彼女の、気持ち。
バイトの帰り道、ふと目の前を歩く伊藤くんの姿を見つけて声を掛けた。
「ねぇ、伊藤くん、どうして私に惚れてくれないの?」
ずっと気になっていたコト。
私は、伊藤くんのことがずっと好き。だから毎日メイクを頑張ったり髪をアップにしてみたりしてるのに…伊藤くんは仕事の会話しかしてくれない。
どうして?
今までなら…男の子の方から声を掛けられて仲良くなって…好きって告白されたのに…。
こんなの…はじめてだよ。
仲良くなってもいない男の子を好きになったのも、伊藤くんがはじめて。
こんなに…好きなのに。どうして伊藤くんは、私に惚れてくれないんだろう。
もしかして、他に好きな子がいるのかな…
そう思って
「ねぇ、伊藤くんは…好きな子とか…いる?」
そう聞いた。けれど
「いませんけど…桐谷さんはいるんですか?」
逆に質問されてしまった。だから
「え?私?私は伊藤くんが好きだよ」
そう答えたのに
「……はい?桐谷さん……ふざけてますか?」
どうして…伊藤くんには私の気持ち、伝わらなかったんだろう…
おまけに、“恋愛的な好きではない”“からかわないでください”そんな言葉まで言われてしまった。
からかってなんていないのに。本当に私、伊藤くんのことが好きなのに。
…はじめて自分から人を好きになったこの恋は、今までの恋愛みたいには、全然うまくいかない。
気持ちすら、ちゃんと伝えられなかった……
伊藤くんと別れたあと、そんなことを考えながらホームへと歩いていた。
そしたら
「なぁ、ねーちゃん、俺と茶ーいかへんか?」
後ろから男の人の声。
うわっお酒くさいっっ
この人、酔ってる…??
そう思うと怖くなって
「いっ行きませんっ」
そう答えた。そしたら
「あ?ねーちゃんちょっと可愛いからってそれはないやろー」
その男の人は私の肩に腕を回してそう言い始めた。
い、やだ。こわいっ
どうして?伊藤くんは全然惚れてもくれないのに、どうして他の男の人は私の見た目だけで寄って来るの?
今までは、それでも楽しい恋愛をしてこれたから…見た目の可愛さは私の唯一の取り柄だって、そればかり磨いてきた。
けれど、好きな男の子に振り向いてもらえないんじゃ…ぜんぜん…意味ないよ…
私はその男の人を振り払って逃げようとした。こんな時、誰も助けてくれないってことも私は知ってる。
だから、逃げなきゃっ!
そう思った時。
「あーお兄さん、僕とお茶行きましょうか。いいお店知ってるんですよ。」
少し低くて、落ち着いた大好きな声。
その声は、伊藤くんだったーーー




