54.リコルシェ
「何とか取り戻せたな」
ヨヒムがバレリーのロープを持ってくる。
「ふざけるな!!貴様ら全員不敬罪で斬り殺してやる!!」
喚き散らすグランをみんなで縛る。国王にこんな事して良いのか知らないけど、これが終わったらすぐにメダリアに逃げてやる。
「父さん!!」
ここでリコの悲痛な声が聞こえてくる。その声の方を向くと傷だらけのバランが膝をついている。
「このまま嬲り殺されるか・・・軍の汚点の最後はこんなものか」
ディランド=シャフタール将軍が冷たい表情でボロボロになったバランを見据えている。
そして高く振り上げた剣を振り下ろす、バランはそれを何とか受け止める。しかしその力に圧倒され、ジリジリと押し込まれていく。
ゴッ!!
「ふぐぅっ!」
抵抗すべく力を込めようとする、するとディランド将軍の尖った靴がバランの腹に深く刺さり、遠くへ吹き飛ばされてしまう。
腹を押さえて悶絶する、ディランド将軍はトドメを刺すべく悠然と近づいていく。
「・・・父さんは死なせない」
いつの間にかリコがディランド将軍とバランの間に立つ。そしてナイフを構えていつでも投げれるような体勢をとる。
「決闘の一対一に割って入るか、その意味を知っているか?百獣の王バランの名声も悪名も、築き上げた全てを否定する行為だぞ?」
切先をリコに向ける。
「分かっている!だけど、父さんとまだまだ一杯一緒にいたい、だから」
ガキンッ!
目にも見えないスピードのディランド将軍の剣戟がリコのナイフを弾き飛ばす。
「その男はここで死ぬ事に意味がある」
冷たい視線がリコを射抜く、それでもリコは引こうとしない。
「そんな事になれば私はアンタを・・・憎む事しか出来なくなる!私はアンタを殺す事を生きる糧にしか出来なくなる!!」
青ざめながらもリコはディランド将軍を見据える。足は細かく震え、殺気に対して必死に抵抗しているのが分かる。
「・・・ならば復讐の芽を摘むだけだ。親子共々斬り捨てる」
くそ、あっちはもっとピンチじゃん!どうしよう、私が行っても何か出来るのか?この距離では何も出来ない、既にディランド将軍は剣を振り下ろそうとしている。
「・・・・」
「・・・」
「・・・」
時が止まったような静寂が広がる。惨劇に目を瞑ってしまったけど、あまりの静かさに目を開ける。そこにはリコを庇うように抱き抱えるバランがおり、なぜか剣をギリギリで止めたディランド将軍の姿があった。
「・・・なぜお前がその時計を持っている?」
さっきまでの冷たい表情からは考えられないような動揺した表情をしている。薄着になったリコの胸元にある銀の懐中時計を凝視している。
「・・・まさか、リコルシェなの?何でここにいるの!?」
王妃まで固まっている、そしてリコの事をリコルシェと呼ぶ。
「リコルシェなのか?」
ディランド将軍の言葉にリコは首を横に振る。
「私はリコだ!リコルシェなんていう名前じゃない」
リコが断固として否定する、リコとリコルシェ?確かに響きは似ているけど。
するとディランド将軍は自分の首にかけている銀色の何かを取り出す。
「・・・時計?」
リコの表情が固くなる、私もその時計に見覚えがある。
リコも自分の持つ銀色の懐中時計を取り出す、全く同じ装飾がなされていて非常に似ている。
「リコルシェ・・・」
「違う!私はリコだ!!ローゼリア家の領兵長バランの娘のリコだ!!リコルシェなんかじゃない!!」
食い気味に拒絶し、バランの剣を握るとディランド将軍に振り上げようとする。しかしその剣はそのまま動くことはなかった、リコを抱き抱えるバランが手を押さえて阻止する。
「・・・よせ、俺は負けたんだ、お前まで命を捨てるな。武器を手にすれば敵認定される、そうなると絶対に手加減はしない、それが決闘のルールだ」
「まだ父さんは負けてない!!」
泣きながらリコはバランに抱きつく。駄々をこねるように涙を流す。
「・・・シャフタール将軍よ、俺の負けだ、ここまで手も足も出なかったら逆に清々しいくらいだ」
リコから剣を取り戻すと目の前に置く。
「決闘のルールだ、俺の命と引き換えにこれ以上の命を奪ってくれるなよ」
「ダメ!やめて!!」
リコはバランをどうしても離さないようだ。どうすれば良いんだ?あの冷徹なディランド将軍が融通を利かすとは思えないけど、
・・・ディランド将軍が戸惑っている?
「・・・俺を騙したのか?」
突然ディランド将軍が王妃を鋭く睨む。
「人身売買されてローゼリアに連れてかれたと言っていたな。奴隷として赫の蠍の少年兵として働かされているのではないのか!?」
ディランド将軍の言葉に王妃は狼狽え始める。
「そ、そんなはずはない、シナリオ通りなら赫の蠍の頭目のバランが貴方に殺され、少年兵らは解放されて王都に流れ着くはずなのに・・・」
王妃は小刻みに震えて言い訳をしている。
「人身売買の人攫いからリコを助けたのは本当だ・・・銀の時計は保護した時に大事にリコが持っていた物だ」
バランがリコとの出会いを語り出す。
「10年前、王都で人攫いの闇組織が一切摘発され、居場所を失って国外逃亡しようとしていたのを、ハイド卿からの申請でローゼリア領内で捕らえたのだ。その中の子供にリコもいた。ただリコだけ身寄りが分からなくてな、俺が引き取って育てた」
バランの言葉を聞いて王妃は震えだし、ディランド将軍は唇を噛み締めている。
・・・10年前?
私が追放された時に何かがあったの?
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日になる予定ですが、忙しくなってしまい間に合わない可能性があります。
終盤なので出来る限りペースは守りたいとは思いますが、ご理解の程よろしくお願いさます。




