17.旧友からの連絡(ベベル視点)
ーーベベルーー
旧友のカリム=ビランダから突然の連絡を受けた。
彼がメダリア港湾都市に入港したと情報は入っていたが、急報で直に私に連絡がきたので最初は何事かと思った。
『キシリアナお嬢様らしき女性がいた。私では確証が持てないので見に来てほしい』
簡潔な短文で書かれていた。突然の一報に心臓が高鳴る、亡くなったと思われたキシリアナお嬢様が生きているかもしれない?
最期まで守り切ることが出来なかった我が主・・・
「・・・まずは旦那様に報告を」
はやる気持ちをおさえ、ローゼリア家当主ギルバルド=ローゼリア様の下へ向かう。
「ベベル、その話はまことか!?」
ギルバルド様が身を乗り出して私の報告の真偽を確かめてくる。旦那様もキシリアナお嬢様の事件で酷く心を痛められ、ずっと後悔をなされていた。
もし生きていると分かったら単身でメダリアに乗り込んでしまいそうだ。
「ウォルテア商船団のビランダ船長からの報告です。嘘、流言を言うような方ではないのですが、確証が持てないとの事です。なので内密に私がメダリアに渡り確認して参ろうと思います」
もしお嬢様が生きている事が分かれば、口封じをしてくる者がいるかもしれない。特に王家の関係者は過去の不祥事を掘り起こして欲しくないはずだ。
「・・・分かった。ベベルよ頼む。この事はまだ誰にも伏せておくようにしよう。船を用意しておく、舶来品の品定めの体でメダリアに向かってくれ」
旦那様も私の意図を汲んでくれたようだ。もう10年前のような失態を繰り返してはダメだ、慎重に事を運ばなくてはならない。
こうして翌日の早朝、王都の船着場から私はメダリアへ向けて出発した、そして昼過ぎにはメダリアへ到着した。すぐにカリムと会うために港へと向かう。
『やあ!ベベル!元気そうじゃないか!』
健康的に日焼けした旧友が親しげにハグをしてくる。
『久しぶりですカリム!相変わらずアメリア言語はからっきしダメのようですね』
肩をすくめて首を横に振る。今の時代、大きな港湾都市には交易センターがあるので多国語を喋れなくてもやっていけるのだろう。
『それで本当にキシリアナお嬢様だったのか?』
すぐに本題に入る、するとカリムは不思議そうな顔をする。
『おそらく本人だと思うんだ。どこかで既視感がある女性だと思ったが、ふと思い出したようにキシリアナお嬢様の顔とその女性が一致したんだ。目の下の泣きぼくろもあったし、美しい金髪も短くしていたが間違いない。ただ昔のような厳かな凛々しさが無くなって、柔和な聖母のような雰囲気になっていたから最初は全然気づかなかったよ』
確証が持てなかったわけだ、確かカリムがお嬢様と最後に会ったのは15歳の誕生日の時だから、すでに10年以上経っている。私もそんなに印象が変わってしまったら気づかないかもしれない。
『私が会ったのは交易センターの通訳の仕事をしていた。上手なシシア言語を話す女性だと思ったが、私や父と同じ方言だったから珍しいとは思っていたんだ』
そう言うとカリムは立ち上がり出かける準備を始める。
交易センターは通称大通りと呼ばれるメインストリート沿いにある、多くの人々が行き交いとても賑やかだ。
「失礼します」
カリムはアメリア言語を話せないので私が話を進めるしかない。
「昨日、ウォルテア商船団の通訳した方を探しているのですが?」
受付の女性がカリムに一瞬鋭い視線を向ける。そして私の方を向く、
「失礼ですが、貴方様は?」
何やら敵意?を感じる・・・
「失礼しました。私はローゼリア侯爵家に使える執事長補佐のベベルと申します。こちらのウォルテア商船団のビランダ船長とは旧知の仲でして、ここの通訳の方が我々が探している方かもしれないと教えていただき参った次第です」
「・・・すいません、上の者に問い合わせてきます」
受付の女性は一礼して奥の方に入っていった。
『おい!カリム!何をやったんだ!?』
『ふふふ、どうも私がナンパ師だと勘違いされているようですね』
だから日頃の素行を正せと言っているのに!
数分してから、先程の女性が我々を呼びに来て別室に通された。そこには責任者と思われる初老の男性が立って待っていた。
「申し訳ありません、当局の関係者に対しては一切の職務以外の干渉は御法度となっております。お探しの女性に関して、いかなる理由があろうと我々は情報を提示する事は難しいです」
深々と頭を下げて断られる。もちろん想定内の返答だ、まずは同席する女性に視線を送る、出来ることなら離席して欲しいが。
「彼女は?」
私の言葉に責任者と思われる男性は目を細めて答えてくれる。
「気にしないで下さい。身内みたいなものです」
・・・身内?なるほど、カリムだけでなく私も警戒されていたわけか。
「最初に断っておきますが我々は貴方達の敵ではありません。それだけは信じて欲しい」
「我々の探しに来たお方に関しては私達も詳細を話す事はできません。ただその方のこれからの人生に関して極めて重要だと言う事は言えます」
「・・・人生?キアの?」
やはり説得するのはこの眼光鋭い女性の方のようだ。感じ的にこの上司の男に断らせるように我々をここに呼んだのだろう。
「何卒、一目でもあう機会をいただきたい。お願いします」
私が深々と頭を下げたのに驚いた様子だ。ただ私が頭を下げるだけで話が通るなら安いものだ。キシリアナお嬢様が生きているというなら何だってしてやる。
「・・・この後、お時間は大丈夫でしょうか?」
さっきまでの冷たい棘のある声が、少しだけ柔らかくなった気がする。




