27.前国王夫妻
「まさかこんなにすぐに会うことになるなんて」
ついついボヤきが口から出てしまう。
あれからすぐにマクドガル執事長が戻ってきて、前国王様夫妻からすぐに会いたいと打診されてしまった。
ただ私達とお父様達が一緒に行動するのは目立ってしまうので、私達だけ先に向かうことになった。ロナ、ベベルが裏口に私達を案内し、すでに準備された馬車に乗り込む。
「見事に巻き込まれたな」
「うん、そうね」
ヨヒム、クララが私を睨む、話が急展開すぎて私だってこんな大事になるとは想像してなかったよ!
「・・・ねえ、ベベル?ロナ?このまま帰るのは・・・ダメ?」
「「「おい!!」」」
この馬車にいる全員から侮蔑の冷たい視線をむけられる、
「あの、その、お腹が痛くなってきたの・・・」
・・・みんなの視線のおかげでお腹まで冷たくなってきた。
「・・・嘘デス、ゴメンナサイ」
この流れに抗うことは出来ないようだ。馬車は私の思いとは関係なく、無常にも王家の直轄地へと入っていく。
「あれ?何か寂れてない?」
馬車の小窓から外を覗いてみる。以前は薔薇の庭園やら、噴水やら華やかな印象だった。今は庭園なんかは手入れがされてない状態で、沢山の人がいたはずなのに誰も見当たらない。
「何か思ってたのと違う・・・」
クララも小窓から外を覗いて、率直な意見を呟く。
「寂れているな」
馬車の座席の真ん中に座っていたヨヒムが、私にのしかかってきて外を覗く。
「重いよ、退けって!」
筋肉=体重だ!私が潰れてしまう。
ようやく解放されてベベルとロナを見る、2人とも何とも言えない表情をしている。
「前国王様が臣下の諸貴族の下を訪れたことはお話しましたよね」
謝罪行脚をしたという話か?
そう言えば私財を切り崩したと言っていた気が・・
「前国王様が私財を切り崩して諸貴族に取りなしてもらい何とか王政を維持していたのです。私財を切り崩した結果がこの有り様です、栄えていたはずの王族直轄地はこのように寂しい場所へと変貌してしまいました」
ベベルの寂しそうな表情が全てを物語っていた。
グラン陛下は一体何がしたいんだ?実の両親を不幸にしてどういう結果を望んでいたんだ?怒りというより呆れて何も言えないわ。
「こんな事を言ってはいけませんが、前国王様はキシリアナお嬢様が亡くなったとの一報が入った時点でグラン陛下に見切りをつけるべきだったのです!フランシソア妃が5人の男と同時にお付き合いしているのが判明した時にはすでに遅かったのです!最後までグラン陛下が目を覚ましてくれると信じていたのに、あの男は」
ベベルが少しヒートアップしてきた。
「ベベル、口を慎みなさい」
ロナが冷たく言い放つ、するとハッとしたようにベベルが謝る。こういう時のロナは本当に頼りになる、立場的にはベベルの方が上のはずだけどちゃんと窘めてくれる。
「到着しましたよ」
少しギスギスしてきた馬車の空気だったが、馭者のコリスが幌の小窓から声をかけてくれた。
馬車は古い貴賓館のような館の前で止まった。
「・・・ここに住まわれているのですか?」
前国王が住むにはあまりに質素で寂れている。こんな事があっていいのだろうか?
「こんな場所では護衛も何もないじゃない!何を考えているの、先代とはいえ一国の国家元首に対してこのような処遇を許していいのですか!?」
ベベルに詰め寄ると視線を合わせず何も言ってくれない。
「ふふふ、やはり貴女を妃に選んだ私の目は正しかったようだな」
館の方から声がする。振り向くと威厳という鎧が無くなり、穏やかに笑う前王様が私達を迎えに来てくれた。
「見違える程逞しくなって、最初は誰か分からなかったよ。声と、その口から発する優しい言葉でようやく気がついたよ。本当に生きていてくれてありがとう、そして本当に酷い仕打ちをしてしまった、この通りだ」
私に向けて頭を下げようとする。そんな事はして欲しくないし、元国王様にそんな事をさせてはいけないとすぐにやめてもらう。そして前王様が視線を館の入り口に向ける、私もそちらに視線を移すと1人の貴婦人が立っていた。
「キシリアナさん・・・」
館の玄関には今にも泣きそうな顔をした前王妃様が私の名を呼ぶ。
どうしよう私まで泣きそうになってきた。
「こんな場所ではなんだから入ってくれ。大したもてなしは出来ないがお茶くらいは出せる」
前王様に促され私達は館の中に招かれる。
ここでヨヒムが私の脇を突いてくる。
「何?」
「い、いいのか?私達も一緒で?」
さすがにこれは私にも分からない、ベベルを見ると小さく頷いているので良いのだろう。
「取り敢えず一緒で良いんじゃない?多分問題があればベベルとロナがなんとかしてくれるでしょ」
相変わらず人任せだけど、こればっかりはお願いするしかない。平民の時間が長すぎて貴族の常識をすっかり忘れてしまったよ。早くお父様とお母様がきて欲しい。
「キシリアナさん!」
私が玄関で待っていた前王妃様に挨拶をしようとすると遮られるように抱きしめられる。
「良かった、本当に生きていてくれて良かった」
声が涙ぐんでいる、私の事でここまで気に病んでいたとは思いもしなかった。
私は何て応えれば良いのだろう、以前より小さくなってしまった前王妃様を慰める言葉が見つからない。
私も背中に手を回して抱き返すことしか出来なかった。




