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43.キアとキシリアナ(グラン視点)

 ーーグランーー



 妻であり最愛の女性だと信じていたフランシソアが、得体の知れない何かに見えて来た。

「アイツの言いなりは嫌だな、何とかストーリーから離れたいな・・・」

 意味不明な独り言が多くなり、私が理解に苦しむ顔をすると誤魔化すように作り笑いを見せる。

 次第にこういった事が多くなり、何でも腹の内を話し合える関係ではなくなった。お互いの心が離れていった兆しでもあった。

 しかし腹の内を見せないフランシソアだが、言う通りにしていれば絶対に大丈夫だと力強く語るのは変わらない。私はその自信に満ちた言葉に縋るしかなかった。


 しかし、お互いの心が離れて行った以上、一緒に暮らすことは苦痛でしかなかった。私は王宮を離れ、両親が住む予定だった離宮で暮らす事を考え始めた。

「そう・・・仕方ないわね」

 離宮へ移る事を提案すると、フランシソアは少し寂しげな顔をしたのが意外だった。もっと強く逞しい女性だと思っていたからだ、いつもの自信に満ちた表情からは想像することが出来なかった。


 それ以来お互いが没交渉となり、何をしているか夫婦であるはずなのに知ろうとしなかった。


 政務にも積極的に参加はしなかった。ほぼ周囲に任せっきりで、要件があれば呼ばれるが、ほとんど口出す事をしなかった。

 夫婦で出席しなければならない行事があればフランシソアと顔を合わせる事となる。その度にお互いの生存確認をする会話が通例となっていた。


 それでも国が回るのが不思議だ、父が残した優秀な官僚達に感謝をするしかないだろう。おかげで余りある時間を、自分が好きな絵を描く事に費やす事が出来た。

 周囲に私に苦言を言う者は遠ざけたから誰にも文句を言われない。おそらく、そのような者が近くにいればすぐに苦言を呈されただろう。


 絵の題材は様々だ、昔見た風景や印象に残った人や建物、若かった頃のフランシソアも描いたし、キシリアナも懐かく思って描いてしまった。

 描いている時は本当に現実を忘れる事ができた、正直言って自分がこんなに内向的だとは思ってみなかった。これが単なる現実逃避なのは分かっているが、描いているだけで気が紛れ、どんどん腕が上達していく自分の絵に満足していた。



「・・・キア先生?」

 最近入ってきた新人の宮女だろうか、離宮を掃除しに来た若い女が私の描いた絵を見て声を上げる。

「誰だお前は」

 ほとんど口を開かない宮女が声を上げたのに驚き、つい声をかけてしまった。

「申し訳ありません、陛下」

 若い女は平伏して謝罪する。若いながらも礼儀正しく凛としており怯えている様子ではなかった。

「この絵の女性が、私の恩師にあまりに似ていて驚いてしまいました」


・・・キシリアナに似ている女性?


 若い宮女の名前はエリナという。港湾自治都市メダリア出身で、自身は貧しい平民出身であるが、超難関の王立高等学院を首席で卒業した才女だ。

 柔和な雰囲気で貴族令嬢のようなトゲトゲしさがない、礼儀正しくて頭の回転が速いので、会話をしていて面白いと思えたのは久しぶりだった。

 私のお気に入りになったのは言うまでもなかった、そして驚くべき事にエリナと会話するようになってから、普通に宮女達と会話をするようになったのだ。

 どうやらエリナが色々と気配りをしているようで、私が会話を出来る様に根回しをしているようだ。若いのに本当に大した女性だと感心すると同時に、そしてエリナが恩師と語り、全てを教わったというキアという女性について興味が湧いて来た。


「こうして髪を短くすると本当にソックリなんです」

 私が描いたキシリアナの絵の髪を手で隠す。首を傾げながら不思議そうな顔をする。

 キアという名前の女性は教会学校の教師の事だった。教え方が画期的で斬新という事で、高等学院の教諭から師事していた人の名前を聞かれた程らしい。

 キアという名の教師はまったくの無名で、一介の教会学校の教師が教えた生徒が超難関の王立高等学院に合格するなど異例の事らしい。もしそれが真実なら教諭としてスカウトしたいと聞かれたらしいが、メダリアという場所と、エリナが悪い父親から逃げて来たという出自を考えると諦めたという話だった。


 ここで一つの疑念が生まれた。エリナが教わったという勉強の仕方、斬新だと言われていたが私はどこかで見覚えがあった。


 キアという教会学校の教師に、勉学が得意で自慢げに教えてきた生意気な顔をしたキシリアナの影がチラつく。


 キシリアナは死んだはずだ。だけど、エリナの会話の中ではキシリアナがまるで生きているようだった。

 もしかしてキシリアナが実は生きているのではないか?これが追手をかわす嘘の可能性があるのでは?しかしそれではローゼリア夫人の涙の理由は?

 頭が混乱して来た、本当なら自身の手で調べに行きたい。しかし今の現状とメダリアという土地がそれを邪魔をする。私に信頼出来る部下がいない今、目立つ行動に移れないジレンマが生まれる。



 そして、ここに来て混乱を招く事態が起こってしまった。


 フランシソアが軍閥の若き英雄と懇意にしているという噂が立ったのだ。

 どういう事だ?フランシソアは自分に任せておけば良いと言ってくれたのに裏切るのか?いや、確かに放っておいてしまったし、私が最近宮女らと仲良くしているという噂が立ったかもしれないが、何もやましいことはないから私は悪くないはずだ。

 仕返しに他の男と?

 もしそれが本当ならば許す事はできないが、相手は軍の若き英雄か・・・



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