22.橋の上
大型商業施設の1階は食品関係のフロアだ。ヨヒムの希望でそこのお酒販売のコーナーへ立ち寄る。
「いいね!良い品揃えだ!」
興奮気味のヨヒムがニヤニヤ笑っている。
「ネッサにも何か買って行こうか」
私が働いている魚の加工工場の娘ネッサは大の酒飲みだ、何かお土産にお酒を買ってあげれば大喜びしそうだ。
「だね、ついでに親父さんの分も買っていこうよ」
クララもお世話になっていたので一緒に金を出してくれるみたいだ。
「メダリアじゃ見ないのが沢山あるな、内陸の方の酒かな」
物珍しそうにヨヒムが見ていると店員さんが声をかけてくる。
「試飲してみます?」
・・・お酒の試飲?そんな事ができるの!?
私達が不思議がっていると小さな紙製のコップを持ってきて、ヨヒムが気になっていたお酒を注いでくれた。
「どうぞ」
私達にも渡してくれた。
芳醇な香りがコップから漂う。一口飲んでみると焼けるように喉が熱い、物凄く強いお酒だ!
「これは・・・美味いな、穀物の蒸留酒か?」
ヨヒムにとっては美味しいらしい。クララも気になって一口飲むと私と同じような反応を見せる。
「うん、これを貰おう。それとあっちも試飲できるか?」
ヨヒムが乗ってきた。私達はそこまでお酒に強くないので付き合っていたら潰されてしまう。自分達の欲しいものを探すべく、別の店員さんに声をかける事にする。
「お土産用に冷やして飲む果実酒でオススメなのはありますか?できればこちらでしか売ってないお酒がいいのですが」
見つけた店員さんに声をかけるとオシャレなパッケージの果実酒のコーナーへ案内してくれた。
こうして私達も目的の物を買えた、ヨヒムに至ってはまだ買い足りないみたいで、帰り日にまた寄りたいと言っている。
「まだ買うの?」
「おう、今日買ったのはホテルで飲むやつな」
どれだけ飲むつもりだ!?
とりあえず大型商業施設を出て街に出る、だいぶ時間が経ったようで、もう夕方になってしまっていた。
「それじゃあ、ご飯食べて帰るか」
私の提案に2人は嬉しそうな顔になる。
「おう、何食う?」
「お腹すいたー」
良さげな店を探して街をブラブラする。そして運河にかかる橋へと差し掛かる、
(・・・あ、そこ!!その橋に行って!)
突然、指輪が運河にかかる橋を見て喋りかけてくる。
「どうした?」
橋の真ん中に立つ、
(ここ、覚えてる。私はこの橋の上から投げ捨てられた。てっきり海だと思っていたけど、運河に捨てられたのか)
流れは緩やかだけど、ここから捨てられたなら間違いなく海に向かって行くだろう。
(私が代わりにフランシソアをやってやるから、安心してどっか行けって言われたわ。すぐにケースの蓋を閉じられたから分からなかったけど、多分笑っていたと思う)
私と指輪の会話は周りには聞こえない、ヨヒム達には運河を見ながら私が黄昏ているように映ったようだ。
「大丈夫か?」
ヨヒムが何やら心配そうに肩を叩く。間違いなく何か勘違いしている。
「違う、黄昏ているのはこっち」
指輪を見せると「ああ、そっちか」と小さな声で呟かれてしまった。
「ここからあの女に投げ捨てられたんだと」
2人に理由を話すと納得した様子だ、私の横に立って一緒に運河の先を眺める。
「一応この国の国民だけど、王妃があんなのだったなんて知らなかったわ」
クララが先程見た王妃フランシソアの姿を思い出すように呟く。
「私が子供の頃、前国王夫妻が即位のお披露目にメダリアに来た事があったな、すっげえお祭り騒ぎだったのを覚えている。今の王様はそれをやらなかったからな、顔も名前も全然分からなかったわ」
ヨヒムが苦笑いしている、そう言えばグラン陛下とフランシソア王妃の婚礼のパレードとか一切やらなかったな。普通はその日は祝日になって国全体でお祝いムードになるはずなのに。
指輪はフランシソアの体に戻ったらどうなるんだろうか?魔女に体を乗っ取られた趣旨を説明して、そのまま王妃になるんだろうか?
(嫌よ。全然知らない好きでもない人と一緒にいれる訳ないでしょ)
それなら離縁になるのか・・・まあ、今でも関係が冷めきっているっぽいから、事情を説明すれば円満に別れられるかな。この辺りは私達では何とも出来ないからね。やるならローゼリア家に何とかしてもらうしかないけど、フランシソアのためにそこまでやってくれるだろうか?
(私も平民になれれば良いと思うけど、物凄く周囲から恨みを買ってそうよね?誰か分からない人に殺されるのはヤダなあ)
すこぶる評判が悪いと聞いているからなあ、確かに殺される可能性だってある。
それだったらメダリアに逃げ込むしかないな、私みたいに名前を変えて別人として生きるしかないね。
(それが現実的よね。あんな胸を強調した派手な格好と化粧をやめて、髪型を変えれば何とかならないかな?)
どうだろう?私は化粧をしてないし、髪を短くしているのにすぐに私だとバレたよ?
(それはキアがみんなから好かれているからだよ。私とは全然違うわ)
私自身はみんなに嫌われていると思っていたんだけどなあ。
まあ、メダリアに逃げ込めば、周りは身分より個人として見てくれるから本人の頑張り次第だ。それにメダリアでお披露目パレードをしていないから顔はバレていないから何とかなりそうな気がする。
「おい、そろそろ行こうぜ」
「腹減ったよ」
ヨヒムとクララから催促される、私もお腹がペコペコだ。
明日のためにも美味しいものを食べて英気を養わないと。




