31.専属従女のシャーリーさん
「その王族専用の隠し通路を私達が使ってもよろしいのですか?」
前王様に尋ねる、すると力強く頷いてくれた。
「今のままではダメなのは分かっておる、内乱一歩手前なのだ、出し惜しみしている場合ではない」
きっと王宮が襲われた時の緊急避難用の隠し通路だと思うが、それを使わせてもらえれば本当にありがたい。
「なら私どもは人を集めましょう、ローゼリア家の腕の立つ者を数名集めて来ます。例え将軍であろうと複数人の精鋭を集めれば何とかなるだろう」
お父様がマクドガル執事長に視線を向けて立ち上がる。お父様とお母様も一礼して帰って行く。
「どれ、私は久しぶりに文を書くか」
前王様も立ち上がると執事さんを連れて部屋を出て行く。
そして残されたのは前王妃様と私達だけになってしまった。
「・・・おい、この空気、どうすんだよ」
ヨヒムが私は脇をつついて小声で聞いてくる。
「私だって知らないよ、取り敢えずこれでお暇しちゃっていいのかな?」
ベベルに視線を向けると顔を赤くして視線を逸らしてしまった。アイツはもうダメだ、こういう時に頼りになるのはロナだ、
「さあ皆様!ケーキが焼けましたよー!!!」
ここで突然、勢いよく扉が開いたと思ったら大きなケーキを持ったメイドのシャーリーさんが空気を読まずに元気よく入ってきた。
「まあ、お手伝いいたします」
ロナがここで有能ぶりを発揮する、即座に動いてお茶の準備を手伝い始めてしまう。動きが早すぎて私は置いてけぼりだ。
「うふふ、ゆっくりしていってね」
前王妃様!?そう言えばこれが貴族の流儀だった気がする、平民とは流れる時間のスピードが違うのだった。
「うわー、美味しそう」
クララがケーキを見て目を輝かせている。そう言えばクララは大の甘党だ、こんな豪華なケーキは初めて見たかもしれない。
「シャーリーのケーキはそこらの菓子屋より断然に美味しいわよ!」
生クリームと果物がたっぷり使ってあるケーキだ、普段は固い砂糖菓子ばかりだから、柔らかいケーキなんていう甘味は滅多にお目にかかれない。
こうして考える私も甘い物が大好きだったような気がする。
まあ、肉かケーキどちらかなら肉を選ぶけど。
豪勢に切り分けられたケーキが目の前に置かれる。そしてレモンの乗った紅茶が横に据えられる。
ゴクリ、
隣に座るクララから生唾を飲み込む大きな音が聞こえる、そろそろ我慢の限界のようだ。
「どうぞ」の合図と共にフォークをケーキに刺す。柔らかい弾力のある生地に生クリームが巻き込まれていく。そして一口口にすると広がる甘く甘い甘すぎる甘美な世界。
「美味いな」
ヨヒムは月並みのことしか言えないようだ。
「美味いなんてもんじゃない、美味すぎるよ、美味すぎてもう何も美味くなくなってしまう!」
クララが壊れた!?
「これはシャーリーさんの手作りですか?」
私はシャーリーさんの名前や顔は知っていたが、ケーキ作りが得意なんて知らなかった。
「はい、私は元々は外部からの給仕でしたけど、この特技のおかげで妃様に仕えさせてもらってますの」
あら、シャーリーさんは外部給仕だったのか、丁度良いタイミングで話を聞ける人がいた。
「あら?そうだったの?」
・・・前王妃様は全然覚えていないかったようだ。
「ええ!?陛下と外部給仕が!?」
さっきまでの会話の場にいなかったので、話の流れを説明しながら聞いてみる、やはりシャーリーさんも驚いた様子だ。
「ええと、確かに、私は陛下に直接スカウトされました。食が細い妃様に美味しいケーキを食べさせてあげて欲しいと頼まれ、そのお優しさに感動したのを今でも覚えてます」
「ええ!?そうだったの!?」
前王妃様・・・
「おそらく王妃というプレッシャーなのか、即位当初はどんどん痩せられてて・・・陛下がどれだけ心配なさった事か!!」
前王妃様が専属メイドに叱られているのを初めて見た。
「妃様は私のケーキだけは美味しく食べて頂いたのを見て、私の職場まで直接来たのですよ?あのような気遣いができる国王様に感動したというのに、その優しさを当の本人が全然気がついていないなんて」
「あ、あのシャーリーさん、そろそろ話を戻してもらってもよろしいですか?」
前王妃様が泣きそうになっているので止めてあげる、それにしても前王様は本当に素晴らしい人というのがよく分かるエピソードだ。
「それで外部給仕と陛下ですか。私としては陛下が幼い頃から知っていますので、あまり悪く言いたくないのが本音です。ですが、私も余所者が妃様専属になったことで、かなりやっかみがありましたからね」
「え?そうだったの?」
前王妃様がシャーリーさんに睨まれてソッポを向く。
そして大きく息を吐くと再び話を続ける。
「ましてや愛人などとなれば周囲との軋轢は激しいものになると思います。普通に従女達に聞けばすぐに尾ひれがついて身元など割れそうなものですが」
おお、王宮の闇ですな。
「はい、確かに従女に尋ねたところ、様々な証言が出てきました。娼婦と言う者もいれば、髪結の娘、ドレスの仕立て屋から料理人などです」
ようやくベベルが復活したようだ、顔がシャキッとしている。
「あれ?何で証言がバラバラなんだ?」
あ、確かに何でバラバラなんだ?首を傾げるて考えているヨヒムが頭が良さそうに見える。
「そうなんです、なぜか証言が一致しないのです。なので確定できないのです、何せ離宮で囲っているとの話なので証言が曖昧なのです」
よっぽど大切にされているんだろう。虚偽の情報で周囲を撹乱しているのだろうか?
どっちにしても、王位を退けばその方と一緒になれば良い、逆にフランシソアにしがみつかれるより全然良いと思う。




