64.気高く勇壮な大鷹(チヒロ視点)
ーーチヒローー
「あーーー!悪役令嬢だ!確かそんな名前だった気がする!!」
つい思った事を言ってしまった、周囲の人達の視線が痛い。悪役令嬢も怒りに震えながらも堪えている様子だ。
「ようやく思い出していただけましたか、チヒロさん?」
・・・え?
私の名前を知っている?
おかしい、この事を知っているのはあの自称神を名乗っていたアイツだけのはず。
・・・そうか!実は悪役令嬢も転生者なのかも。
あの時の臨床実験のバイトをしていたのは私だけじゃなかったはず。こうして悪役令嬢が生きているのもそれが原因かもしれない。
だが私の予想は外れていたようだ。
転生者という言葉に反応は微妙だった、それに私が知っているストーリーとは大きくかけ離れており、ここで悪役令嬢が出てくるのはおかしい、それに百獣の王バランも赫の蠍と自身は無関係と言い張っている。
「そろそろフランシソア様に体を返して欲しいのですが?」
悪役令嬢が呆れた様子でその名前を口に出す。やはり私がフランシソアではなく鳴瀬 千尋であると知っている。そして悪役令嬢は手の甲を私の方に向ける。そこには見覚えのある緑色の真珠の指輪をはめている。
間違いない、以前私が捨てたはずの指輪だ、どういう因果かしらないけど、その指輪を悪役令嬢が持って私の前に現れたのだ。
そして突然悪役令嬢の雰囲気が変わる、この感じはどこかで身に覚えがある。
「これ以上、周りに迷惑をかけないで!私だけならまだ良い、だけどキアを苦しめ、キアのご家族を苦しめ、前王様を苦しめ、多くの人を苦しめているのは分かっているの!?貴女の罪は私が命と人生をかけて償います、だからもう大人しく指輪の中に戻って!」
雰囲気が変わったと思ったら、喋り方も顔付きも別人になってしまった。
だけどこの声は私には分かる。昔、幽霊の声と悩んでいた頭の中に直接話しかけてくる声、やはりあれはフランシソアの声だったんだ。
悪役令嬢と主人公のヒロインが手を組んで私と対峙している。そしてたかがゲーム内の中のキャラが偉そうに私に説教をしてくる。
だけど大丈夫だ、挑発には乗らない。こっちには作中最強キャラのディランド=シャフタールがいる。
万が一にも負ける要素はない、落ち着けば勝てるはずた。
「いやいや、本当かどうか試してみたらいいんじゃね?信憑性も何も指輪をはめるだけなんだから大した手間じゃないだろ?」
ここで悪役令嬢の横にいる体のデカい戦士女が軽いチンピラ調で口を開く。
「それとも指輪をはめられない理由でもあるんですかい?」
明らかに私を馬鹿にして挑発している、それに乗じて悪役令嬢とその取り巻きも調子こいて挑発してくる。
何で名も知らないモブ達にここまで言われなきゃいけないの?ステータスがカンストしている私が本気になればお前らなんてきっと殴り倒せるはずだ。
「そのような詭弁に耳を貸すことはない!逆臣ローゼリアよその口を控えよ!!」
ここで離宮に引きこもっていたはずのグランが援軍にやって来たのか?女性を連れて乱入してきた・・・その中には将来の伴侶であるエリナもいる、私そっちのけで仲良くしているのはモヤモヤするけど、今の状況ではそこはどうでも良い。
ただグランの登場はさらに混乱を招く事となる。
彼は超次元理論でローゼリア家を糾弾する。かなり強引ではあるがストーリーを修正しようとしているのか?だけどグランが出てきた事でこちら側に正義があるらしく、一気に形勢逆転したみたいだ。
これでディランドの足枷はなくなった。目の前でその力を遺憾なく発揮し、たった一人ですべての敵を蹂躙する。その姿に私は勝ちを確信した、圧倒的な力の前に前国王側はなす術がない。
ただここで予期しない行動に出る奴がいた。
悪役令嬢達が私の方に目掛けて走って来たのだ。ディランドは交戦中で私の側には少数の軍の兵士と頼りない近衛兵だけ、ここまで強引にストーリー通りに戻ろうはするとは思わなかった、明らかに私を殺しに来ている。
グランが間に割って入ろうとするが全然相手にされない。本当に頼りにならない、こんなキャラだったっけ?もっと頼りがいがあった気がしたのに。
そして百獣の王バランが私に近づいてくる。その迫力に身動きがとれなくなる、このまま私は殺されるのか?こちら側の兵を全て制圧すると側近の女兵士が私を拘束する。そして縛る訳でもなくなぜか腕を出させる、そして悪役令嬢が指輪を外して近づいてくる。
もしかして・・・殺すより恐ろしい・・・指輪の中に私を閉じ込めるつもりか!?
そんなのは嫌だ、誰かが拾ってくれるまで指輪の中にずっと閉じ込められるなんて、終わる事のない生き地獄じゃないか!何て残酷な事を考えるんだ!!
必死に抵抗するがこの女兵士の力が思ったより強い、私より小柄な癖にどこにそんな力があるんだ!
ふざけるな!私は被害者なんだ!こんな理不尽な目にあうなんて許されるわけがない!!
思いつく限りの罵詈雑言を浴びせる、ここにいる人間全員が私を哀れむような視線で見ている、それがさらに怒りを増幅させる。
ドゴッ!!!
次の瞬間、私のすぐ近くに大きな飛来物が通り過ぎ、そのまま壁に激突した。
全員があっけに取られてそちらに視線が向いて時間が止まる。
ゴキッ!!
「いやああああ!!!!」
私の近くで何かか壊れる嫌な音がする。ほぼ同時に悪役令嬢の声にならない悲鳴が響き渡る。
気高く勇壮な大鷹が立ちはだかるように私の前に立っている・・・
その姿は誰もが見惚れてしまう程の美しさだった。
今週でチヒロの独白は終わります。
来週で最終回の予定です、どうか最後までお付き合い下さい。




