32.一握りのエリート
「・・・」
ここで、シャーリーさんが何かを考え込んでいる。
「シャーリーさん?どうしました?」
私が声をかけると顔を上げて苦笑いをしている。
「いえ、王宮の従女さん達がそんな偽情報に踊らされるかと思いまして」
・・・?よく意味が分からない。
「つまり、王宮勤めの従女達がそこまで愚かな訳がないという意味ですよね」
ロナも同じように疑問に思っていたようだ。
「そうです、王宮勤めの従女というのは本当に一握りのエリートなんです。私は最初はそれでかなり馬鹿にされてましたから、どこからか私のプライベートな情報まで調べられて色々嫌味を言ってきましたから」
・・・ここまで来ると逆にシャーリーさんが凄く思えてきた。
「あの、それはつまり・・・」
ベベルが息をのむ、
「はい、王宮の従女らがデマを流しているかもしれませんね。混乱させようとしているのか、何かを隠しているのかは分かりませんが」
下手をしたらグルの可能性があるということか。混乱させようといるのか、もしかして何かを隠そうとしているのか。
「これは推測なので分かりませんが、もしかしたら陛下のお相手は従女の誰かではないですか?彼女らなら仲間意識が強いので身内を庇うという可能性はあります」
王宮という伏魔殿で鍛えられた人の説得力は全然違うな。
と言うか本当に私は王妃にならなくて良かったと思うよ。
さっき前王妃様が即位した後、何も食べれなくなったという話を初めて聞いたけど、私も間違いなくそうなっていたかもしれない、本当に怖いよ王宮!
「えっと、ベベル?もし陛下の愛する方が王宮の従女の場合ならどうなるの?」
ベベルに話を振るといつも通りの顔をしている、良かった元に戻ってくれたようだ。
「そうですね。王宮の従女といえば、その職につくのも大変です。超難関の王立高等学院に入らなければその扉が開かれる事はありません。ましてや王宮勤めとなれば、人間性も精査の対象となります」
え?王立高等学院ってそんなに難しいの?
過去に一番優秀な教え子に目指せって簡単に言っちゃったけど?
「すげえな、おい、キアの教え子に受けた奴いたろ?どうなったんだ?」
ぐっ、今頃になって私も思い出していたのに!
「・・・結果は聞いてないから分かんない。でも受かったらなら報告があるよね?それが無いってことはダメだったのかな?」
私が聞きたいくらいだ、今思えば自分のことに忙しすぎて後々の生徒に対するケアを疎かになっていた。
「教え子?」
ロナが訝しげに私を見る。
「あ、えっと、私ね、メダリアの街で教会学校の教師の仕事をしているんだけど、6年程前かな?とても頭の良い子がいてね、無責任に王立高等学院を受験してみたらと言ってしまったの、その子もとてもやる気があったからかなり真剣に教えてあげたのよ。結果を報告に来ないということは、嫌われちゃったかな?はははは」
自分の無責任さが嫌になる。
「何なら調べてみましょうか?お名前をお伺いしても?」
ロナが気を使ってくれた。もし分かるなら知っておきたい。
「名前はエリナよ。港湾倉庫番の娘さん」
「あー、そうそう。頭良かったよなあの子」
ヨヒムも思い出したようで手を叩く。
「エリナですね。出身地と名前が分かれば大丈夫だと思います」
そう言うとロナが調べるために出て行く。
「凄い、勉強を教えているのね」
前王妃様が感心したように私を見る。
「ははは、私にはそれしか取り柄がなかったですからね。大して美人でもなかったですし、スタイルも貧弱でしたから着飾らないと見れたもんじゃないですし、運動神経が良い訳でもないし、センスが良いわけでもないですから」
「そんな事ありません!」
突然ベベルに否定される。驚いていると目が合い再び逸らされてしまった。
「そ、そんな、表面上だけで、人を判断してはなりません」
ベベルが言い訳がましく何か言っている。
どうも調子が狂ってしまうな、何かみんなが生温かい目で見ているし。
「本当に息子は見る目が無かったわ。こんな素敵な婚約者がいたのに・・・」
前王妃様が落ち込んだように沈んでしまう。
「今の貴女を見ていると、本当に国母に相応しいと思えるわ。とても優しい雰囲気になって、本当に素敵よ」
ぐっ、そんな事を言われると恥ずかしいぞ。
「そうだな、今の格好は本当にどこかの悪ガキの母ちゃんだからな」
「一児の母ファッション」
ぐっ、ヨヒムとクララがここぞとばかりにヤジってくる。
「一児の母!?」
ベベルはいちいち反応するな!!
「おや?どうしたのだ?」
ここで前国王様が書斎から戻ってきた。
「うふふ、キシリアナさんがお母さんだっていう話」
「全然違います!」
失礼ながら前王妃様に被せ気味に否定させてもらう。すると前国王様は状況が理解出来ずに首を傾げている。
「いい加減にして下さい、ちゃんと話を戻しましょうよ」
そう言ってベベルを正気に戻させ、シャーリーさんに先程話してもらった内容を前王様に説明してもらう。
「ふむ、平民であったとしても王立高等学院出身者なら特権階級に近いからの、家柄で口を出す者がいても、実力を持つ者なら誰も文句は言ないと思うが」
そうなんだ、王立高等学院に入ればそれだけの価値があるんだ。特権階級か、なんて良い響きなんだ。
「なっ、やっぱ勉強は必要だろ?」
私がヨヒムの肩を叩く、こいつは私の授業から脱落した奴だ。
「い、いいんだよ、私は読み書きと売上の計算できれば満足なんだ!」
明らかに動揺している。
私とクララの視線が痛いらしく、ヨヒムはソッポを向いてしまった。
読んでいただきありがとうございました。
次話は来週の土曜日に投稿したいと思います。




