51.千載一遇のチャンス
私達は王妃めがけて走り出した。
ヒュン!!
ガキッ!!バキッ!!
何かが飛んで来たと思ったらバランが剣を振り回す。足元には折れた矢が落ちている、2階の通用路に人影があり、きっと弓矢を持った兵士が放ったものだろう。それにしても放たれた矢を落とすなんて・・・やっぱりバランの強さは別格だ、昔の姿そのまんまだ!!
「バレリーさん!」
「おう!!」
リコとバレリーがタイミングを合わせて王妃側の兵士に襲いかかる。王宮所属の近衛兵達はすでに戦意はなく、あっという間に2人によって制圧される。というかバレリーもこんなに強かったんだ、補佐長って書類仕事ばかりと思っていた。
「うおらぁ!!」
獣のような咆哮と共にバランの太腕のラリアットが軍の兵士に炸裂する。そのまま腕を振り抜くと兵士は遠く離れた壁まで吹き飛んでいった。
「気をつけろ、奴は百獣の王バランだ、元軍所属の悪漢だ!」
「その名で呼ぶなぁ!!」
バランの巨体が宙を舞う。警戒している兵士を押し潰すようにボディプレスを食らわせる。どういう身体能力をしているんだ、その巨体からは想像できないような跳躍力だ。
「父さん!後の事を考えてよ!!」
リコが激怒してバランのフォローをする、倒れ込んでいるバランを攻撃しようとする兵士をリコが牽制する。
「ははは!スマン、スマン。タイマンじゃなかった!」
バランが立ち上がって大笑いをし、リコはそれを見て呆れたように笑っている。この親子はまるで楽しんでいるように戦っている。
「本当に血の繋がった親子みたいだろ?」
バレリーがロープで倒れている兵を拘束しながら呆れている。確かに2人とも息の合った連携でフォローし合っている。
・・・ところでこの人は異様にロープ使いが上手いけど何でなんだ?私がバレリーの持つロープに視線が行っているのに気づかれる、
「ま、まさか、そういった嗜好が・・・」
「は?殺すぞ」
バレリーの殺気のこもった目が怖い、とても元ご主人様に対するものとは思えない。
「百獣の王バラン!貴様によって引導を渡された祖父の仇、今ここで晴らす!!」
ここでバランより体が大きい屈強な兵士が立ちはだかる。一般兵ではなく隊長格っぽいが、どうやらバランの事を知っているような感じだ、
「覚悟しろ!!」
剣を抜いて勢いよく振り下ろす。
バシッ!
バランが隊長と思われる兵の手首あたりを上手く掴んで途中で止める。
「・・・誰だっけか?」
「なっ!?なんだと!」
ゴンッ!!!
頭と頭がぶつかる痛い音がする、あまりに痛そうな音に全員が目を背けてしまう。
そして屈強な兵士が膝から崩れ落ちてしまった。対するバランの方は何事もなかったかのように倒れた兵士を壁の方へ放り投げる。
「祖父の仇って言ってたけど何したの?」
バランの過去を知るであろうバレリーは呆れたようにため息を吐く。
「アイツが軍にいた時は百獣の王と呼ばれていた。それはアイツが一対一専門の最強の豪傑で負け知らずだったからだ。ただ強いのは一対一でな、軍って隊で行動するのがほとんどだろ?」
私に言われても分からない、だけどここにいる軍の人達は数人の小隊で行動している。
「まあ、なんだ・・・規律を重視する軍でバランの奴が活躍するのに狭すぎたんだよ。そのおかげで5人ほど上官を病院送りにして軍を追い出されたんだ。まあ、ハイド卿のおかげでローゼリア家に再就職はできたんだ。だから少なくとも5人かは恨みを買っているな」
バラン!何やってんの!!
「バレリー!違うぞ!!追い出されたんじゃなくて自分から辞めたんだ!!」
私達の会話を聞いていたのかバランが言い訳を始める。
「それに病院送りは6人だ!!」
最低だ!増えてんじゃねえか!!
「父さん!こっちはOKだよ!」
リコが王宮の兵士の最後の1人を無力化する、本当に彼女は15歳なの?相手は武器を持った大人の男性よ?
「バランが仕事辞めてから暇していたからな、徹底的に鍛えたみたいだ」
何のために領軍を辞めたんだよ!女の子に何やってんだ!!
「だけど貯蓄が無くなって軍に復帰したらしい・・・本当は生活費を稼ぐためにリコが軍に入ると言い出したんだけどな」
無職だったのか・・・
「よくあんなにマトモに育ったね」
「マトモかどうか分からないが、ゲインツの嫁がかなり頑張った」
ゲインツが既婚者で本当に良かったよ。
「おい、王妃が逃げるぞ!」
ヨヒムが指さす。軍の兵士に囲われて後方に逃げようとしている。
「弓兵に気をつけろよ」
「うん!」
リコが走り出す。バランが2階の通用路から放たれた弓矢を剣で叩き落とす、その隙を縫ってリコが王妃の後方へ回り込む。
「この小娘が!」
王妃を護衛する兵士が抜き身の剣を振り回す。ただ軍の兵士はやはり強いらしく、さっきまでのように簡単に無効化する事はいかないようだ。
リコが防戦一方になってしまう、というか15歳の女の子相手に大人が何やってんだよ!
「リコ、よくやった!」
その声が聞こえると、巨大な筋肉の塊が突っ込んでくる。
ドゴッ!!
猛スピードの殺人タックルが容赦なく兵士を弾き飛ばす。
「なっ!?」
王妃側を見るとバレリーが王妃を守っていた最後の兵士の首にロープで絞め付ける。どういう原理か知らないけど輪っかになったロープを投げて引っ張ると絞まる仕組みのようだ。
「これでお前さん1人だ」
バランとリコが行手を遮るように立ち、私達は正面から対峙する。
千載一遇のチャンスが訪れた。




