将軍とリコも少しずつですが距離は近づいてます、何やらエリナが色々と手伝っているみたいで、上手く丸め込まれてリコが懐柔されつつあります」
・・・何かディランド将軍とエリナが仲良くなっているけど大丈夫なのか?
「・・・それでは私もしばらくはお会いする事は出来なくなってしまいます。次の検診の際はロナさんに同行をお願いしてもらって下さい」
いや、別に私は1人でも来れるって、今日だって1人で来たんだから。
「まったく、貴方もロナもいつまで嬢様扱いしているのよ。病院くらい1人来れますー、船代とか出してくれてタダだから来ているだけですー」
口を尖らせるとなぜかベベルが笑顔になる、何か腑に落ちないが昔からなので気にしないようにしよう。
「・・・ベベル、お父様、お兄様の事お願いね」
「はい、尽力いたします」
ここで下りの船が上流からやってくる。どうやらここでお別れのようだ。
「じゃあ、ベベルも気をつけてね。貴方も危なくなったら逃げるのよ」
「はい、分かってますよ。そして騒ぎが終息したら、必ず迎えに参ります」
何か違う意味に聞こえないか?
「ん?今のプロポーズ?」
「は?え?」
どうやら違うみたいだ、本当にこの男は鈍感でヘタレだな。
「ははは、ベベルらしいよ。じゃあね、いつか迎えに来るまで待ってるよ!」
耳まで真っ赤にしたベベルをからかいつつ船はメダリアへ向かって出発する。
船の甲板に立つと風が気持ち良い。
今から帰れば夕方に帰れるだろう。
ヨヒムとクララは相変わらずだ、大金が懐に入ったといっても生活を贅沢に変える事は無理だったようだ。
フランは一生懸命社会復帰しようと頑張っている。今は私の代打で食品加工の工場で働いている。そして亡くなった自分の母親が生業としていたという針子の仕事に興味を持ちはじめたようだ。幼い頃、母親の仕事を間近で見ていたので覚えているのか知らないが、とても筋が良くて刺繍の仕事を貰ってきては夜な夜なやっているようだ。
あんな細かい作業を延々とやれるのは本当に凄いと思う。
そして一番驚いたのが私の元専属従女だったロナがローゼリア家を辞めて一緒に住み始めた事だ。お父様達も驚いた様子だったが無理には引き止めなかったようだ。ロナ自身1人身だったし、自由で自立した私達に感銘を受けたと言っていた。相変わらず私の事をお嬢様扱いして世話を焼いてくれるのが難だけど、今ではそれが私だけでなくヨヒムやクララ、フランにも波及しているのが笑える。それにどこからかマナー教師の仕事を自分で探し、ちゃんと働いてヨヒムに家賃を払っているようだ。
ただ、マナーの教師なら私でも出来るんだから紹介して欲しい・・・
これでヨヒムの酒場の住居スペースは全部埋まってしまったな、まさか女5人で共同生活をする事になるとは思いもしなかった。
そして私はと言うと・・・
「キア先生、字がヘタすぎ!!」
「俺よりヘタじゃねえ!?」
「キア先生、読めない」
クソガキ共が!私は右利きなんだ、逆手の左では上手く字が書けないのは常識だろ!
教会学校でクソガキ共にバカにされるのが少々。
「キア、明日ちょっと通訳頼める?」
クララから斡旋されて通訳の仕事を少々。
そして・・・
「先生、これであってますか?」
「うん、良いけど、先にこっちを計算してから解いた方がやりやすいわ」
念願だった個人の家庭教師の仕事を少々。1人しか生徒はいないけど、やる気マンマンなので私も頑張らないといけない。
私の人生なかなか上々じゃないか?
日が傾き始めて遠くにメダリアの街が見えてきた、この辺りで空気に海の香りが付け足される。
やっぱりこの香りを感じると帰って来たと安心する、自分の場所に帰って来たと実感する事ができる。
船からでも街の喧騒がよく見える。
夕方になって多くの人達が帰路につき、お酒を飲みに行く人達は足取りが軽くなり、デートに向かう若者は早足になって待ち合わせの場所に向かっている。
メダリアの街は相変わらず今日も忙しない。
何でだろう?その光景をみるたびに自然と笑顔になってしまうのが不思議だ。
ーー完ーー
後書きみたいなものです。
最後までお付き合いしていただき本当にありがとうございます。
内容に賛否はあるかもしれませんが、最終的に彼女達がハッピーに終われば良いと思ってました。
チヒロに関しても当初は海に投げ捨て何百年もの孤独を味わうなどの結末も考えてましたが、彼女のやった事はともかく、巻き込まれた人間には変わりないので、目が覚めたら長い時間が経過していたという形の罰を与えました。それには私がマイナスの描写が得意ではないのもあると思います。なのでどうかご理解していただけるとありがたく思います。
今作は短めの小説を書くという事で60話前後で終われればと思ってましたが、8話ほどオーバーしてしまいました。そこは反省点で上手く簡潔にまとめれる部分があったと思ってます。それでも当初の考えていた内容を書けたという点では良かったと思います。
今作はこれで終わりますが、読み返して本文の添削はするつもりですのでよろしくお願いします。
次は150〜200話くらいの中編小説に挑戦するつもりです。当初の想定以上の大長編となってしまった「精霊女王と呼ばれた私の異世界譚」の反省点をふまえてストーリーを練ろうと考えてます。
この度は私の拙文を読んでいただき、本当にありがとうございました。
屋津摩崎




