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34.教え子

 翌日の目覚めは最悪だった。

「頭痛い、喉痛い、飲みすぎた」

 ベッドの上で悶え苦しむ。昨晩はヨヒムのペースに付き合わされ、勢いのままにお酒を飲んでしまった。

 いつものクセでまだ寝てて良いのに起きる準備をしてしまう。


「・・・」

 通路で明らかに不機嫌そうな顔をしているクララと合流する。間違いなくコイツも二日酔いだ、クララも昨晩はヨヒムに合わせてかなりの量を飲んでいたはずだ。

「別に昼まで寝てても良いんだぞ?」

「・・・うん、何かいつものクセで」

 どうやらクララも私と一緒のようだ、仕事に行くわけではないのに起きてしまったようだ。

「くそっ!何か知らないけどヨヒムの部屋の床で寝てたわ」


・・・昨晩の事を覚えていないようだ。


「アンタ、昨日飲みすぎてヨヒムに担がれて帰ったの覚えてないの?」

 腕を組んで一生懸命昨晩の事を思い出しているようだ。

「なんかビショビショに濡れていたのは?」

「水を飲み外して全部こぼしていたからだよ。盛大に服に水を飲ませていたよ」

 久しぶりに泥酔したクララのダメっぷりを見たよ。

「・・・思い出してきた、何だ自分のせいか。ヨヒムとキアに悪戯されたかと思った」

 不機嫌な理由はそれか。

 完全に八つ当たり的に不機嫌だったわけだ、昔はそういう悪戯をやった事あるけど、もうそんな事はしないよ。



 2人でホテルの食堂に入り席に座る。するとすぐにウェイターさんがおいしそうなパンとサラダ、スープを出してくれる。

「アンタお酒に弱いんだから少しは控えろよ」

「・・・うん、気をつける」

 しょんぼりしながらパンを口に運んでいる、思ったより素直でよろしい。

「ヨヒムは?寝てた?」

「うん、全然起きる気配がなかったわ。いつも昼まで寝てるから仕方ないんじゃない?」

 ヨヒムは夜型人間だから仕方ないか。


 普段食べている硬いパンとは違い、柔らかくてふわふわしたパンが滅茶苦茶美味しい。ヨヒムは一度もここの朝食のパンを食べてないのは勿体ないと思う。

「食後のコーヒーです」

 ウェイターさんがコーヒーを運んでくれる、目の前でクララが大量に砂糖を入れ、更に大量のミルクを入れている。

「それは入れ過ぎだろ?」

 せっかくのコーヒーが勿体ない気がする。

「甘い方が美味いだろ」

 甘党の考え方だな、クララのお子ちゃま舌には困ったものだ。


「・・・今日で終わるかな?」

 コーヒーを飲みながら呟く。

「私はそろそろメダリアに帰りたいよ」

 クララは三日目で帰りたいようだ。私だってもう帰りたいよ、これ以上ゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁してほしい。


「失礼します。キア様、お客様がいらっしゃっています」

 朝食を食べ終え、席を立とうとするとホテルの人から声をかけられる。どうやら私が朝食を食べ終わるのを待っていたようだ。

「私に?誰だろう」

 クララと食堂を出てロビーに向かう、待っていたの私の元専属従女のロナだった。

「おはようございますキア様」

 丁寧に挨拶をしてくれる。私は平民なんだから本当は「様」はいらないのだけど、キアという名で呼んでくれるので少し嬉しかったりする。

「昨日のキア様の教え子について分かったのでご報告にあがりました」


・・・え?もう?早くない?


「えっと、私は席を外した方がよい?」

 クララが遠慮して自室に帰ろうとする、

「ちょっと待ってよ!メダリアの人間なんだから一緒に聞いてよ!もし私が立ち直れないくらい凹んだら介抱する人間が必要でしょ!」

「え〜〜〜〜」

 クララに物凄い嫌そうな顔をされる。

「あの、凹むようなお話ではなく、とても素晴らしい報告だとは思うのですが・・・少しだけ気にかかる事もありまして」

 ん?良い報告だけど気にかかる事があるの?

「王立高等学院の入学、卒業者の名簿の中にメダリア出身のエリナという名前がしっかりとありました」


・・・え?


「えええぇぇーーー!!!」


 驚いた、本当に本当なら物凄い事だ!

「本当なの!?本当にエリナは合格してたの!?」

 つい大声をだしてしまう、ロナとクララに窘められ、周囲からの視線に気がついて恥ずかしくなる。

「ごめんなさい、つい興奮してしまって。私の部屋に行って話の続きをしましょう」

 良い歳して何をやっているのか、恥ずかしくて顔が熱い。ロナとクララを連れて私の部屋に戻る、部屋にあるソファと椅子に座ると改まって話の続きをする。


「それは本当にエリナなのですか?」

 クララがロナに質問する、ロナは頷くとメモを広げる。

「当時の担当教諭に話を伺う事ができました。貧しいながらも努力家で成績優秀でしたのでとても印象深く覚えていると言ってました。そこで基礎学を教えてもらった恩師の話となり、教会学校の教師でキアという名前の女性だったという事も確認しました。その際エリナさんは非常にキア先生に感謝していたとも聞いてます」


 ヤバい、嬉しすぎて泣きそうだ。


「とても苦労したようです。父親が多額の借金を隠していたようで、父親に王立高等学院へ行かせず、働くように言われたそうです。それで母親と一緒に王都へ逃げて来たと言ってました。おそらくキア様へ報告がなかったのはそのせいでしょう」

 おいおいマジかよ、あの港湾倉庫番の親父!見かけなくなったと思ったら借金抱えていたのかよ!!

「アイツら暇になると賭け事するからな。本当に最低だわ!」

 港湾倉庫とも取引のある交易センターで働くクララだが、実情を知っているだけに嫌悪感丸出しの顔をしている。

「そうなんだ。でも報告に来れなかった理由があるのなら私は全然問題ないわ、むしろ逆境に負けずに高等学院に入って、ちゃんと卒業した事に尊敬の念しか抱けないわ」

 辛かっただろうに、それに負けないで頑張ったのを知れて本当に嬉しい。

「それで、そのエリナの気にかかる事とは何ですか?」

 クララがロナに尋ねる、確かに良い話ばかりではないと言っていたな。


「いえ、実はエリナさんの卒業後の働き口が、王宮だそうです」



・・・は?

読んでいただきありがとうございます。

投稿ペースが遅くてすいません、今回はここまでです。

次話の投稿は来週の土曜日になると思います。

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