42.否定と拒絶(グラン視点)
ーーグランーー
キシリアナ=ローゼリアが死んだ・・・王都より遠く離れたメダリア港湾自治都市の沿岸で彼女の遺物が発見されたらしい。
あの時の衝撃を今でも覚えている。
王立貴族学院に姿を見せなくなり、自領に戻って謹慎をしていると思っていた。
あの時はヒステリックな声を聞かずに済んでせいせいしていたが、その一報を聞いて心が騒ついてくる。
しかも死因が他殺の可能性があるらしい。
・・・まさか。
あの時、あの場に共にいたミシェイル=デルタとサイス=ベルトン、互いの視線が交差する。
自分はやってない、この2人のうちの誰かが幼馴染だった彼女へ刺客を送ったのか?2人の視線も同様に猜疑心のこもった目をしている。
誰も何も言わなかった。これは自分の選んだ正しい選択なのだと言い聞かせるしかなかった。
「ふーん、断罪された後は暗殺されるんだ・・・」
小さく聞き取れるかどうか分からないくらいの声が聞こえる。2人は気づいていないようで、自分だけその声の主を探す。
遠くに離れていくフランシソアの背中が見える。
まさか、そんな事はないはずだ。いわれのない不安に駆られつつも、変わらぬ日常へ戻っていく。
「ごめんなさい、こんな事になるなんて、本当に、本当にごめんなさい」
病院で抜け殻のように正気のないローゼリア夫人に寄り添う母の姿を見てしまった。
キシリアナの死が話題から去りつつあった、そんな中でも母はローゼリア夫人に会いに何度も足を運んで謝罪を繰り返していたと聞く。
その事実を知り、どうしても居ても立っても居られなくなり足を運んだ。そして愕然とした、王妃である母が膝をついて何度も謝罪し涙を流している。
この2人は長い付き合いで親友のような仲とは知っていた、お互いの子供同士が結ばれれば良いと冗談を言っていたのを覚えている。
・・・自分も、同じように謝罪をした方が良いのだろうか。
でも足が動かなかった。
とてもじゃないが怖くて彼らの前に立つ事が出来なかった。
・・・そして酷い罪悪感が自分の心を蝕んでいく。
しかし誰も自分達を責める者はいなかった。自分が次期国王である事が免罪符だったからだ。
「大丈夫よ、全部シナリオ通りで、私達はハッピーエンドになるはずだから」
フランシソアの太陽のような笑顔と自信満々の言葉が私達を救ってくれたのは間違いなかった。
これは私達だけの秘密だ、私達は全員が共犯であり、全員が黙っていればこれまで通りの毎日が待っている。
フランシソアの自信に満ちた顔に、安堵の息を吐く。それと同時に得体の知れない恐怖を彼女から感じる事となった。
私達は共犯で、全員が黙っていれば、これまで通りの日々が過ごせる。
それが全員の共通認識であった。
私達がキシリアナを殺した。
いつも自信に満ちており、何事も完璧にこなし、生意気そうな笑みを浮かべていたキシリアナ。彼女が泣いていたり、落ち込んでいる姿を見た事がない。
勤勉で努力家、その場で出来ない事があっても、次に会う時には余裕でこなしていた。
プライドが高く、負けず嫌い、絶対に弱みを見せない。
いつも余裕綽々に笑みを浮かべていた。
そんな彼女の最後はフランシソアに勝てずにヒステリックな金切声をあげていた。イライラして周囲に当たり散らかしていた、それを見て我々は無様だと笑った。
そしてついにイライラが爆発し、フランシソアに毒を飲まそうとしたり、階段から突き落として殺そうとしたりと、攻撃的な行動をするようになってきてしまった。
私は婚約者としてキシリアナの情けない行動が許せなかった。そして何よりも大切なフランシソアに対しての攻撃がどうしても許せなかった。
彼女の証言を元に学院の夜会で、大勢の前でキシリアナの罪を暴露し全ての罪を認めさせた。
大勢の前で断罪され彼女は弱々しく罪を認めた。その時、初めて彼女の涙を見た。だが泣きながらも笑っていた、その狂気を見て私は彼女はもう元に戻らないと悟った。
彼女は壊れてしまった・・・
その後はローゼリア卿に引き取られて学院から姿を消した。その後は自領に戻って謹慎処分という名の療養生活をするか、国外へ逃亡するのだろうと予想はしていた。
私達は勝った。あの時は私達が正しいと信じて疑わなかった。
壊れた姿を晒し、姿を消したキシリアナとの関係もこれで終わった。婚約を解消し、私が望んでいた通りフランシソアと婚約することになった。とても平民出身とは思えない所作で、マナーやダンス、座学も全てをこなす彼女こそ王妃に相応しいと周囲も認めてくれた。
シナリオ通り・・・おそらくフランシソアが言ったであろう言葉が頭によぎる。
この未来を予知していたのだろうか?
これは私達だけの秘密だ、私達は全員が共犯者で、これからもずっとこの関係が続くものと思っていた。
でも歯車が狂ったのはキシリアナの死からだった。
ローゼリア家の人間がコソコソ嗅ぎ回っていたのは知っていた。どうやらフランシソアの証言の不整合性を調べているようだった。
あの時は疑問に持たなかったが、なぜかフランシソアの言葉に絶対的な信頼を寄せていた。もちろんフランシソアはそれを認める事はなかったし我々も認めない。罪悪感を抱きつつも、それらを有耶無耶にして真実を闇の中に葬るしかなかった。
否定と拒絶を続け、時が経つのを待っていた。するとキシリアナの話は風化し誰も口にしなくなると、ようやく呪縛から解放されて気分になった。
ただ私の周りからは誰もいなくなっていった。
私達がグルだと勘繰ったデルタ卿やベルトン卿は、拉致同然に自分の息子を拐い自領へ連れ帰って行った。そこで幽閉され、重い罰をうけていると風の噂で聞いた。
次は我が身かもしれない・・・そんな恐怖に駆られる毎日だった。
出来るだけ苦言を呈する者を遠ざけるしかなかった、この頃になると父も母も味方とも思えなくなっていた。
私はもう残る共犯者である妻フランシソアに縋るしかなかった。彼女はこのような危機的な状況でも冷静で、常に先を見据えたような目をしていた。
「問題はこれから先の10年後よ、そこから物語の続編が始まるわ」
10年後?いったい彼女の目には何が見えているのだろうか、次第に愛していたはずの彼女が得体の知れないものに見えてきた。
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日の予定です。




