61. 完璧なヒロイン(チヒロ視点)
ーーチヒローー
これはゲームの世界なのか?
自分の頬をつねってみる、痛いから現実なんだろう。
誰かの為に自分を犠牲にする。
漫画やゲームならきっと美談としてカッコ良いとか言って語られるんだろうな。
でもいざ自分がその立ち位置にいると、私はその選択肢を選ぶ事が出来るのだろうか?
いや、私には無理だ。
知らない人の為に自分の命をかけるなんて絶対に出来ない。
そもそも私は勝手に連れてこられた被害者なんだ、全部あの自称神が悪いのであって、なんで私が犠牲にならないといけないんだ。
まるで悪魔と契約した気分だ。
アイツの思惑通りに進んでいるみたいで不本意だけど、私が生きる為に必要な犠牲なんだと自分自身を納得させるしかなかった。
だからその日の夜・・・私は1人橋の上に立っていた。
「私の声は聞こえているかな?」
「私が代わりにフランシソアをやってあげる、だから安心してどっか行ってて。きっとどこかで新しい寄生先が見つかるよ」
わざわざ買ってきた指輪ケースを取り出す。緑色の真珠なんて珍しいから捨てるのは勿体ない気もするけど・・・
指輪をケースの中に入れる。
それを接着剤で厳重に封印する。
そして、そのまま河に投げ捨てた。
何でだろう、全然罪悪感を感じない・・・私を脅かす存在がいなくなったから?それともゲームの世界の中だから?相手がどこの誰かも知らない人だから?それとも指輪の姿をしているから?
どれだけ考えてもその理由は分からなかった。
翌朝、私がの部屋の机の上に一冊のノートが置かれていた。
「どうやら約束を守るつもりはあるみたい」
つい独り言が漏れてしまう。ノートを手に取って中を見ると白紙で真っさらだ。
『プラクティスノート』
このゲームで手に入る課金アイテムだ。逆ハーレムルートを進む場合、攻略するのに必要不可欠なアイテムで、これ無しで完全攻略するのは不可能と言われている程だ。
効果は単純だ。能力ポイントの経験値が2倍貰えるだけなのだが、逆ハーレムルートでは様々な恋愛イベントを5人分こなしながら能力を上げないといけないのだが、それが滅茶苦茶シビアだったりする。
「これさえあれば何とかなる」
この時点で私は、単にゲームを攻略する事に固執していた。
「いい加減にして、私達は婚約しているのですよ!」
「グラン、目を覚まして!」
「違う、わ、私はやっていない」
高慢な悪役令嬢が追い詰められていくのを眺めていた。
周囲から孤立し、婚約者であった王太子グランから冷たくあしらわれ、幼馴染であったはずのミシェイル達からも冷たい視線で見られている。
悪役令嬢を学力成績でもコテンパンに打ちのめした。そして有り余る体力を見せつけ、自慢の魅力で周囲をメロメロにし、お菓子を皆に配ったら誰もが私の味方をしてくれた。
完膚なきまでに叩きのめしてやった。生意気な命令口調も影を潜め、みんながあの子を蔑んでいる。
「悪役って大変ね、ご苦労様」
つい優しい言葉をかけた時の彼女の悔しそうな顔は今でも忘れられない。
その後は本当にストーリー通りだった。
夏の夜会で彼女は周囲の見ている前で断罪された。
グランやミシェイル達が周囲の人間を味方にし、一方的に悪役令嬢を押さえつけて悪事を自白させた。気が付かなかったけど色々と悪事をしていたみたいだ。
あまりの負け犬具合に少しだけ気の毒になってしまったが、ストーリー通りなので仕方がないのだろう。
それ以降、悪役令嬢は私の前に姿を見せる事はなかった。
「キシリアナ=ローゼリアが死んだらしい・・・それも・・・暗殺された」
サイスが青い顔でやって来た。グランもミシェイルもお互いの顔を見合って青い顔をしている。
「ふーん、暗殺されるんだ」
つい口に出てしまった、確かストーリーでは国外追放だったはずなのに。
コテンパンに打ちのめされたあげくに殺されるなんて、こんな救いのないストーリーだったっけ?
待てよ・・・悪役令嬢ったキシリアナ=ローゼリアという名前だったのか。
「ローゼリア?・・・」
「あっ、それで反乱を起こすんだ!!」
その重要性にようやく気がついて大声をあげてしまった。周囲の視線に気がついて恥ずかしくなり、急いでその場を離れる。
『アメリアに花束を〜2』の敵はローゼリア侯爵だ。確か王家に酷い憎しみを抱き、私の暗殺を画策した悪役だ。
確か悪の組織「赫の蠍」と手を結び、後に退位するアイラス王を唆して王位についたグランと対立させ、国を二分する内乱を引き起こしたんだった。
結局は反乱を起こした理由は娘の仇討ちだった訳か。
参ったな、ちゃんと2と3のストーリーを思い出さなきゃいけない。あそこまで追い詰めなければ反乱を起こさないという展開になったかもしれないと少しだけ後悔する。
ただシナリオの強制力っていうのもあるのかもしれない、私が手を下さなくても勝手に没落していく悪役令嬢の姿を見てそれを感じていた。
その後のシナリオは予定調和で、すんなりと進んでいった。
アメリア王国の建国祭にあたる「花の宴」で起こるテロを無事に防ぎ、私はこの国の英雄の1人に数えられる事となった。
そしてその後に王太子のグランからプロポーズされる。だが逆ハーレムルートを進むにはこれを断らないといけない。
その後はミシェイル、サイスと次々とプロポーズをしてくるが、それらも全て断らないといけない。
ここでパラメーターが一つでも足りないと誰とも結ばれないルートとなって国を守るために死ぬことになる。だけど今の私は課金アイテムできっと大丈夫なはず・・・
「ダメだ、やはり諦められない!!」
「俺も諦めれない」
「愛しているんだ!!」
こうやって再度プロポーズを申し込まれる、それも全員だ。
こうして私は5人の男から愛される完璧なヒロインとなった。
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次話の投稿は土曜日になる予定です。




