45. 一触即発
グラン陛下と元教え子のエリナとの再会はあまりに想定外すぎた。
結果的にキレてこの国で一番偉い人に罵詈雑言を浴びせまくったけど大丈夫だろうか?
まあ、もう二度と会う事はないから別に良いか。
従者用の通路を進んでいく、すると先行しているリコが身を低くして「待て」の合図する。
指示通り身を低くする、ここからはホールの吹き抜けになっており、少しだけ覗くと下では何やら騒ぎになっているようだ。
入り口側の一団は見覚えがある、前国王様のアイラス陛下、その横に私の父ギルバルト=ローゼリアがおり、お父様の反対側に丸坊主頭で豪奢な口髭を携えた大柄な男性が立っている。この人は見覚えがある、私の横にいるバランを見ると目を細めて懐かしそうに眺めている。
「ボルグのおっさんも変わんねえなあ、元気そうで何よりだ」
そう、彼はバランの恩人で、ローゼリア家にも遊びに来たこともあるボルグ=ハイド卿だ。侯爵位の貴族でありながら元軍閥のトップを勤めた大物で、貴族と軍部の橋渡し的な存在だった人だ。
思い出すのは私が誰よりも強いと思っていたバランを、目の前でボコボコにしたのがハイド卿だ。バランは元々軍所属でその時の直属の上司だったらしく、バランにローゼリア家を紹介したのもハイド卿だという話だ。
ローゼリア家からしたら頭の上がらない人物だけど、それをおくびにも出さない態度で笑う豪奢な人という記憶がある。
「お嬢が亡くなったという話を聞いてな、悲しんで髪を全部剃ったらしいぜ」
バランが思い出して笑っている。
だけど元々髪は薄かった気がするんだけど・・・それは聞かないでおこう。
「お嬢よ、お館様の後ろにいる一際デカい奴が俺の倅だ」
ゲインツが私に小声で教えてくれる。
お父様の後ろにいるデカい男?確かに異様に大きな男が立っている。
「ゲインツより大きくない?」
「体だけな」
息子さんに張り合うように鼻を鳴らす、別に対抗心を抱かなくて良いのに。
「たいしたもんだぞ、今はローゼリアの領兵団の兵長をしている程だ。ゲインツを頭を良くしたと思えばいい」
バランが補足する、何それ?ゲインツを頭良くしたら最強じゃん。
「ふふ、何にせよ自前で全て揃えられるのは良い事だ。この10年間、力を蓄える事が出来た結果だ」
バレリーから笑みが溢れる。そうか、ローゼリア家は国政から距離を取っていた、表舞台から消えていた間、力を蓄える時間がたくさんあった、だからリコやゲインツの息子さんのような優秀な人材がいる訳だ。お父様の後ろにいる兵士達はみんな若者ばかり、しかも屈強でとても強そうだ。
でも一歩間違えれば謀叛などを疑われそうだな。
まあ、お父様とお兄様がそのような迂闊なミスはしないとは思うけど。
再びホール下へ視線を向ける。何やら言い争っている様子だ、と言っても王宮にいる人はみんな前王様の前に平伏している。一方的に前王様側が声を上げているだけだ。
取り敢えず会話に耳を傾けてみる、
「なぜグランはここにいないのだ」
「も、申し訳ありません、呼びに行かせたのですが離宮にいない模様でして」
・・・グラン陛下がいない?
エリナに大人しく離宮の中に待機しているように言ったのに?
「おい、そこのお前。軍の人間だな?」
ここでハイド卿が睨みをきかせる。
「アイラス陛下より聞いていた、本当に軍の人間が王宮に出入りしているのだな。どういうつもりだ?まさかやましい事でも起こそうとしているのか?」
ハイド卿の言葉に圧がこもる、しかし軍人と思われる人達は全く動じる気配がない。
「我々はディランド将軍の命でここにいます。例え前閣下の命であっても動くわけにはまいりません」
・・・凄い、あんな怖いオーラを一身に受けても全く動じていない。
というかハイド卿、滅茶苦茶怖い。遠く離れているこっちまでビビってしまう。
「貴様ぁ、いい度胸だぁ」
ハイド卿がキレて前に出ようとする、それを前王様が手で制する。場は騒然とするがお父様や前王様が何とか落ち着かせようとする。
すると今度は王宮側が騒つき始める。
「お久しぶりです。義父様」
よく通る声がして奥から色気たっぷりの美女が歩いて来る、そして前王様の前に立つと深々と頭を下げて挨拶をする。
(・・・間違いない、チヒロよ。)
フランシソアが警笛をならす。
自室にずっと閉じこもっていると思っていた、まさかこの場に出てくるとは思わなかった。
そしてチヒロの横には背が高く大鷹の腕章をつけた精悍な男性が立っている。間違いない、あれはディランド=シャフタール将軍だ。
「ふん、シャフタールの倅か?随分と幅を利かせているようだなぁ?」
ハイド卿が睨む、どっちが悪役かこれでは分からないよ、全てにおいてガラが悪すぎる。これに対しディランド将軍は何も言わずに頭を下げる。
とても不穏な空気に包まれていく。
「お嬢様、我々も急いで下に参りましょう。何やら不穏な雰囲気がします、まるで彼らは私達が来るのが分かっていたかのような感じです」
ここでリコが提案する。確かに王妃らが焦っている様子がない、まるで今日という日が分かっているようだ。
嫌な予感がする、もしかして私達は罠にハマったの?
リコの提案に頷く。私達は王妃に指輪をはめさせるだけに来たんだ、血なんか流れて欲しくない。




