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夜になると村の人たちと狩りに出ていた父さんが帰宅し、手柄のイノシシを自慢してきた。
それもそのはずで体長2メートルはあろう大きさで、玄関の扉を開けた俺はびっくりしたものだ。
持ってみるかと言われた俺は好奇心むき出しで持ち上げたり、引っ張ってみたりと様々な方法を試すが一向に動かず恥をさらすだけだった。
だが父さんは微笑ましそうにそんな俺を見ていた。
イノシシは父さんに解体され、数日間の食糧へと姿を変えた。
そのうちの一つを使いボタン鍋が夕食に出され、親子三人とミランダの四人が一つのテーブルを囲んだ。
初めて食べるボタン鍋だったがイノシシの肉は脂がいい感じに乗っており、かつその味も濃く非常においしいものであった。
それが鍋全体にも広がり出汁の味などを底上げしていた。
これには年上三人も顔が綻んでいる。
鍋が空になるまで食べきった俺たちは会話を始めた。
ミランダの昔のことや夫婦の昔話、それに今更だが父さんがしっかりとした自己紹介をしていないということで改めて行った。
それにしてもミランダがまだ十五歳というのには親子ともども驚いた。
外見はしっかりと成人した大人のもので実力も年齢を考慮しなくても隔絶しているのだ。
次世代を担う若き才能ある彼女に差し出される手は数多にあり、実力の面では有名な貴族や豪商の私兵の話、さらには国王の直属の騎士団の加入の話まであったそうだ。
婚約の話ももちろんあり、ミランダの美貌に魅了されプロポーズを受けることも多々あったらしい。
俺も対等に立てる立場にある者なら間違いなくプロポーズをする側に回っていただろう。
それだけ子供の俺が見てもミランダという女性は美しい。
だがミランダ自身はあまりこのような状況を喜ばしく感じていないらしく、この度の依頼書を見て逃げるようにここまでやって来たという。
つくづくもったいないと思ってしまう。
それは父さんもそう感じていたらしくそのことについて口を開いていた。
「ミランダ、より良い話がわんさかと出ているのにもかかわらず、なぜ全部断ったのだ? さすがにもったいなさすぎるぞ」
「確かにその通りです。その通りなんですが……」
「うん、あれか? 師匠より良い待遇で迎えられることに引け目を感じたとかか?」
「な、なんでわかったんですか?」
いきなり核心を言い当てられたミランダは動揺するも次の言葉で納得した。
「まあそういうやつは多く見てきたからな。これでも俺は名の知れた剣士だったしな。些かいも少しは見たこともある。それにミランダの師匠というのは女の師匠か?」
「そうです。よく分かりますね」
「そりゃ分かるさ。さっきも言ったがいろいろなケースも見て来てる。年をまあまあ重ねた独身の師匠が若くてきれいな女の弟子に先を越されるケースとかな。今では大丈夫だろうが、当事はギスギスしていたしな。傍から見ていると面白かったよ」
そんなことを笑いながら話す父さんに、ミランダは何が面白いんですかと心の内でツッコミを入れていた。
「それよりも怪しいとは思わなかったのか? このような土地に住んでいる人間があんな条件の付いた依頼を出すなんて」
「……! それは名前に心当たりがあったからです。剣聖と聖女。この二つ名と本名は全大陸で知れ渡っています。まあそれもこちらの方ですと知っているものはごくわずかですが……」
いきなりの真面目な話に対応が遅れてしまうが、すんなりと受け答えをすることができた。
「よく知ってたな。だからこそ迷わずに来れたということか。それに家庭教師なら師匠の面子も壊さなくても大丈夫ってところか」
「その通りです」
「しかし誤算を上げるとしたらレイを教えるとは思っていなかったってところか」
俺に視線が集まる。
席順は俺の前に父さんでその左隣が母さんだ。
ミランダは母さんの前で俺の左隣だ。
ゆえにミランダがこちらに顔を向けて話を続ける。
「そうですね。まさかレイを指導するとは思いませんでした。普通に奥様が魔法の手数を増やしたいと考えて依頼されているものだと」
「俺もミランダと同じ立場だったら似た考えを持っていただろうな」
「それにレイは私に教えを請わなくてもやっていけると思うのですが?」
「それは無理だな。なんせまだこんな子供だ。いくら大人びていても子供は子供。俺たちが教えるのが何よりも大事でそこから学び取っていくのが子供の仕事だ」
格言みたいなことを言って余韻に浸っている父さんは首を縦に振ってうんうんと頷いていた。
その最中に母さんは何を思ったのか、全く関係のない話を始めた。
「ねぇ、ミランダさんってどういう男性が好きなの?」
俺は何を言ってるんだと思った。
ミランダも同様のようで固まっていた。
「どういう人がタイプなの?」
再度問われる質問に戸惑うミランダ。
その表情は少し赤くなり年相応の面影を出現させ、可憐な姿が垣間見えた。
プロポーズをよくされているということでそう言うものには慣れていると思っていたがそうでもないらしい。
「そ、それは……い、言えません」
「それならいいわ。まあ私としてはレイ君と結婚してほしいくらいだけどねー」
ミランダはその時ちょうど火照った体を冷やすのに水を飲んでいた。
盛大に噴き出すというのはなかったが、器官に少し水が入ったのか何度か咳き込む。
それは俺も同じで二人して咳き込んでいた。
そんな俺たちを見た母さんはニヤリと笑い、
「ほら息ぴったりじゃない! 今はまだ幼いけどレイは間違いなく世界一カッコイイ男になるわ。それに実力も飛び抜けて世界中に名を轟かせるようになる。この二つは保障するわ。こんな優良物件そうそうないわよ」
と説得を始める。
父さんも止めるような様子はなく、むしろ母さん側に立っている気がした。
「いやレイとは年が離れすぎてますし、レイが結婚する年ですと私はもう十分おばさんでしょうから釣り合いませんよ」
「そんなことはないと思うけどなー」
「そんなことありますよ!」
このような話がもう少し続き解散となった。
各々用事などを済ませ思うまま寝るまでの時間を過ごしていた。
俺はと言うと昼間の疲れで解散後すぐ寝てしまった。
そこはまだお子様。
夜を楽しむには適さないお年頃ということだ。
それでも同年代の子供達より長く起きていたという事実にはさすがと言えるだろう。
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