63.勝負の10年目(チヒロ視点)
ーーチヒローー
最強の男ディランド=シャフタールが私の前にいる。私は歓喜し、すぐに話しかけたい衝動をなんとか我慢した。今の私なら王妃という立場を利用すれば後から何とでもなる。
それでも下手をしたらグランやミシェイル達と出会った時よりトキメキを覚えたかもしれない。
「フランシソア王妃陛下、私に個別の話があるとはいったい何でしょう?」
はやる気持ちを抑えてディランドを個別に呼び出す。人払いをして一対一で向き合う、やはり警戒をしている様だ。
「此度のご活躍、本当に素晴らしいことです。個人的に感謝の意を伝えたくてお呼び出しをしたの。子供を攫うなんて最低の者達を駆逐して下さり本当に感謝いたします」
丁寧に礼をする、すると心底意外そうな顔をされた。やはりグランの悪評が先行しすぎたみたいだ。
「・・・ただ、それが根本的な解決とはなっていないのは事実です」
ディランドがピクリと反応する。
「すべての元凶である赫の蠍・・・彼等がまだ裏に隠れています」
赫の蠍という名前を出すと効果覿面だ。明らかに私に興味を持ち始めた。
「どうか国民の安全の為に、手を貸してくれないかしら?」
そう言うと、私が独自に調べていた雰囲気で資料を出す、ディランドは食い入る様に資料を見ている。
「確信が持てる資料ではありません、なので個別に呼んだ次第です」
まあ、資料はゲーム上でディランドが潰した赫の蠍のアジトだ。そこが今の時点でアジトになっているかどうか知らないけど匂わせておけば良いだろう。
「・・・いいでしょう。捜査の手を広げてみます」
さすが赫の蠍を絶対に許さないマン。敵の居場所のヒントを知って静かに闘志を燃やしているみたいだ。
それ以降、ディランドは破竹の勢いで赫の蠍を討伐し、功績を積み上げていく事となった。
あっという間に将軍の地位にまで駆け上がり、軍の若きカリスマ的存在として讃えられるようになった。
そして次の段階に進む事にする。
「どうやら私が独自に調べていたのを彼等に知られてしまったみたいです」
ディランドを呼び出し、私の命が狙われる結果になったと印象づける。
「・・・そうですか」
派手に取り締まったのをディランドは後悔している様子だ、
「ただ独自に調べているうちに将軍の家族についての情報を得ました。貴方に妹さんがいるんですね」
切り札的なワードを使う時がきた。ディランドが最も知りたいであろう「妹」の情報を出す事にする。
ディランドは私でも分かるくらいに動揺している。おそらく彼も独自に調べているみたいだが、手掛かりを掴めていないようだ。そりゃそうだ、この時分にはこの国にはいないはずだ。
「・・・つまり交換条件という事か?いいだろう、ディランド=シャフタールの名にかけて王妃陛下への忠誠を誓います」
あれ!?何か話が飛躍しすぎじゃない?まあ、当初の予定通り味方に引き入れる事に成功したみたいだから良しとしよう。
包み隠す事なくディランドに情報を教える。妹はリコルシェという名前で、ディランドと同じ銀製の懐中時計を持っている事、今は国外にいるが赫の蠍を潰し続ける事で必ず会える事を伝える。
自分が掴めていない妹の名前を教えられ、さらに銀時計の事を指摘されて驚いた顔をしている、どうやら私の情報を信じてくれたみたいで、私に跪ついて忠誠の誓いを示す。
これで私は最強の守護神を手に入れる事が出来た。
そして勝負の年である10年目となった。これから2が始まる。
私の周辺で様々な変化が起こった。まずはグランの前に非常に仲の良い宮女の出現した事だ。
その宮女の名前をエリナといい、その名前を聞いて緊張が走る。
エリナという女性。それは『アメリアに花束を〜3』の登場人物だ、しかもかなりの重要人物で3の主人公ルーナの母親だ。
確かエリナは宮女として王宮で働いていた。その時にグランに見染められ愛された女性だ。フランシソアを亡くして絶望の淵に立っていたグランを助けた聖母のような女性だ。だが身分の違いと内戦の最中とあって命を狙われてグランの手によって逃がされ、以降は正体を隠して平民として生きる事となる。その際、グランとの間に子供を授かっておりその子供がルーナだ。
因みにルーナは内乱に終止符をうった聖女として、新たなアメリアの再生を任されるはず・・・
シナリオの強制力という言葉を思い出す。
ルーナの母親が出現したという事は、私が抗ったとしても無駄だったのではないだろうか?
あの自称神と名乗った男の笑いを思い出す。どうやっても私を殺したいのだろうか?
そんな事はない、私はまだ負けたわけではない。
だがイベントは無慈悲にシナリオ通りに進む。王宮に前王アイラスがやって来た、後ろには屈強な男達が控えている。
父と息子、大きな確執がここで生まれる・・・はずだった。だけどグランは引きこもったまま出てこないんだけど?
仕方ないからディランドを引き連れて私が対応する。軍の人間が我が物顔で歩き回っている事を真っ先につつかれ、屈強なおっさんが喚き散らしながら凄んでくる。だけど対応するディランドが凄かった、歯牙にも掛けずに敵を牽制し相手に隙を一切見せない。
もしかしたら私はシナリオに勝てるかもしれない、そう思った時に脇から出てきた別の集団が目に入る。
まさかとは思った。悪賊の一団の中にライオンのような姿をした大男がいる。
その男は知っている。私の命を奪った赫の蠍の頭目とされる男・・・百獣の王バランだ。
ここで百獣の王バランが現れると言うことは、本当に2のオープニングに入ったという事か!?
「凄い・・・本当に2の導入部分のそのままだ。という事はあの白髪の大男が百獣の王バラン?」
「や、やめてくれ、そんな恥ずかしい名前はとうの昔に捨てた!!」
ストーリー通りの展開になってしまいつい尋ねてしまった、すると百獣の王バランは大きな身体を使って食い気味に否定する、何か思っていたのとは全然違う。
・・・まあ、いいか。
目下の最大の敵であるバランの正体をディランドに教える。だがバランは半泣きで否定する、どうもイメージと全然違って困惑してしまう。
「あー、その、えーと、お久しぶりですねフランシソア様。私の事を覚えていらっしゃるかしら?」
悪賊の中に場違いな女性がいて、突然私に話しかけてくる。
・・・誰だっけ?
「えっと、元の名前はキシリアナ=ローゼリアと申しますが思い出していただけませんか?」
私が戸惑っていると業を煮やして自分から名乗り出た、怒るなら最初から名乗ってほしいよ。
えっと、キシリアナ?どこかで聞いた事あるような気がする・・・
「あーーー!悪役令嬢だ!確かそんな名前だった!!」
ようやく思い出した。あの時、断罪された悪役令嬢だ!
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日の予定です。
最終回までもう少し、どうかお付き合いお願いします。