52.無双する大鷹
少しだけ暴力的な表現があります。
「無礼者!王族に対してなんたる非礼!!許さんぞ!!」
私達が王妃を追い詰めると現国王のグランが顔を真っ赤にしながら食いかかってくる。
「くそ、あのバカ王、殴ってやりたい」
毒づくバレリーが小声で睨みつける。
「私ならタマを潰す・・・」
バレリー以上の毒を吐くクララが射殺さんばかりの冷たい視線を向けている。
この2人怖いよ。
「ちょ、止めなさい!離しなさい!!」
「大人しくして下さい」
さすがにバランがやると不味いと思ったのか、リコが王妃を押さえつける。
「お嬢、早くやれ」
バランに促されて指輪を外す、以前みたいに拒否される事なくすんなりと外れた。
「止めて!何で私がこんな目にあうのよ!!私は巻き込まれた被害者なのよ!!こんな理不尽な目にあうなんて許さない!!」
どうしても指輪をはめることを拒絶する。
「絶対に許さない、クソみたいな神も、言う事聞かないクソモブも、突然放り捨てられたクソみたいな世界も、全部許さない!!絶対に許さない!!クソゲーが!!全部死ねクソやろ、ムグゥゥ!」
汚い罵詈雑言を叫ぶ、あまりの醜態に見てられなくなったのかバランが王妃の口に指を突っ込んで黙らせる。
「早くやってくれお嬢、汚い言葉を聞くのは耐えられん」
哀れむような視線を向ける、この女も本当なら被害者なんだよね。同情してはいけないけど、気の毒には思う。
「悪いけど、アンタはやり過ぎだよ」
指輪を王妃にはめようと手を伸ばす、これで全てが終わると信じたい。
ドゴッ!!!
後ろから巨大な塊が飛んでくる。その異常な光景に目を奪われてしまい手が止まる。
「ゲインツ!!??」
へばりつくように壁から動かない、あまりの衝撃に泡を吹いて気を失っている。
ゴキッ!!
次の瞬間、私の腕に激痛が走る、何事かと思って視線を戻す。
するとそこには先程までお父様達側にいたはずの男が目の前に立っていた。若き大鷹と称される英雄ディランド=シャフタール将軍が殺気をおびた冷たい顔で手に持つ剣を振り下ろした後だった・・・
恐る恐る自分の腕を見る・・・
変な方向に曲がった右腕が力なくぶら下がっている。
「いやああああああああああああ!!!!」
あまりの激痛に言葉にならない悲鳴をあげ倒れ込む、目からは痛みで涙が溢れ出てきて上手く呼吸が出来ず、身動きが取れなくなってしまう。
「貴様ぁ!!!」
バランの怒声が響き渡り、持っていた剣を振り回して距離を取る。
「お嬢様!」
ベベルとロナがすぐに駆け寄ってきて私の腕を確認する。そして王妃を拘束していたリコも駆け寄ってくる。
「落ち着いて!!折れて脱臼しているだけよ!切断されてないから大丈夫!」
全然大丈夫じゃない!!
それでもリコは慌てずに、どす黒く紫色に変色していく私の腕に何やら薬を塗りつける、そして足元に落ちている弓矢を拾って当て木にする。リコが着ていた上着を脱ぎ、それを強く縛り付けて固定する。痛くて余裕はないけど薄着になったリコは思ったより色っぽい、大人の女なのに15歳の少女に敗北した気分だ。
「は、あは、あははは、やっぱり最強!ざまぁ見ろ悪役が!!」
リコの拘束が解けた王妃はすぐにディランド将軍の後ろへ逃げようとする。
「させるか!」
バレリーがロープを投げて王妃を拘束しようとする。しかしそれを遮るようにディランド将軍が投げられたロープを掴む。
「なっ!?」
ディランド将軍がロープを思いっきり引っ張る、するとバレリーがあまりの力に思いっきり引き寄せられる。
ゴッ!!
バレリーは咄嗟にロープを離す事が出来なかった。力の限り引き寄せられディランド将軍の膝がバレリーのお腹にめり込む。
「ガハッ!」
バレリーがそのまま倒れ込む、そして追い討ちを仕掛けるために剣を振り下ろす。
ガキッ!!
「若いの、少しは年上を敬えよ」
バランが振り下ろした剣を遮る。間一髪でバレリーを助け、防いだ剣でそのまま力の限り振り回す。
あまりの力にディランド将軍は後ろに弾かれ、距離をとる。
「・・・軍の汚点にして最強の伝説を築いた男」
ディランド将軍の冷たい声が聞こえる。鞘から剣を抜いて抜き身の刃を構える。
「そんなもんは全部眉唾もんだ、話半分だけ聞いておけ」
バランも剣を構える、もちろん鞘から剣を抜く事が出来ず圧倒的にこちらが不利だ。
「見せしめだ、今ここでオマエを斬れば全員の心が折れる」
すると一瞬で間合いを詰めてバランに斬りかかる。
「ぐっ!!」
バランがあまりの威力に呻き声をあげる。そして続く連撃も間一髪で防ぐ、それでも手を緩めることなく続く剣戟を振るう。
私の目から見てもバランが劣勢だ、ここまで力の差があるなんて思わなかった。
「おい、腕は大丈夫か?」
ヨヒムが小声で聞いてくる。右腕は折れて痛いは痛いのだがさっきみたいな涙が出るような激痛ではない。
「痛み止めです。少しは痛みが緩和されるはずです」
リコがさっき塗った薬を教えてくれる。顔では笑っているが、心は此処にあらずといった様子だ。その視線は自分の父親のバランとディランド将軍の一騎討ちに向いている。
「おい、バランさんが将軍を抑えている、行くなら今しかないぞ!」
ヨヒムに言われて顔を上げる、王妃はディランド将軍が勝ちそうな一騎討ちに夢中で声援を送っている、まだチャンスの芽を完全に摘まれたわけじゃなさそうだ。
「あれ?指輪は?」
クララが私の手元を見る。あれ?私の手の中にない?必死になって床を探す、すると遠くに指輪があるのを見つける。急いで拾おうとするが一足先に何者かによって拾われる。
「ははは、これか?これを探しているのか?」
すると指輪探して這いつくばっていた私に対し、勝ち誇った顔でグランが私を見下ろしていた。
呼んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日になる予定です。




