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18.過去に思いを馳せて。(ベベル視点)

 ーーベベルーー



「貴方が私の従者?ふーん、」

 美しい金髪を靡かせて生意気そうな顔の少女が私の前に立っている。

 キシリアナお嬢様と初めて会った時のことだ。今でも鮮明にその時の光景を覚えている、お嬢様が8歳の時の話だ。


 ローゼリア家の嫡男アーレイト様の子弟として仕え可愛がってもらっていた。その後、執事長に見出してもらってローゼリア家に仕えることが出来た。

 そして私が仕える事となったのがローゼリア家長女のキシリアナお嬢様だ。

 生意気でわがまま、プライドが高くて負けず嫌い、まさに噂通りの人物で、最初は前途多難だと思っていた。


 だがその評価はすぐに覆ることとなった。


 生意気でわがままなのは普通の貴族令嬢なら当然とも言える範疇のものだった。プライドが高いのは権威ある侯爵家ならば当然だ。

 ただ一つだけ普通の貴族令嬢と大きく違う面をキシリアナお嬢様は持っていた。

 それはとにかく負けず嫌いだった事だ、ただそれが普通に良くある実力の伴わない負けず嫌いではなかった。

 泣いて喚く訳でもなく、負けは認めつつも決して涙をみせず唇を噛んで耐えている。そして我らに何が悪かったかを意見を求めてきた。もちろんそれは表立ってではないが、とてもプライドが高い人間では出来ない行為だ。

 そして悪いと指摘された事を克服するために努力をおしまなかった。上手くいった場合、我々に向けて小さく目でお礼をするのが習慣になっていた。

 無言のお礼をされるたびに、私達はどんどん惹かれていった。


 その頃になると、プライドの高さも、自信満々で生意気にみえる態度も、全てが影の努力に裏打ちされたものなのだと理解できるようになった。


 その姿勢は王太子の妃候補となった時に更に凄みを増した。余裕で優雅に課題をこなしていく姿は、同じ候補者に嫉妬と共に羨望を与えた。

 だが我々は裏で必死に学んでいる姿を知っている。我々だけに見せている姿だ、意見を求められ、辛辣な意見も真摯に受け止めて克服に臨む。何ら変わりない幼い頃からの変わらぬ姿だ。


 ただその頃にはお嬢様の態度に変化が見えた。我々が喜んでいると一緒に笑い、悲しんでいると一緒に泣いてくれる。我々に対して全幅の信頼を寄せてくれるようになった。

 口には出されないが態度でその気持ちが滲み出ていた。思いは皆が汲み取っており、お嬢様に仕える者全てが主として忠誠を誓うようになっていた。


 そして見事に王太子の婚約者として選ばれた時、初めて泣きながら我々への感謝を口にされた。

 嬉しかった、終生の忠誠を誓える人だと皆が思えた瞬間であった。



 懐かしいな、思えばあの頃が1番楽しくて充実していた頃だと思う。シシア言語の会話相手として私も学ばされたのは良い思い出だ。


 過去に思いを馳せつつ連れてかれたのは、10席程度の酒場であった。マスターと思われる高身長の女性と交易センターの女性が何やら話をしている。

 こちらへ視線を向けられると軽く会釈をする、どうも警戒されているようだ。

 取り敢えずローゼリア侯爵家の人間である事を説明すると、高身長の女性は心当たりがあるのかお店を臨時休業すると言い出した。


「なんで!?」

「いいから、キアが帰って来たら話してくれるだろ、私らがとやかく言う話じゃない。」


 小さな声で口論している。どうやら高身長の女性は何かを知っている様子だ、だが我々への警戒は解いていない。


『ベベル、店まで閉めさせたなら何か頼まないと失礼だよ!』

 カリムが明るく私の肩をたたく、確かにかなり迷惑をかけてしまっている。

「すまないが、何か飲み物をいただいても良いでしょうか?」

 金貨をカウンターの上におく。

「おや?貴族様に出せるようなものがあるかなぁ?」

 女性がカウンターに立つと冷たい果実酒を出してくれた。

「これは、見た事のないお酒だが、かなり上等なものですね。」


「おや分かるかい?舶来品のお酒ですわ、これくらいしか出せそうな物がなくてね。」

 お酒の説明を聞いていると、女性の警戒が緩くなっていくのが分かる。

 おそらく会話をして品定めをされている感じだ。だとしたらかなり聡明な女性のようだ。



「ありゃ、閉まってる?何かあったのかな?」


 外からどこかで聞き覚えのある声が聞こえる。鼓動が大きくなる、心臓の高鳴りが聞こえてきそうだ。

 酒場の入り口から入って来たのは20代半ばの麗しい女性であった。

 美しい金色の髪は肩ぐらいで短く揃えられ、目尻の下にある泣きぼくろが印象的な顔。確かに昔のような厳かな凛とした雰囲気は影を潜め、柔和で優しい空気を醸し出している。化粧をしてないので印象は大きく変わって見えるが、仕えてきた者にはすぐに分かる・・・間違いない、キシリアナ=ローゼリア様だ。


 最初は私の事も思い出せない様子だったが、会話を進めていくうちに次第に記憶が蘇ってきたようだ。

 今は平民としてキアと名乗っているようで、交易センターの受付の女性と、この酒場の女性店主と一緒に共同生活をしているようだ。そして自身が元貴族令嬢であったことも隠している様子だ。


 出会えた時は嬉しさのあまり暴走してしまったが、今でも命を狙われかねない事を忘れていた。

 酒場の店主ヨヒムさんに命を拾われたが、もし生きている事が分かれば再び刺客に襲われるかもしれない。

 油断してはいけない、とにかく慎重に事を運ばなくてはならない。


 そして、ここからキシリアナ様より王室に関わる事件の裏側を語られることとなった。



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