65.役目が終われば・・・(チヒロ視点)
チヒロの独白最後です。
ーーチヒローー
そこからはディランド無双であった、たった1人で多数の敵兵を圧倒してしまった。
そしてついに百獣の王バランとの一騎打ちまで持ち込むことに成功した。
これで私の命運は決まる。
ディランドが勝てば私の生存ルート決定だ。そうしたら私はディランドに全てを打ち明け・・・彼に全ての身を委ねよう、そしてありのままの私で生きるんだ。
ディランドが負ければ・・・いや、そんな事を考えてはダメだ。
向こう側では、悪役令嬢とグランが何やら痴話喧嘩をしている。やはりあの2人は仲が良いのかもしれない、私がハーレムルートなんて選ばなければ2人は結ばれたのかもしれない。でも何か様子がおかしい、従女にも手をあげているし、必死になってみんなに止められている。
醜く、無様だ。
みんながトキメキを覚えた王子様の姿はそこには無かった。
やはり私にはディランドだけいれば良い。彼がいれば王妃の座なんてエリナでも悪役令嬢でも誰にでもくれてやる。
『あーあ、ここで投げ捨ててしまうのか』
どこかで聞き覚えある声が耳元でする。全ての元凶のあの男の声だ。
『主人公でなければ君がその役目である必要がないんだよね、君が馬鹿にする悪役令嬢のように』
ふざけるな!
勝手に人を巻き込んで好き勝手な事をして、滅茶苦茶にしやがって!
『それは君も一緒だよ・・・君も人を巻き込んで、好き勝手して、無茶苦茶にした』
顔は見せないがへばりつくような笑い声ははっきりと聞こえる。
私が一緒だって?・・・好き勝手して・・・無茶苦茶にした?
ここで時が動き出す。気がつくとディランドとさっきの女兵士が睨み合っている、どうも様子がおかしい。
「・・・なぜお前がその時計を持っている?」
あのディランドが明らかに動揺している?女兵士の胸元のブレスレットを見ている・・・銀色の?
まさか・・・リコルシェ?
おかしい!こんな事はあってはならない!リコルシェはこの時点ではローゼリア領にいるはず・・・赫の蠍から逃げ出して教会に潜伏しているはずなのに!
一気に空気が変わってしまった。
ディランドが私を見る目が冷たくなり、明らかに不信感を抱いている目だ。
「・・・俺を騙したのか?」
違う、そんなはずはない!私をそんな目で見ないで!!
「10年前、王都で人攫いの闇組織が一斉摘発された。その時、ローゼリア領で保護したのがリコだ」
百獣の王バランがリコルシェとの経緯を説明する、かなりストーリーが変わっている?リコルシェがローゼリアで保護されていたなんて聞いてない。
かなり旗色が悪い、ディランドの疑う視線も、誰も私の言葉に耳を傾けない、全て悪い方へと向かっている。
「ディランド=シャフタール将軍。いや、ディランドル=ウェンブリーが君の本名だよ」
さらに追い討ちをかけるように前国王側にまた援軍が来たようだ、大勢の人がぞろぞろと入ってくる。
「お兄様?」
悪役令嬢が唖然としている、悪役令嬢の兄って確かアーレイトだっけ?ゲームでは真っ先に悪役令嬢を見限った冷血漢だったはず。
「君は西の山岳国家ウェンブリーの第3王子だよ」
おかしい、何で2のエンディングで分かるはずの真実を知っているんだ?
・・・あれ?ほとんどゲームに出てこないから知らないけど、アーレイトってこんなキャラだったの?確かにわたしを蔑む視線はまさに冷君そのものだ、冷君らしく私の言葉を嘲笑っている。
そして傍にはゲームでも見た事のある美少年の姿があった。2の攻略対象の1人のマルクス=ヘンリーだ。だけどここにいるのはおかしいだろ!
ここでグランが悪足掻きをする。
王である自分を貶める反逆行為だと同じ主張を繰り返す、だけど誰も何も言わないし動かない。
・・・今の私と同じだ。
主人公でなければその役目は誰でも良い・・・
あの自称神の言葉を嫌なタイミングで思い出す。
・・・ああ、私は詰んだのか。私の味方する人は誰もいない、前国王がグランを説き伏せる。そして私を断罪するかのように例の指輪をつけるように命令する。
・・・私は負けたんだ。
目の前に映るグランの現状に自分を重ねる。今度は私が断罪される番なんだ、私が登場人物である事を放棄した時点で、誰も私の味方をしない、私も悪役令嬢と同じ断罪という末路を辿るんだ。
ただ静かだった。
悪役令嬢が何も言わずに複雑そうな顔で私の前に立っている。
「・・・私がここに来た原因を作ったのはその神と名乗る男です」
不意にあの男の顔を思い出す。胸糞悪く全てが奴に仕組まれたシナリオだと思うと悔しくてしょうがない。
「貴女が自分が被害者だと言うけど、私達も同様に被害者だ、だけどその中でも人生のほぼ全てを棒に振ってしまったフランシソアが一番の被害者だと思う。ずっと指輪の中に閉じ込められ、私と出会うまで一人でずっと耐えていた。私はそんな彼女こそ報われてほしいと思っている」
穏やかに優しく私に問いかけてくる。私は悪役令嬢にまで情けをかけられ同情されている。
言っている内容は「テメーだけが被害者じゃない」っていう事だが、それがまるで私を哀れむような言い方で余計に自分が情けなくなる。
「あの男はこの後に絶対私達に接触してくると思う。その時にコレを突き返して貴女を何とかするように言うわ、勝手に人の人生を弄ぶなと糾弾すると約束するし、ちゃんと責任をとってもらう」
悪役令嬢が知ったような口を聞く、お前が言う男は自称神でこの世界を作った、たかだか登場人物のモブに過ぎないアンタに何ができるというんだ・・・
だから私をそんな目で見るな!!
「出来る事なら貴女自身の手でこの指輪をはめて欲しい、それで終わらせて欲しい」
穏やかな口調で指輪を手渡される。
悪役令嬢は私の事を恨んでいるはず、中身が入れ替わったらこの指輪は私みたいに海に捨てるだろうな。復讐するに決まっている・・・
私だったら・・・
人に恨まれるのは辛い、復讐されるのは嫌だ。
だけどもう・・・気を張るのは疲れた。
「・・・ごめんなさい」
何とか最後の言葉を言えた、何に謝ったかは自分でも分からない、だけどその場にいる全てにむけての言葉なのか、酷い目にあわせてしまった悪役令嬢へなのか、それとも体を奪ってしまったフランシソアへなのか・・・
もしかしたら指輪を捨てずに所持していればこんな未来にならなかったのかな?
色々と考えていると意識が暗い海の底に沈められていくようだ。
次第に私が私では無くなっていく・・・
『よお、ゲームオーバーだな?』
自称神が私に話しかけてくる、黒くモヤモヤした姿をしている。
「アンタは本当に酷い奴だ、アンタのせいで無茶苦茶だよ!」
横たわる私に覗き込むような黒い物体、表情はないが笑っているようだ。
『ははは、傲慢、強欲の成れの果ての結末だ。自業自得、お前が悪い。最後の最後でギリギリ己の非を認めれたのは評価してやるがな』
物凄く上から目線だ。ムカつくから1発殴ってやりたい。
「結局アンタは何者なのよ、これからずっとこの空間の中にいる事になるんでしょ?少しくらいは教えてよ」
『ふふふ、私は単なる神様だよ。それとお前はここにずっといる事はない』
は?フランシソアみたいにずっとここに閉じ込められるんじゃないの?
『ほら。彼女達は復讐もかねて海に投げ捨てれば良いものを、思いっ切り突き返されたよ。責任とれってね』
私に緑色の真珠の指輪を見せてくる。まさか、悪役令嬢は本当に約束を守ったの?
本物のお人好しなのか?あれだけ酷い目に遭わせたのに?馬鹿なの・・・
『おや?人でなしでも泣くのかい?』
いちいちムカつく言い方をする。
『責任を取れと言われたからね、罰を与えるのが筋だけど多少の事は目をつぶってやろう』
そう言われると再び意識が薄れていく。
眩しい・・・見上げるのはどこかで見たことのある天井だ。
「ここは・・・」
「えっ!!??」
声を出すと誰かが反応する。カーテンのようなものを開くと知らない女性が私を覗いてくる。
「鳴瀬千尋さん?分かりますか?ここは病院ですよ。大丈夫ですか?」
この姿に見覚えがある。前世で看護師と呼ばれる人だ。・・・え!?私の事を鳴瀬千尋と呼んだ?
起きあがろうとすると力が入らない。
「落ち着いてください、すぐに先生と親御さんを呼んできます」
看護師が私を落ち着かせ、急いで部屋から出て行く。もしかして今までのは夢だったのか?
・・・でも手には何かを握っている。起き上がれなくても腕は動くのでその握っているものを確認する。
「・・・夢じゃないか」
私の手の中には例の緑色の真珠の指輪があった。きっとあの自称神の嫌がらせなんだろうな、夢じゃなくて実際にあったんだって覚えさせたいんだろう。
あれから病院の医者が来て体を診られ、私の両親が来て泣かれまくって慌ただしかった。
だけど皆の話をまとめると、20歳だった私はすでに34歳になっていた。
14年間も寝たきりになっていたらしく、見るも無惨な姿になっており、体は痩せ細り、顔はすっかり老け込み、体力は落ちて一人で何も出来なくなっていた。
そして例の臨床実験のバイトだが、他にも被害者がいるらしく早々に目を覚ました人から未だに寝たきりの人もいるらしい。だけどあの施設も何もかも警察の捜査が入る頃にはもぬけの殻になっており、捜査は迷宮入りしてしまったという。
目が覚めたら14年後という浦島太郎状態だ、アイツが言っていた罰とはこれの事なんだろう。
まあ、玉手箱のかわりに緑色の真珠の指輪をお土産に持たされてしまったけどね。
後は14年というハンデをこれからどうするか悩むところだ、大学は退学扱いになっているし、体力を戻すためにリハビリしなくてはならない、これからどうするかも考えないといけない。
だけどそれらはそんなに悲観的な気分にはさせなかった。なんと言っても元の世界に戻ってこれた、それだけで本当に十分だ。きっとフランシソアも元の体に戻って同じことを思っているかもしれない。
ふと私の手の中にある指輪を見る。
きっと私が体験した事は誰も信じてくれないだろう、臨床実験で夢を見ていたと言われるのがオチだろうな。
私以外にも実験に参加した人がいたはず、もしかしたらまだ眠っている人はあの世界にいるかもしれない。何とか実験に参加した人と会えないかな?いや、それ以前に私は自分のことで精一杯だ。
なのでそれはいつか先の未来の話になると思う。
読んでいただきありがとうございました。
チヒロに関しては賛否あるかもしれませんが、これが私なりに当初から考えていた着地点かなと思ってます。
次週で最終回を迎える予定です、どうか最後までお付き合いお願いします。




