33.干上がり女の酒トーク
私達はベベルに連れられて再びホテルに向かう事になった。
元軍閥長のハイド卿からの返事と、ローゼリア家の準備が出来るまで待機する事になった。話では明日には準備が終わるので、明日の夜に王宮への潜入を決行となるだろう。
「アイラス陛下が残念がってましたね」
ベベルが笑っている、あのまま前王様の家に泊まるように誘われたが、流石に私達のメンタルがもたない。丁寧に断らせてもらい、昨日泊まったホテルに帰る事にした。
話ではあのホテルにすでに三日分の宿泊費を渡してあるらしい。もう私達貧乏人とはスケールが違う、それでも当初宿泊を予定していた高級ホテルの半分以下の予算で済んだと言っている。
もうこの感覚にはどうやっても戻れないかもしれない。
外を見ると夜の帳がおりて周囲は真っ暗だ。
それでも繁華街に入ると多くの人が行き交いとても賑わっている。
「あ、ここらで下ろして。私達は適当にご飯食べるからさ」
ホテルの場所は分かっているから、繁華街の手前で下ろしてもらった方が帰りながら夕食を食べれるので効率が良い。
「ですが」
ベベルは難色を示す、おそらく私達をホテルまで無事に送り届けたいのだろう。
「それともご一緒にどう?女の真っ黒な部分が見えるかもよ?」
私の言葉にベベルの顔が引き攣らせている。
「手加減しないぜ」
毒吐きクララがやる気満々だ。
「いやいや、私ら別に大した話なんてしてないだろ?干上がり女の話なんて馬鹿話しかないだろ?」
ヨヒムがネタバラシしやがった。実際にロクでもない話しかしてないから反論できない。
「お嬢様、ここらでよろしいですか?」
馭者のコリスが空気を読みすぎて大好きだ、目立たないメインストリート脇に馬車を泊めてくれた。
「ほれ、ベベルさん、今晩の飲み代くらい出してやんなさいって」
コリス!貴方はなんて素敵なんだ!!
「コリスさん、マジ男前すぎだわ」
ヨヒムが握手を求める。
「酒飲むなら二番通りにあるビーズっていう店がおすすめですよ。各地の果実酒があって名物のチーズ料理が最高に合いますよ」
私の中でコリスの株が爆上げ中だ。
「コリスさんもいける口か?終わったら飲もうな」
「それは嬉しいですね、ぜひお付き合いします」
変なところで2人が意気投合してしまった、ヨヒムの口の緩みが半端ない、よほど嬉しいようだ。こうしてベベルからお金を渡されて2人と別れる。
コリスに紹介されたお店は二番通りの目立つ場所にあった。とても賑わっており、店内はとても混雑していた。
「凄え!樽で置いてある」
ヨヒムが酒場でいきなり目を輝かせている、その視線の先にはいくつもの酒樽が積んである。
「あれがあったら自分で全部飲みそうだな?」
私がからかうとヨヒムがギクっとした顔をする、この反応は本当にやりそうだな。
「へえ、年代別で値段が変わるんだ」
クララがメニューを見ながら呟く。
「私としてはお腹が空いたから何か食べたい。凄い、本当にチーズ料理ばっかりだ」
適当に美味しそうな名前の料理を頼み、私も冷たい果実酒を口にする。
「はぁ〜、体に染みるわぁ」
今日一日色々とあり過ぎてどっと疲れが出てくる。
「流石に疲れたわ、ホテルに帰ったらすぐに寝れそう」
クララも疲れた様子でお酒を飲み干す。なかなか良い飲みっぷりだ。
「やべえ、これは美味い」
ヨヒムはお酒に夢中だ。
「・・・キアって本当に貴族だったんだね」
改まってクララが私を見て笑う。
「ははは、本当に元貴族だよ。まあ、10年も経てば貴族の常識なんて一切覚えていないし、礼儀作法なんて全部忘れちゃったよ」
今日一日、お父様やお母様、お兄様や前王様夫妻と話す事が出来たが、上手く出来たかどうか自信はない。
「でもいいじゃん、貴女の家族はみんなキアのことを大切に思ってくれている。私に比べたら全然違う」
クララのしんみりした様子に少しだけ胸が痛む。
クララは両親に従い商家に丁稚奉公に出された。長い間、丁稚奉公していたがいつまで経っても奉公期間が終わらないのに疑問を持って尋ねた。そうしたら返ってきた答えは自分が親に売られていたという現実だったらしい。
しかも奉公期間後の自分の働き分は全て親に搾取されており、幼いながらもこのままでは不味いと判断し、何も持たずに商家を逃げ出し、丁度商家に来ていた商団の荷物に紛れてメダリアに来たと言っていた。
今のクララを見るとしんみりとしているが、悲しんだり悲嘆に暮れている感じではない。どことなく昔を懐かしんでいる様子だ。
「・・・アンタは本当にいい女になったな。お姉さんは嬉しいよ」
嬉しくなって頭を撫でてやる、
「ちょ、子供扱いしないでよ」
クララと初めて会ったのは16歳の時、あれから8年たって今は24歳か、本当によく頑張ったと思う。10歳で奉公に出されて6年もタダ働きの奴隷生活なんて私なら耐えられないわ。
「家族ってのは選べないし、良いか悪いかなんて歳をとってその輪から離れて初めて分かるのかもな。私も親が死んだ後にそのありがたさが分かったからな」
お酒に夢中だったヨヒムが戻ってくる、
「だね、私の両親は本当に良い家族だよ、みんな私なんかの為に心を痛めていた。私が生きている事を知って心より喜んでくれた。見捨てられたって思い込んでいたあの頃の私を叱ってやりたいわ」
・・・私の選択肢は決まっている。だからこそ悔いの残らないようにした。
「お姉ーさーん、この8年モノ下さい!」
・・・ヨヒムは悔いの残らないように飲み尽くすつもりのようだ。




