57.彼女がした選択は
今が選択する時・・・
「私は甘い、其方が改心し良き王として立ち直って欲しいとずっと願っていた」
前王様の心中を察すると辛い、それでも毅然としてグランの前に立つ。
「だが、か弱い女性であるキシリアナに暴行し、よく仕えていたという宮女に手を上げ、その醜態を大勢の前に晒してしまった・・・」
グランの顔色がどんどん青ざめていく。
「このまま虚しく抗い続けるか、潔くその座から降りるか、もうそこまで選択肢は狭まっている。何度も言うが私は甘い、この後に及んでまだ其方に選ばせようとしている、その意味をしっかり理解して欲しい」
座り込んでいるグランに腰を落として視線の高さを合わせる。
「其方がこのまま王位に居座れば必ず内乱が引き起こされる。今の現状を見れば分かるはずだ、貴族達は不満を抱き、国軍は我が物顔で王宮を歩き、それに対して何も言わぬ王。このままの状態を放置すれば、いずれは国が分裂し、多くの人々を苦しませ続ける内戦へと発展するのが目に見えている」
・・・と言ってもグランの言う事を軍が聞くとは思えない。
ここにいる全員がそう思っていそうだ。
「先程アーレイトから詳しい話を聞いたが、赫の蠍がウェンブリー王国を意のままにした手法とよく似ている。奴らの手法とは第二王妃に近づいて諸貴族との溝を深め、対立を煽って内乱状態にするというモノらしい。今の我が国と類似していると思わないか?ただし、この国には己の信念を持って戦う者達がいた、それが彼の国との違いだろうな」
前王様が含みのある言い方をして私達を見る、何か滅茶苦茶恥ずかしくなる。
そして今度は振り返ってディランド将軍を見る。
「ディランド将軍よ。この国には其方が必要だ、まだその地位を去らせる訳にはいかぬ。分かっているな?」
するとディランド将軍はその場に跪く、どうやらこれ以上の戦いをするつもりはないようだ。
「そしてフランシソア妃・・・いや、チヒロと呼んだ方が良いのか?」
小さくビクッとしながら王妃がこっちを見る。
「指輪をはめなさい。我々はそこにいるキシリアナを通して本物のフランシソアと会っている。本来あるべき姿に戻してくれないか?」
前王様の言葉に青ざめて小刻みに震えている。
「・・・私は被害者なの、変な神と名乗る男が勝手に私をここに連れてきて、フランシソアの体に私を入れて、全て丸投げで放置したからいけないのよ!私は悪くない!私は必死に生きてきただけよ!」
王妃の言葉が虚しく響く、彼女の言葉をまるで狂言を聞いているようで全く耳を貸してない。
だけど必死に生きてきたという言葉には共感できる気がする。
「・・・私がここに来た原因を作ったのはその神と名乗る男です」
私とフランシソアを出会わせ、全てを狂わせた元凶だ。王妃の前に立つと怯えるような瞳で私を見据える。
この指輪を法外な値段で私に買わせ、借金まみれにさせて生活苦に追い込んだ諸悪の元凶だ。こいつが素直に指輪をタダで譲っていれば苦労せずに済んだのに!そんな恨み節を心の奥底で叫びつつ王妃の方を向く。
「貴女が被害者というのは何となく理解はできる、私達もその神と名乗る男に運命を狂わされて翻弄されたのだから」
本当にあの詐欺神にはどうやって落とし前をつけさせるべきか、今でもあの顔を思い出すとムカムカする。
「だけど私達も被害者であり、その中でも人生のほぼ全てを棒に振ってしまったフランシソアが一番の被害者だと思う。ずっと指輪の中に閉じ込められ、私と出会うまで一人でずっと耐えていた。私はそんな彼女こそ報われてほしいと思っている」
さっきヨヒムから受け取ったグリーンパールの指輪を王妃に見せる。
「あの男はこの後に絶対私達に接触してくると思う。その時にコレを突き返して貴女を何とかするように言うわ、勝手に人の人生を弄ぶなと糾弾すると約束するし、ちゃんと責任をとってもらう」
過去に自分がやられて嫌だったから手荒な事はしたくない、それにその体はフランシソアのモノなんだから傷つけたくない。
「出来る事なら貴女自身の手でこの指輪をはめて欲しい、それで終わらせて欲しい」
王妃の手の平に指輪を置く、どうか私の気持ちを汲み取って欲しい。
「・・・私は貴女には酷い事をした。私は恨まれても仕方がない事をしている、貴女は私に復讐してもおかしくないはず、そんな貴女の言葉を信じろっていうの?良い人ぶっているつもり?」
ここに来てまだ悪態をついている、だけどその声は震えている。彼女の顔を見ると目には涙を溜めており、苦しそうな表情をしている。
指輪を両手で大事に抱き抱え、投げ捨てるような様子は見せない。
「・・・ごめんなさい」
王妃がポロポロ涙をこぼして小さく呟く。
そして自らの手で指輪をはめる。
すると王妃はそのまま意識を失ったように倒れ込む、私は急いで抱き抱えようとするが右手が折れているので上手く力が入らずに一緒に倒れ込んでしまった。
「痛たた」
何とか私が下敷きになる事で怪我せずに済んだ。王妃は私に覆い被さる状態になっている。
「あ り がとう」
私に抱きつくように手に力が入る。
「ありがとう、キア、ありがとう、ありがとう」
小刻みに震えながら涙ぐんだ声でありがとうと呟く。
「フランシソア・・・元に戻れた?」
「うん・・・」
フランシソアはしばらく私に抱きついたまま動こうとしなかった、近すぎて分からないけど小刻みに震え、静かに泣いているようだ。
ただ重たいし、床は大理石の固い床だし、女同士で抱き合う趣味はないのでそろそろ解放して欲しかったりする。
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日なる予定です、もう少しすれば書く時間が確保できそうなので複数話投稿できると思います。




