36.私の守護神
「なる程ねぇ、姿を見せなくなった原因が借金かよ」
早めの昼食を食べながらヨヒムが呆れている。
「あのオッサン、エリナに付き纏ったりしないかな?」
クララが不安そうな顔をする、確かにエリナの父親に居場所とか知られたら金の無心に来そうな気がする。
「まあ、金がなければ王都に来れないだろ。ましてや王宮なんて入れっこないだろうし」
ヨヒムは楽観的だが、私もそれは同意見だ。
「一番大切なのは、エリナの居場所を守る事な、私にとってそれが一番大切だよ。それを私らに何とか出来れば良いんだけどね」
そこが一番の問題だ、私にそんな力はないから結局は人頼りになってしまう。
「昼に迎えにくると言っていたな、そろそろだと思うけど」
食堂から外を見ると丁度よく馬車がやってくる、ロナの言ったとおり迎えがやって来たようだ。
「行くか、今日で全部終わればいいな」
私が立ち上がってボヤく。
「本当だよ」
クララも同意する。
「店の休みは7日だけだからな、終わらなかったらお前残して勝手に帰るからな」
ヨヒムが手厳しい、クララもその意見に同調している。でもクララは10日間の休みだった気がするけど。
「迎えにあがりました」
ロナが朝に会ったばかりなのに丁寧に挨拶をする。
「コリスさん、昨日の店良かったよ!」
ヨヒムが馬車の前にいるコリスに笑いかける。すると被っている帽子をとり、いつも通りの素敵な笑顔で頭を下げる。コリスの株が10年経った今になって爆上がり中だ。
「今度は蒸留酒のお店を紹介しますよ」
さらに素敵な答えが返ってくる、ヨヒムの口元が緩みっぱなしだ、ヨヒムと気が合う男がいるとは思わなかった。
「それで、様子はどう?」
馬車の中でロナに尋ねる、
「ローゼリア家の方は問題なく人が集まりそうです。信頼のおける者を数名程用意しました。バラン兵長も志願して下さいましたよ」
メンバーの名簿を見せてもらう。本当に懐かしい名前ばかりだ、名簿の一番最初にあるバラン兵長だ。お祖父様に仕えていた腹心で歴戦の戦士だ。まだ現役で働いているとは思わなかった。
「キア様の件はローゼリア家でも一部の人間にしか話しておりません。本当に信頼をおける人間だけに声を掛けました。なので若干ベテラン臭がキツいですがご了承下さい」
・・・確かに平均年齢が高めな気がする。
「・・・いいえ、私はこのメンバーで嬉しいわ。懐かしい名前ばかり、バラン兵長にゲインツ兵長にバレリー補佐長、みんな私が小さい頃からローゼリア家を守ってくれた人ばかりじゃない、本当に嬉しい」
全員、もう良い歳をしたおじさん、爺さんばかりだけど大好きな人ばかりだ。
「ふふふ、バラン兵長はキア様が生きていると知って泣き崩れて喜んでましたからね。お目付役などしていられないと言ってましたよ」
え!?・・・もしかして現役じゃないの?お目付役?大丈夫なの?
「ちなみにゲインツ兵長は?まだ現役?」
ロナ?目を見て!何で目を合わせないの?
「バ、バレリー様は現役ですよ!バリバリ現役ですよ!!」
ロナが必死だ、
「・・・確かバレリーは補佐長だったよね、補給や帳簿がメインの仕事だった気がするんだけど」
頭が良くて私に一杯お話をしてくれたのを思い出す。一方のロナは目が泳がせまくっている。こんな動揺しているロナを初めて見た。
「・・・その実は、今回の話をした時に御三方に人選をお願いしたのですが、真っ先に自分が行くと言い出したみたいで」
・・・年寄りが張り切ってしまったのか。
「ですが、バラン兵長とゲインツ兵長は今でもとても強いです!引退しても鬼教官として恐れられているので安心して下さいませ」
ロナが必死だ、あの2人の強さは知っている。それに信頼できるという点ではこのメンバーは群を抜いている。
「ロナ、いいのよ。懐かしい方と会えるのは嬉しい限りです、それに信頼がおけるという点ではこのメンバーに敵う者はいないわ」
ロナは申し訳なさそうにしているが、気に病まないで欲しい。
「到着いたしました」
コリスが馬車を停める。
着いたのは王族の管理区だが、以前の前王様の住んでいた館ではなく、古びた洋館の前に到着する。
中を覗くと草も生えっぱなしで荒れ果てていた。
「お嬢様」
洋館からベベルが出てくる。どうやらベベルも同行するようだ、そして前国王様の執事さんも一緒にいる。目が合うと背筋を伸ばして頭を下げる。
「アイラス陛下の従者のハービスでございます。どうぞ中へ、案内いたします」
執事さんはハービスという名前だった、何となく思い出した、確か昔もこんな風に自己紹介された。
「皆様がお待ちです」
皆様?
「お嬢!!!」
野太い声が洋館の中から聞こえる。顔に傷がある大男が勢いよく出てくる。
私はこの顔を知っている。幼い頃、その顔が怖くて大泣きした事がある。
何度も何度も私の前に立ってくれた。私をいつも守ってくれた。
大きくて、強くて、とても優しい私の守護神。
「バラン!!!」
私も嬉しくなって走り寄る。すでに60を越えているはずなのに逞しい巨体、ボサボサのライオンのような髪は真っ白になってしまったが、その面影はまだ健在だ。
「はははは、本当に生きてた、本当に良かった!!」
私を抱き抱えると嬉しそうにグルグル回る。大人になった私も軽々持ち上げる、力強い姿は昔のまんまだ。
「お嬢様!!」
「キシリアナお嬢様!!」
洋館の中からどんどん男が出てくる、厳つい男達が私の姿を見て笑い、泣いて、喜んでいる。
ははは、見事にオッサンばっかりだ!
読んでいただきありがとうございます。
次話の投稿は土曜日の予定です。




