28.決意と覚悟
「さあ、ここでは何だから中に入りなさい」
前王様がここで声をかけてくれる。すると前王妃様も抱く力を緩め、涙目ながらも笑顔に戻ってくれた。
館の中に招かれると本当に人が少なかった。まず迎えてくれたのが白くて大きな犬だ、この子は前王妃様がずっと可愛がっているペットだったはず。
そして見覚えのある執事さんが頭を下げる。背筋がピンと伸びて姿勢が良く、紳士の鑑のような佇まいだ。
またもう1人見覚えのある人と目が合う。ふくよかなメイドさんが私に向けて頭を下げる、確かこの人は前王妃様の専属の従女さんだと思った。
「シャーリー、お茶の用意をお願い」
「はい、奥様」
そう、メイドさんの名前はシャーリーさんだ。前王妃様にとても長く仕えていると聞いた事がある。
「どうぞこちらへ」
執事さんに案内されて日当たりの良い応接間に入る。ここからは庭がよく見え、色とりどりの花が植えられていた。
「ここだけはしっかりと手入れをしてくれているんだ」
嬉しそうに前王様が椅子に座るように促してくれる。
「ふふふ、ここの有様に驚いたでしょ?本当に捨てられた場所みたいに寂れてしまったわ。昔馴染みの人は時々訪れてくれるけど、人の出入りは本当に少なくなってしまった」
みんなから尊敬されていた前国王夫妻がこのような扱いを受けて本当に良いのか?こんな現状を許していいのか?今になってグラン様に対して怒りを覚え始めてしまう。
だけどお二人の穏やかな表情を見ていると、思っていたより不幸ではないのか?王位にいた頃と比べ、笑顔が絶えないような気がする。
「お久しぶりです陛下。以前はキシリアナ=ローゼリアと名乗っていましたが、今は平民のキアという名で過ごしています。そして、私などのために心を痛めさせてしまい本当に申し訳ありませんでした」
改めて挨拶をする、私が平民と口にすると複雑そうな顔をされてしまった。
「うふふ、そんな顔をなさらないで下さい。私はこちらにいる2人に命を救われ、貴族とは正反対の生活をしてきましたが、毎日面白おかしく過ごしていますよ。きっと今のお二方ならご理解していただけそうですけど?」
何となくだが、率直に2人の雰囲気から引き合いに出してみる。すると2人はお互いに顔を見合うと笑顔になる。
「そうだな。こんなにもゆっくりと時を過ごせる日が来るとは思ってもいなかった。罰のはずの隠居だったが、全く罰になっていないかもしれないな」
前王様が穏やかに笑う、それを見て前王妃様も一緒に笑っている、その笑顔を見て少しだけ安心した。
「失礼します。ローゼリア侯爵様ご夫妻がおこしです」
ここで執事さんがノックをして部屋に入って来た。どうやらお父様とお母様が到着したようだ。
「おお、ギルバルトが来たか、ここに通してくれ」
お父様達が部屋に入ってくると抱き合って再会を喜んでいる。
ようやく役者が全員揃った所で話を進める事が出来そうだ。
「・・・魔女とな」
前王様の眉間に皺が寄る、これまでの経緯とフランシソアの身に起きたと思われるたことを話す。やはり最初は信じられない様子だったけど、ベベルが調べた状況証拠を聞くと厳しい顔になる。
「はい。そして本来のフランシソア様はこの指輪の中に閉じ込められいます。おそらくですが、王妃にこの指輪を着けさせれば入れ替わる事が出来るそうです」
ふと見ると何やら難しい顔をしている、軍部が関わっているから難しいのか?
「それは、本当に指輪をはめれば元に戻るのかな?」
前王様の質問にハッとする。確かに指輪をはめても元に戻らなかったら不味いのでは?
(・・・キア、お願い、ちょっとだけ変わって。少しだけ話をさせて)
ここで指輪から入れ替わって欲しいというお願いされた。
「・・・キシリアナ?」
お母様の心配そうな声がする、気を失うような感覚を覚えてすぐに覚醒する。まるで自分を客観的に見ているような感じになる。
「は じめまして。わ たしは フランシソア と申します」
明らかに私ではない存在になった事に戸惑いを感じているようだ。
「この たび は私のせいで迷惑をかけて しまい申し訳ありません でした。キアさんの体を借りてですが、 あやまらせて下さい」
私の体で頭を下げる。別にフランシソアが悪いわけではないので本当なら謝らなくてもいいのに、これでは私が謝っているみたいだし。
「それから 指輪をはめたら元に戻るかどうかの確証は ありません。少し前に私達を貶めた神と名乗る男が私達の前に現れました。その男は 復讐の機会を与える という悪意のある言い方をしました。正直言ってその話に乗って良いのか悩みました」
慣れてきたのか、だんだんと喋りが流暢になってきた。それでも顔を真っ赤にして目には涙を溜めている。
「キアさんには 私ごと指輪を海に捨てるようにお願いしたのですが拒否されてしまいました。そして生きるように励まされ、確証も ないのにこんな所までノコノコと来てしまいました」
以前は全然喋れず、指輪の中にすぐに逃げてしまったのに・・・
「私は キアさんの優しさに甘えたまま覚悟が足りなかったのだと思います」
顔を上げてみんなの方を見る、そして指輪の中にいる私を見る。その瞳は涙でいっぱいになっているが、強い決意と覚悟が見て取れる。
「もし戻らなかったら。そのまま私を海に捨て、フランシソアを・・」
「フランシソアを・・・どうか殺して下さい」
読んで頂きありがとうございました。
仕事が忙しくなり書く時間が足りないのは変わりません。
しばらくは土日のみの投稿になると思います。なので次話は来週の土曜日になります。同時に投稿している精霊女王様の方は何とか投稿のペースを守ろうと思ってます。
よろしくお願いします。




