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55.10年前

 10年前にいったい何があったんだ?


 10年前、私は婚約を破棄され、居場所を失って王都から逃げ出した。本来ならメダリアの街から外国へ脱出する予定だったが、私が予期せぬ行動をしてしまったので死んだ事になってしまった。

 メダリアは自治都市なのでほとんど外の情報を得る事が出来なかった。なので私は実際に王都で何があったかを全然知らない。


「10年前、王都で人攫いの闇組織が一斉摘発された。お前さんはその時は新兵か?訓練兵か?は分からんが当時の軍閥長だったハイド卿主導で行われ、かなりの成果を上げたと聞いている」

 リコに支えられてバランが話し出す。そしてよほど疲れたのか床にあぐらをかいてリラックスし始めてしまった。

「摘発を逃れた者達は商品を連れて国外へ逃亡しようとするのが自然だ、やはり先立つ(もの)が欲しいからな。それでハイド卿から各地の国境に面する貴族領に協力のお達しがあってな、勿論ローゼリア家も国境に面しているから協力要請がきた。だが当時のローゼリア家は王家に酷い扱いを受けて来たからそんなものに協力する義理も余裕も無かった、ただローゼリア家はハイド卿に世話になったからな、お館様が手が空かないから若様から直接頼まれてな、俺だけ探索に協力した」

 王家に酷い扱いか、私が婚約破棄されて荒れていた時だな。ところで若様ってお兄様の事か?

「そこで偶然、国境を抜けようとするキナ臭い一家を見つけてな。俺は1人モンだから家族を知らないが、笑わない3人の子供が寄り添って怯えているのを見つけてな、不穏に思って調べたら見事に人攫いの構成員だったわ。上手い具合に犯人を生捕(いけどり)に出来て、子供達も怪我なく保護できたんだ。そしてその中にリコがいた。幸いな事に人攫いの犯人どもは最初から降伏状態だったからな、子供達の情報も全て白状したよ」

 バランが懐かしむように語る、一方の王妃は青い顔をして震えている。

「お、おかしいわ!リコルシェは一度国外に連れ出されないといけないのよ!!ローゼリアで保護されるなんてシナリオからかけ離れているわ!」

 王妃が突然大声をあげる、バランは呆れた様子でそれを無視して続きを話し出す。

「他の子供達は身元が分かって親元に返す事が出来たが、リコだけどうしても身元が分からなくてな、リコ本人も自分の名前さえも分かってなかったんだ、それで唯一の所持品だった銀時計に刻まれていたリコ何とかっていう字を見て、リコと名付けて俺が引き取った。何だろうな、お嬢が死んだという情報が出回って、俺の中に考え方が変わった思う。俺のような1人モンでも家族を持ちたいと思ったんだろうな」

 バランがリコを優しく撫でる、その姿は本物の親子にしか見えなかった。


「・・・俺も親は知らない」

 ディランド将軍はすでに剣を納めていた。

「俺は10歳で人を殺した・・・最初はオークションにかけられる前にこれで絞め殺した」

 銀時計のチェーンを握っている。その表情を見るとゾッとするほど闇深いものだった。

「人攫い、人身売買の闇組織は赫の蠍の傘下の組織だ。俺はソイツらの目を盗んで逃げ出した。勿論、組織からの追っ手が来た、それを逃げながら1人1人確実に殺していった、最終的にその時に何人殺したかは覚えていない。だが運が良い事に、逃げ延びた先が軍隊の駐屯地で、そこで父と出会った」

 父というのはシャフタール卿の事だろう、確か生粋の軍人だと聞いている。

「父は俺が何人も殺した事に気がついていた。なので引き取ったのだろう、引き取られた後は訓練に明け暮れながら自分の出自(しゅつじ)を調べた、組織のアジトに忍び込んで名簿を手に入れ、自分がこの国の人間ではない事も知った」


・・・この人、おかしくない?とても10代の行動力じゃないよ。


「そして、自分に妹がいる事を知った・・・俺の名の下にリコルシェという名があり妹と記述されていた。ただ手がかりのも何もない中を模索するしかなくて、何の成果もなく唯一の手がかりである赫の蠍を狩る事しか出来なかった。そうしたらいつの間にか今の地位になっていた」

 軍の若き英雄にそんな過去があったのか。

「そんな時に王妃陛下が俺に近づいて来た・・・俺しか知らない妹の名前を知っており、妹が俺と同じ銀時計を持っているという情報を渡して来た。リコルシェは国外に連れ出され、赫の蠍の構成員としてローゼリア領のどこかに潜伏していると具体的な内容をまるで見て来たかのように話してきた」

 王妃の顔色がどんどん悪くなっていく。おそらくシナリオを知っていると言っていた、そのシナリオの中での事を話したのだろう。

「最初は怪しんでいたが、全てを知っていると言う確信めいた自信と、俺に何も情報が手に入っていない状況から協力をする事にした。そして互いを利用しあう協力関係を結んだ」

 やはりあの時の直感は当たっていた、王妃とのディランド将軍は恋愛関係では無かった。何らかの協力関係だと思っていたが情報の提供と引き換えに護衛をさせていたのか。



「ディランド=シャフタール将軍。いや、ディランドル=ウェンブリーが君の本名だよ」

 ここで王宮の入口の方から聞き覚えある声がする。

「・・・お兄様!!??」

 前王様、お父様達と一緒に私の兄であるアーレイト=ローゼリアが歩いて来た。そして後ろには多くの人を引き連れている。見たことのある顔もあり、この人達は若手の貴族ばかりじゃないのか?


「もう一度言おう、君の本名はディランドル=ウェンブリー、西の山岳国家ウェンブリーの第3王子だよ」

 ディランド将軍を真っ直ぐ見据えながらお兄様が笑顔を向ける。

読んでいただきありがとうございます。

私が忙しくなってしまい全く書けませんでした。なので今回は1話のみの投稿です。

次話の投稿は来週になると思います。

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