44.暴かれた謀略(グラン視点)
ーーグランーー
フランシソアが懇意にしている男の正体が分かった、軍閥の若き大鷹ディランド=シャフタール将軍だ。
シャフタール家と言えば軍閥の中でもタカ派の中心ともいえる幹部で、近衛兵ら王家直轄の軍勢とは犬猿の仲の筆頭じゃないか。
なぜフランシソアはそのような血生臭い男と懇意にしているんだ?もしかして私を見限ったというのか?
いや、頭の良い彼女の事だ、味方の少ない我々に懐柔して味方に引き込もうとしているのかもしれない。
今の私には宮女らの情報網がある。1つを尋ねてみると10の答えが返ってくる、本当に女性の情報網は凄いと感心した。
シャフタール家は軍閥のタカ派なのは知っている、爵位を持っているが軍に所属する事を誇りとしているため、数多くの功績をあげるが褒賞や拝領は何度も固辞している。だが、戦闘になれば一騎当千の力を誇り、容赦ない策略により敵を屠るという、軍閥にとってカリスマ的な存在だ。
そしてその地位を確かなものにしたのがディランド=シャフタールという傑物の出現だ。
13歳で初陣を飾ると、将軍の地位まであっという間に駆け上がったという。シャフタール家当主でディランドの父である英雄ガルマ=シャフタールから怪物と言わしめたと聞いた。
ここまでが私が知っている情報だ。ここからは宮女らが持つ情報網からの、誰も知らないであろう情報だ。
ディランドとガルマは親子ではあるが血は繋がっていない。何でも鬼のような容姿のガルマ将軍からディランドのような美形が生まれるはずがないという酷い根拠から彼らの関係を調べた宮女がいた。
それはどうやら事実のようで、ガルマ将軍が傭兵旅団赫の蠍との交戦した際、人質として捕まっていた子供を引き取って育てたらしい。
赫の蠍は各地を転々とする戦争屋で、人攫いや略奪を先々で行うため、各国の軍部からしたら不倶戴天の憎むべき存在だ。ディランド自身も赫の蠍を討伐に積極的だったのも、その因縁からの執念の討伐だったという話だ。
ここからは宮女の情報だが、ディランドはずっと誰かを探しているらしい。それは噂の域であるが、生き別れた恋人、兄弟、父母、など憶測ではあるが大切な人だと思われる。
人攫いに対して憎悪に近い感情を抱いているのはそのせいらしい。そう言えば2年前に人攫い組織をたった1人で壊滅させたと言っていたな。その際、周囲から褒賞を与えるように薦めらて王宮に呼んだが固辞されてしまったのでよく覚えている。
・・・そう言えば、フランシソアがディランドの名前を聞いて大喜びをしていると人伝に聞いたな、ディランドが現れるのを待ち侘びていたようで、まるで以前から知っているかのようだったらしい。
それ以降、フランシソア本人が出向いてディランドと接触を図ったらしく、今では恋人のような関係になってしまったらしい。
王妃という立場でありながら、他の男と懇ろになるなど、貴人としてあるまじき行為に批判があがる。それでもフランシソアは意に介さない、それは昔から知っている彼女の強さだ。
とても逞しく、己を見失わない彼女の強さ・・・私はその姿に憧れていた。
いつも前を向いて先を歩く彼女とは反し、私は過去を引きずり、置いてかれる焦燥感が心を蝕む。
私が持っているモノはこのアメリア王国の王という立場だけ、しかも名ばかりの裸の王様だ。
立場が弱くなっているのは実感している。宮女らの情報網は素晴らしく、私を排斥しようとする貴族らの動向も知る事が出来た。
こうなるとフランシソアとディランドを利用した方が良さそうだ。あの2人にはこれまで通り懇意にしてもらい批判の的になってもらおうと思いつき、何を言われても放置する事にした。
この作戦は思ったより上手く行った。批判はすれど行動に移す貴族はいない、なぜなら自領軍と国軍との戦力差は明らかで、さらに戦い専門のスペシャリストに喧嘩を売ろうとする命知らずな貴族などいるはずがなかった。
それを盾に何とか打開策を練るしかない、考えうるのは国外に逃亡するのが現実的だ。幸いにも脱出ルートはある、メダリアまで逃げ切れれば大叔母のいるウォルテアへ渡って匿ってもらえるだろう。
そうと決まれば周囲の動向を注視しつつ、財を蓄えるのを優先した方が良さそうだ。財が貯まるまでフランシソアらを盾に時間を稼げば良い、夫を差し置いて他の男と懇意にしているのを目をつぶって放置するだけで良いだけだ。
逃亡の手筈が整ったらエリナのような若く優秀な人材を連れて行こう。特にエリナはお気に入りだ、頭も良くて性格も良い、何より日に日に麗しくなっていく容姿が素晴らしい。上手くいって平穏な生活を手にする事ができたら是非とも妻として迎えたいくらいだ。
「なっ、なんですか!」
色々と考え事をしていると、外からのエリナの声が聞こえる。その様子から只事ではないのが分かる、すぐに剣を手に外へ飛び出る。
するとエリナが何者かに囲まれている。まさか賊が王宮に侵入していたとは、兵士達はいったい何をしているんだ!怒りのままに剣を抜こうとするが相手はかなりの手練れのようで、腕を押さえられたまま動かずびくともしない。
不味い、このままでは計画どころではなくなる。何とかこの場を脱しなくては・・・
「お久しぶりでございます、陛下」
ここで賊の一団の中から凛とよく通る声がする。ハッとしてその声の主を見る。
幽霊となって現れた訳ではない、エリナの言葉を疑った訳ではなかった。本当に彼女が、私の元婚約者キシリアナ=ローゼリアが生きていたのだ。
髪は短くなってしまったが美しい金髪は健在だ。真っ直ぐに凛とした表情で私を見つめる。
「良かった、本当に、生きてて良かった」
自然と声が漏れる。この事を知れば父上や母上が苦しみから解放される。嬉しくて涙が溢れてくる、これでようやく私も過去に苦しまなくて良くなる。
しかしキシリアナの反応は違った・・・
「お前は何を今更言っているんだ!!」
激昂して私の手を振り払う。さっきまでの凛とした大人の女性の雰囲気から一転し、怒りをむき出しにして私に罵詈雑言を投げかけてきた。
心をえぐるような言葉を次々と投げかける、顔を真っ赤にしてヒステリックに私をなじる。その姿は私を責め立てる昔の姿そのままだった。
やはりこの女は何も変わっていない。
どんなに歳月を重ねてもこの女の本質は変わらなかったようだ。
王に対する敬意を微塵も感じない一方的な暴言を何とか堪える。ここで私が怒れば相手の思う壺だ、今は耐えて後で必ず後悔させてやる。
ただ不味いと思ったのか、奴らの1人がキシリアナを止める、すると一団の中から冷静に会話が出来ると思われる男が私の前に立つ。
「・・・陛下、もう良いでしょう?これ以上私の大切な方を傷つけないで下さい」
今までの非礼を謝罪してくると思ったが、まさかのキシリアナを擁護するような発言をする。
どうやらこの男はローゼリア家の人間のようだ。つまりローゼリア家はキシリアナが生きていたのを知っていながら隠していた?
・・・つまりグルだったという事か!?
全てが繋がった・・・ローゼリア家は王家を嵌め、復讐の機会をずっと伺っていたのだ。母を誑かして廃人のようにし、王家を貶めたのはコイツらの謀略だったんだ!そしてその全容をついに暴く事ができそうだ。
驚くべき謀略を思い知り、私は呆然としてしまった。その隙にキシリアナらは王宮へ向かって行った。
・・・このような狼藉は断じて許せない。
「・・・追うぞ」
「え?は、はい」
このままではいけない、急いでエリナらを率いて後を追いかける。
アイツらを好き勝手にさせてたまるか!
アホ男の思考は書いていてムカムカしますね。
次話からはキアらに戻ります。
読んでいただきありがとうございました。
次話の投稿は土曜日になると思います。




