56.王家が王である意味
「俺が王子だと?何を言っている」
お兄様の言葉にディランド将軍は訝しむ目を向ける。
「間違いなくディランド将軍とリコはウェンブリー王の第三妃の子だ。実はウェンブリー王国の第二妃と赫の蠍が繋がっていてね、君達は幼い頃に調略によって薬を飲まされて国外に攫われてしまったんだよ」
リコまで唖然としている。
「ちょっと待って。な、なんでアーレイトが?妹のために来たの?ありえないわ!冷君のアーレイトは妹に無頓着だったはずよ!」
王妃が狼狽えて、お兄様に対して失礼極まりない事を言い出す。
「おや?初めましてなのに私の事を良くご存知のようだな?」
冷淡に笑うお兄様が怖い、これは明らかに怒っている時に見せる顔だ。
「ローゼリア家を舐めすぎかな?当家の一員であるリコの事を調べない訳がないだろ?と言っても出自を知ったのはディランド将軍を調べ始めてようやく真相に辿り着いたんだけどね。その銀細工の時計もウェンブリー王室御用達のモノらしいよ」
ディランドとリコが持っている銀時計を指差す。
「わ、若様・・・私は」
リコが不安そうにお兄様を見ている。するとさっきまでの冷淡な笑いから、私達に向けるような愛情にあふれた笑顔を向ける。
「安心しなさいリコ、すでにウェンブリー王室は赫の蠍によって滅ぼされている。黒幕の第二妃はすでに処刑されているし、ウェンブリーは滅んで新たな連邦議会国家が発足している。今さら接触はしてこないと思うし、何かあればローゼリア家が必ずリコを守ると誓おう、これはキシリアナを守れなかった私達への戒めでもある」
素敵な笑顔にリコは今にも泣きそうな顔をしている。
「リコは亡国の王女リコルシェ=ウェンブリーだが、ローゼリア侯爵家の一員のリコでもあり、ローゼリア家の守護神バランの娘だ。それは誰に何を言われても覆らない事実だ。そういう事だがディランド将軍?どうするつもりかな?」
すでに戦意を失っているディランド将軍は何も言わずに俯いている。
「こんなのおかしいわ!全然シナリオと違うじゃない!」
「シナリオねぇ・・・」
狼狽える王妃とは正反対に含み笑いを見せるお兄様。
「キシリアナ!その腕はどうしたんだ!?」
ここで私の腕を見てお父様が駆け寄ってくる。そう言えば私の右腕は脱臼して骨折しているんだった、色々ありすぎて忘れていた。
「大丈夫です。まだ痛いですけどリコが治療してくれました」
「いえ、応急処置です!ちゃんと医者に診せて下さい!!」
リコに怒られてしまった。
「グラン・・・」
お兄様が小さく呟き、ロープで雑に縛られているグランを見下ろしている。
「アーレイト・・・貴様らはやはり謀っていたか」
往生際悪くグランはお兄様を睨みつける。そう言えばお兄様は大所帯で王宮へやって来ている、全員が貴族っぽく、見知った顔も数人いる。
「陛下、お久しぶりです」
お兄様ではなく隣にいる少年が口を開く、身なりから分かるが間違いなく高貴な貴族出身と思われる。
「マルクス=ヘンリー・・・」
グランが呟く、マルクス=ヘンリー・・・ヘンリー?そう言えば若手貴族が集まって王侯貴族出身のヘンリー公爵家の次男を担ぐような事を言っていたな、まさかのご本人?
「な、何で2の攻略対象のマルクスがここで出てくるの?」
再び王妃が訳の分からない言葉を呟く、2の攻略対象とはいったいどういう意味なんだ?
「どうしてマルクス=ヘンリーがここにいる!?どういう事だ!やはりローゼリア家は俺を陥れようとしているんじゃないか!!おい!早く此奴らを捕えろ!!反逆者共が目の前に集っているのだぞ!おい、ディランド将軍!奴らをやれ!!」
・・・
「何をしている!俺の言う事が聞けないのか!!」
・・・
「おい・・・」
喚き立てるグランの大声だけが響き渡る。誰も何も発しない、次第にグランの声が尻つぼみに小さくなっていく。
「グランよ、そろそろ気づきなさい」
前王様が哀れむように前に立つ。
「王は権威を常に示し続けなくてはならない。今の其方の姿を見て誰が跪く?」
前王様の言葉を聞いて顔を上げて周囲を見渡す。グランの言葉に対して動こうとする人はいない、さっきまでつき従っていた王宮の従女達も固まっている。いや、エリナを殴ったのを目の前で目撃しているので少しだけ蔑みを含んでいる気がする。軍の兵士達もディランド将軍に従っていただけだ、ディランド将軍が戦意を喪失した為、動こうとする者は誰もいない。
さっきまでの威勢は無くなり、次第に顔色が悪くなっていく。
本来なら誰もがその声に耳を傾け、誰もが跪くのが国王という権威だ。
だけど誰も何も発しない、誰も言うことに耳を傾けない、誰も動かない。
残酷な現実をグランはようやく気がついたようだ。
「分からぬか?今のアメリア王家は存亡の危機に瀕しているのだ。国王という権威を示し続けなければ誰も付いてこない、国民の前に出てその姿を見せ続け、多くの貴族をまとめる長でなければならないのだ。それを怠れば権威は失墜し、王家が王である意味が無くなってしまうのだ」
優しく諭すように前王様がグランの肩を叩く。
「以前、平民の女性と話す機会があった。その時に聞いた事に愕然とした、アメリア王国の国王の顔を知らない、王妃の顔を知らない、結婚した事さえ知られていない」
前王様の言葉にヨヒムとクララがビクッとする。まあ、メダリアの街で暮らしていれば外からの情報は入りにくいから仕方ないと思うよ。それに王都の人達は王妃の顔を知っていたはずだし。
「グランよ、今が選択する時だ」
今回も1話のみの投稿になってしまいます。
仕事をしながらなので、おそらく盆休みまでは書く時間が無さそうです、休暇になれば書けれると思うのでよろしくお願いします。
一応は来週の土曜日に次話を投稿する予定です。




