20.王都へやって来た。
朝一番の船に乗り込み、運河を内陸へと登って行くこと半日。
「おお!あれが王都か!?初めて見た!!」
生まれも育ちもメダリア港湾都市のヨヒムが興奮を抑えられない様子で甲板に出る。
甲板から遠くに見える王都の城壁がだんだんと近づいて来て、その大きさに圧倒される。
運河はそのまま王都の中を進み、王都のど真ん中にある船着場に到着する。
「ありゃ?ここが終点じゃないの?」
クララがまだ先へ続いている運河を見る。
「ここから先は高地の大都市へ繋がってんだよ。行った事はないけど、石炭や木材の産地だと聞いた事がある」
私も行った事がないので知識だけしか知らないが、メダリアのように自治を任されている巨大な鉱山都市があると聞いた事がある。
貨客船は船着場に停泊する。船を降りるとそこには多くの人が待ち構えていた。貨客船に乗せた荷物を荷下ろしする人達だ、この船の本来の主役は積んでいる荷物で私達はオマケなのだ。
オマケの乗客は、荷下ろしの邪魔にならないように端から降りて、足早に運河の堤防の階段を登って行く。
「おおお、人が多い!」
田舎者丸出しの2人が王都の街並みに興奮している。
「キア様、ヨヒム様、クララ様でしょうか?」
私達が街並みに驚いていると後ろから声をかけられる。振り返ると凛とした眼鏡の女性が立っていた、見知った顔に思わず名前を呼びそうになるのを我慢する。
「はい、そうです。迎えの方ですか?」
女性は私を見て大きく目を見開くが、すぐに持ち直して一礼する。
「こちらの馬車へどうぞ」
そう言うと普通の幌馬車へ案内してくれる。馬車の馭者も覚えのある顔だ。
そのまま私達と女性は馬車に乗り込む。
「ロナ・・・お久しぶりです」
馬車の扉を閉め動き出したタイミングで頭を下げる。
「お嬢様・・・よくぞ・・ご無事で」
涙ぐんだ声でロナも頭を下げる。
懐かしい顔だ、ロナは私の専属従女だった女性で、冷静沈着で私を毅然と窘めてくれた。最後は喧嘩別れのようになったしまったが、こうしてまた会うことが出来るとは思っていなかった。
「苦労をなさったのですね。でもとても逞しく見えます」
しみじみと私を見る。
「あの時は本当に申し訳ない事をしました。貴女には酷い言葉を一杯投げかけてしまいました」
謝ろうとすると遮るように手を握る。
「私どもは皆、ベベルと同じ思いです。例え酷い言葉を言われたとしても、遠い過去の事です、ただこうして再会できた事を喜びましょう」
目は潤んでいるが笑顔を向けてくれる。
ロナに謝罪を拒否されてしまった。だけどここはロナの言う通りだと思う。
「ふふふ、お互い老けてしまったわね」
「そうですね。私なんかすでに30半ばになってしまいましたよ」
ようやく笑い合えるようになった。そしてロナはヨヒムとクララの方を向く。
「初めまして、ベベルからお二方はお嬢様の恩人とお聞きしてます。元従者として感謝いたします」
深々と頭を下げて礼を言う、2人は大慌てで否定する。
「頑張ったのはキア自身です、私らは大した事はしてないよ」
ほう、ヨヒムよ、中々良い事を言ってくれる。
「そうです、そうです、逆に私は世話になった方だし」
ええ!?クララがそんな事を言うなんて!唖然として見ていると目が合う。さっきまでのにこやかな表情から一転し、射殺すような視線で私を睨みつける。
本当に面倒臭い奴だ。
「それで、お祖父様はそこまで悪いのですか?」
最も懸念だったお祖父様の容態を聞いておきたい。
「そうですね。大旦那様は王立病院に入院していたのですが、お嬢様の一報を聞いてすぐに退院しようとしたそうですよ」
何だ?思ったより深刻ではないのか?
「ですがいきなりの退院は無理なので、明日、王立病院の一部を貸りて面会しようと思うのですが、いかがでしょう?本日は私どもで宿を用意しますので、皆様で王都を満喫してもらおうと考えてます」
とりあえずヨヒムとクララを見る。
「私はそれで構わんよ」
「私も」
時間はあるから問題は無さそうだ。
「では本日の宿へ案内します」
昔のような仕事を完璧にこなすロナの姿にに懐かさを覚えつつ、ただひとつだけ・・・
「ロナ、超高級ホテルとかはダメよ?」
「・・・はい?」
ポカンとした顔をされる。
「私達は掃き溜めみたいなホコリ被ったゴミ屋敷で暮らしているんだから。平民の私達は場違いにも程があるし、他の貴族に見つけられたら嫌でしょ?私の存在自体がアレだし」
するとハッとしたようにロナが納得した顔をする、今になってポカをするロナを初めて見た気がする。
「・・・てめえ、いい度胸だな。すぐにでもゴミ屋敷から叩き出してやろうか?」
隣にいるヨヒムからの殺気がすごいけど・・・気にしない、気にしない。
「ではすぐに変更し、別のホテルへご案内します」
ロナは馭者への予定変更を伝えるため幌の窓を開ける、私はチャンスと見てロナの隣に移動する。
「コリスですよね?お元気そうで良かった」
突然、私が隣に来てロナは驚く。そしていきなり声をかけられた馭者も驚いた様子で私の方へ視線を移す。
「お嬢様!?私の名前を覚えてらしたのですか?」
驚いたのはそっちの方かい、
「もちろんです、私に携わってくれた方はみんな感謝の気持ちしかありませんよ。10年経って今更だとお叱りを受けそうですけど、ずっと私の馭者をしてくれた方を忘れる訳がありません」
・・・まあ、実は昨日のうちに一生懸命過去を思い出して予習をして来たんだけどね。
「そうですか・・・私も忘れられませんでしたよ。本当に生きていて下さって本当に良かったです」
前を見たまま涙ぐんだ声で返事をする。
「もし時間があればゆっくりとお話ししましょう」
馬車の邪魔をしてはいけないのですぐに引っ込み、元の位置へ着席する。
彼らに会えただけで王都に来て良かったと思えた。
読んでいただきありがとうございました。
次話の投稿は土曜日になると思います。




