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38.バランの娘

「作戦の決行は夕方、抜き打ちでアイラス陛下一行が王宮へ訪問します。私達はそれまでに秘密通路を通って王宮へ侵入しなくてはなりません」

 ベベルが力強く力説する。夕方なら今すぐにでも出発しないといけないだろう。

「それで、秘密通路ってのはどこにあるの?少々急いだ方が良いのでは?」

 私がベベルに聞くと頷く、

「そうですね、あまり悠長にしていられません。秘密通路自体はこの洋館の地下にあります。現在、バラン兵長の娘さんが先行して経路の確認に向かってます。それまでは待機して下さい」


 は?バランの娘?


 私が驚いてバランを見ると恥ずかしそうに頭を掻いている。この人結婚していたんだ!?

「恥ずかしいことで、育て方を間違えたみたいですわ。お嬢みたいにお淑やかに育って欲しかったのだがな」

 バランの娘さんか、きっとヨヒムみたいな筋肉ムキムキ腹筋バキバキレディだろう。

「お、言っているそばから帰って来た」

 バランが指差すと洋館の地下室から可愛らしい少女が顔を出す。


「・・・何か想像してたのと違う!」

「は?」


 こういう時は期待を裏切らないでほしい!


「父さん、経路はクリアだ、まあまあ広い。ただ一列でしか通れない。ちょっと父さんらには狭くて戦闘になったら不利かも」

 可愛らしい女の子はバランに簡潔に説明する、とても父と娘の会話とは思えない。はっきり言って上官と部下みたいだ。


「ほれ、リコ。キシリアナお嬢様だ」

 バランが少女に紹介する、近くでみると本当に小柄でショートカットの可愛らしい女の子だ。

「はじめまして、バランの娘のリコと申します、今回はわがままを言ってついて来てしまいました、足を引っ張らないように気をつけますので、どうぞよろしくお願いします」

 あわてて私に頭を下げてくる。

「いえいえいえいえいえいえ、私は元ローゼリア家の人間ですが、今は単なる平民のキアという者です。どうか頭を下げないで下さい!」

 慌てて止めさせる、あまりにバランとギャップがありすぎて困惑してしまう。

「ですが、えっと、あれ?」

 リコも思ったのと違う反応だったのだろう、困惑気味に私とバランを交互に見ている。

「あの、失礼ですけど、リコさんはおいくつ?」

 少し若すぎるけど、本当にいくつなんだ?

「え?15になります」

 15?15歳!?バランがいくつの時の子供なんだ!?

「バラン、15の女の子にこんな事させてはダメよ」

 コソッとバランに苦言を呈する。本当なら15歳なんて勉学に励まないといけない年齢なんだよ。

「そうなのか?俺は13の時に初陣に出たけど」


 は?13?

 頭がクラクラする、私が住んでいた世界とあまりにかけ離れ過ぎている。


「・・・ふう、こういう世界もあるのね。平民になって色々と慣れて来たと思ったけど、まだまだ知らない世界があったとは・・・」

「ははは、少年兵なんてのは昔はザラですからな、今の世の中は甘いのか知らんが、15までは初陣に出れないんだ」

 バランが私がショックを受けた理由を理解したようだ。

「はあ、もう何も言えません。リコさん、私が言うのもなんですが、決して無理はしないようにお願いしますね」

「は、はい、頑張ります」

 な、なんて素直でいい子なんだ。バランの子にしておくには勿体ない。

「気が向いたら勉強するのよ、今が最も頭の中に入る時なんですから」

 いかん、つい老婆心が出て来てしまった。私の言葉が意外だったのか、リコはあっけに取られた顔をしている。


「それでは参りましょう。ハービスさん、連絡をよろしくお願いします」

 ベベルが前王様専属執事のハービスさんに頭を下げる、

「はい、皆様が出発したのを確認してからアイラス陛下にお伝えします」

 ああ、そういうことか。先に私達が行って潜入準備を整え、正面突撃の時間を見計らうのか。

「ここから王宮には1時間弱かかりますが突撃時間には十分間に合います」

 リコが胸元から銀製の懐中時計を出して時間を確認する。本当にバランの娘なのか?優秀すぎないか?

「では参りましょう」

 そう言うと洋館の地下室に向かう。地下室の隅っこにあったのは人が1人歩いて進める地下通路だ。

 灯りがないので中は真っ暗だ。

「これを進むの?」

 クララがゲンナリしている。

「風の通りが確保してあるので、思ったより快適ですよ?」

・・・そういうモノなの?

「お前の授業じゃ教えてないのか?風の通りが良ければ地下でも快適だってさ」

 ヨヒムよ、一般の普通教育にこんな知識は必要ない。



 こうしてリコを先頭に地下通路を進む。確かに風の通りがあるので思ったより不快ではない、暗いのも次第に目が慣れてくるので気にならなくなってきた。


 狭い道を一列編隊で歩き続ける。

「わははは、お嬢!思ったより体力あるじゃないか」

 ゲインツが嬉しそうに笑いだす。

「そりゃ、メダリアの街は坂道が多いからね。そこを行ったり来たりしていれば誰でも足腰が強くなるよ」

 貴族と違って馬車での移動なんてあり得ないからね。

「おお、つまり坂路訓練か!なかなか良い街ではないか!」

 ゲインツの頭は大丈夫だろうか?体だけじゃなくて思考まで筋肉に侵食されていないか?

「坂路訓練は足腰強化の基本だ、体力と持続力も同時に鍛えられる万能訓練法だ」

 バレリー!?

「キア様は兵士ではないのでそんなモノは必要ありません!」

 あれ?何でロナがいるの?

「馬の訓練でも坂路は良いと聞きますからね。腰が強くなるという話です」

 幻聴かな?コリスの声までする?


 暗くて狭いので後ろを確認出来ないが、何か変な人達までついて来ているんですけど?


読んでいただきありがとうございました。

次話の投稿は土曜日になると思います。

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