23.家族との再会
翌朝、約束通りロナが迎えに来てくれた。馬車の馭者はもちろんコリスだ。
「・・・飲み過ぎた」
ヨヒムが頭を押さえている。昨日は夕食を食べたレストランで飲んで、それから自室でもお酒を飲んでいたらしい。朝食にも姿を見せなかったので心配になって見に行ってみたらこのザマだ。
「ほら、水もらってきたよ」
クララが冷たい水の入ったボトルを渡す。ヨヒムはそれを一口飲んで、あとは額にあてて頭を冷やしている。
ロナが馬車に乗り込んだ私達のやり取りを見て笑っている、どうも生温かい視線が気になる。
「何?」
「いえ、とても楽しそうに思えて」
ロナよ、それは少々違うぞ、私達は朝方まで飲んでたバカ女の介抱をしているだけだよ。
「もしかしてだけど、昨日買ったの全部飲んだの?」
私の質問に顔を背ける。
「・・・うん。美味しかったから・・・つい」
本物のバカ女だ。ちょっとだけ可愛子ぶっても全然可愛くないんだよ!!
ヨヒムの介抱をしていると、あっという間にお祖父様が療養している王立病院に到着する。
「こちらです」
ロナに案内されて裏口から入っていく。整然とした院内の廊下を歩く、人の気配が全くなく私達の足音だけしか聞こえない。
「お嬢様をお連れいたしました」
ロナがドアの前に立つ2人の男性に一礼する。1人は見覚えがある、かつて私の従者をしてくれていたベベル、そして隣に立つ高身長の老紳士が私と目が合う。私の顔を見て大きく目を見開いて驚いているが、すぐに平静を取り戻して私に頭を下げる。
「マクドガル執事長お久しぶりです。その節は大変なご迷惑をかけてしまいました」
深々と頭を下げる。するとマクドガル執事長は膝をついて私と視線を近づける。
「頭をお上げ下さい。ベベルから全て伺っております。例え今は平民と言い張られても、我々の想いは変わりません。キア様が大旦那様の大切なお孫様であり、ローゼリア家の人間であることは何ら変わりません」
マクドガル執事長に顔をあげるように促される、思ったより近くに顔があって驚いてしまった。それでも真っ直ぐに私を見据えている。
「だいぶお髪が白くなってしまいましたね」
昔は綺麗な黒髪だったのに、白髪が目立つようになり顔の皺も深くなった気がする。
「10年とは短いようで長かったようですな。お嬢様も見違える程に逞しくなられた。さあ、どうぞ大旦那様がお持ちです」
マクドガル執事長がドアを開けると1人の老紳士が椅子に腰掛けていた。
「ここから先はアンタだけだよ」
ヨヒムがこんな時に限って空気を読みやがる、私を置いてどっかに行ってしまった。
「良き方々ですね」
マクドガル執事長がヨヒムとクララの背中を見送る。
「・・・私の恩人です、丁重にお願いします」
そう言って頭を下げるとマクドガル執事長はベベルとロナに目配せする、すると2人はすぐにヨヒムとクララの後を追いかけて行った。
「キシリアナ・・・」
小さく呟く、お祖父様は昔に比べてだいぶ小さくなってしまった。
「お祖父様、たいへんご無沙汰してしまいました」
立ち上がろうとするのですぐに止め、私が隣の椅子に腰掛ける。
「すまなかった。私の見通しが甘いばっかりに辛い目に合わせてしまった。本当にすまなかった」
私の手を握り涙をこぼしながら謝ってくる。
「お祖父様は何も悪くありません。全ての元凶は私であり、お祖父様に何ら落ち度はございません」
気持ちが重くなる、こんなにも苦しませてしまった事を後悔することしか出来ない。
「お祖父様のお体に障ります、マクドガル執事長」
私が呼ぶとマクドガル執事長はすぐにお祖父様を支えてベッドの上に横にさせてもらう。私も一緒にそれを手伝う、執事長に止めるように言われるが断る。
「お願いです。私も手伝わせて下さい」
どうしてやりたかった、昔に比べたら力はついたから大丈夫なはずだ。お祖父様がとても痩せ細り、軽くなってしまった事がとてもショックだった。
「良かった、最後にキシリアナに会えて、本当に良かった」
ベッドの上でうわごとのように呟く、
「最後などと言わないで下さい。それにまだ見届けて欲しい事があります」
私はマクドガル執事長に視線を向ける、すると話を聞いているのか頷いてくれた。
「王妃フランシソア様に関することです」
ガチャ、
不意に扉が開いてギョッとする、この場に私達以外の人間が入ってくるとは思わなかった。
「キシリアナ!!」
大きな声で私の名前を呼ばれる。豪奢なドレスに身を纏った女性がはしたなく駆け寄ってきて、思いっきり抱き締められる。
「お、お母様・・・」
自然と涙が目に溜まってくる、後ろからは美しい金髪の大柄な紳士が私の方へ向けて歩いてくる。
「お父様」
お父様はそのままガバッとお母様と私をまとめて抱きしめる。
「キシリアナ、よくぞ無事に・・」
涙ぐんだ声に抱きしめる力が強くなっていく。
「ぐ、ぐるじい・・・」
「お、おどうざま!!し、死ぬ」
私とお母様が苦しむ呻き声にようやく気づき、死の抱擁から解放された。
大きく息を吸って呼吸を整える、落ち着いて周りを見渡す。
まさかお父様とお母様が、自らこの場にやって来るとは思いもしなかった。




