10
クリックしていただきありがとうございます。
翌日。
俺はミランダが宣言していた通り魔法の勉強を受けていた、のではなく聞き流していた。
五歳の俺に勉強に興味が持てるはずもなく、ただ聞いているだけで右から入ったものを左へ受け流す時間だった。
それゆえに三十分も経たないうちに終わり、しばらく魔法の勉強は無しとなり、もう少し大きくなってから再開することになった。
ミランダは非常に悔しそうにしていたが、俺にとって僥倖だった。
その後は父さんに剣の稽古をつけてもらう。
幾度も立ち向かうが転げさせられ土が付くばかりだが、木刀を振るうことに楽しみを覚え初めていた。
木刀を握っている間は父さん相手に如何に一撃を入れられるか、それだけしか考えられなかった。
夢中。
この言葉がこれほどしっくり感じることはないだろう。
結局この日も父さんに一撃を入れることはかなわず転ばされ続けた。
悔しさはもちろんあるがそれでも爽快感が身を包み充実感を感じる。
そしておなじみの様に母さんがボロボロになった俺を見つけて父さんに怒っているのだが、なんだかこれが一種のコミュニケーションの様に最近思えてきた。
だからいくら険悪な雰囲気を作り出していたとしてもイチャついているとしか俺の目には映らなかった。
まあ両親が仲睦まじいのは良いことだし、仲が良くない姿は俺も見たくない。
このまま仲良し夫婦でいてほしいものだ。
そうこうしているうちに陽が落ち、夕食を楽しく食べる。
早くもこの家族の一員として溶け込みそうなミランダもとても楽しそうだ。
そうして一日が終わりまた明日を迎えるため、早々とベットにもぐりこんだ。
次の日、俺はミランダに呼ばれ庭に出ると、的が立てられていた。
大きさは直径一メートルほどで円形の形をしており中央には青い色がついている。
その的をただ見ていると後ろからミランダの声が聞こえてきた。
「ごめんね、遅くなって」
「そっちから呼び出したのに遅刻なんてないよ!」
「あはは、本当にごめんね」
そう言いながら可愛らしく笑う。
うん、この笑顔はたまらなく良い。
だがこの笑顔を見るたび思考がおっさんのようになっていっているのは悩みの種ではあるのだが致し方ない。
「で、今日は何をするの?」
「今日はこの的に向って魔法を撃ってもらうわ」
「それだけ?」
「それだけよ」
「じゃあ簡単だね」
「それはどうかな?」
ミランダからはうまくやれるものならやってみなさいと言わんばかりにあふれ出る雰囲気に俺はやる気を刺激させられた。
これは一種の挑戦状だ。
男として受けないわけがない。
そうして本日の授業が始まった。
やり方はごく単純で炎の槍を一つ作り出し、的に当てることができたら一歩後ろに下がる。
これの繰り返しだ。
炎の槍が的に当たれば的が燃えて、いちいち変えなければならないということが考えられた。
そこは流石ミランダというべきか、高等魔法ぐらいの火の魔法なら傷一つつかないほどの水のシールドを的に付与しており、俺が普通に炎の槍を放つ程度なら何の問題にもならないらしい。
大したことのないように簡単にこんなものを作成して使い方などを説明しているが、この的が世間一般に売られたなら大金を支払っても手に入れたいと思う人は山ほどいる。
この世の中の魔法使いは高等魔法止まりが多い。
ということはそれ以上の等級の魔法が使える魔法使いは少ないということで、最低限高等魔法に対抗できる何かがあれば被害も大きくならずに済む。
だからこそ火系統の魔法限定になるがミランダが作り出した的は、高性能の盾として喉から手が出るほどの需要が生まれてくるわけだ。
そんな事情はいざ知らず、そのようなものを魔法の練習で使える俺はどれだけ恵まれているのか計り知れない。
気にすることもできないし、気にしても意味がないのでそんなことは初めから毛頭なかったのだが。
初めは順調だった。
ほとんど中心ばかりを刺していき、何度も的から水蒸気が立ち上った。
簡単簡単と心の中で呟いていたが、距離が離れていくうちに次第に中心から炎の槍は外れていき、的にも当たらない時が出てくる。
さらに離れていくと炎の槍は的に当たらないようになった。
的から外れた炎の槍はそのまま放置すると火災の原因になるため、地面などに当たるまでにミランダが水系統の魔法で打ち消していた。
俺の距離が離れれは離れるほどミランダは忙しくなった。
そんな想定通り内容にミランダはご満悦だったが、俺は悔しさで感情が煮えたぎっていた。
「ああ、もう、クソー!」
地団駄を踏む。
傍から見ると子供の行動なので微笑ましいものなのだが、俺自身はそんなことはない。
悔しくてたまらない。
自然と涙があふれる。
そのことに気付いたミランダは俺に駆け寄り、抱きしめてやさしく慰めてくれる。
「大丈夫、まだ始めたばかりなんだからうまくいかなくて当然よ。それにここまで離れることができるなんて思わなかったわ。だから今の自分の実力に誇りを持ちなさい」
ミランダが想定していた距離は大体二十メートルほどだった。
それが今レイがいる場所と的との距離は四十メートルほど離れている。
想定の約二倍だ。
大人でも難しい距離でレイは魔法を撃ちこんでいたのだ。
称賛に価すれども悔しがる必要性は全くない。
それほどまでの出来。
そんなことを知らないからここまで泣いているのかもしれないが、今まで見てきたレイはどこか大人びていて子供の要素を見ることができなかった。
そんなレイの子供の姿が垣間見えているこの時、ミランダは愛おしさを感じていた。
恋愛感情とは違い、手のかかる弟をあやしている気分だ。
ミランダには弟がいなかったため、はっきりとどういったものが弟に感じる気持ちなのか分からないが、このようなものだろうと直感で感じていた。
言葉では表すことができないが何か感じるこの感覚を。
こうしてまた一歩ミランダはスミスディア家に染まっていった。
俺は数分ミランダに抱き寄せられた結果、気持ちを落ち着かすことができた。
みっともない姿を見せてしまった俺は恥ずかしさで目を合わすことができなかったが、ミランダはどこかいつも以上に優し気に微笑んでくれていた。
いつもならその美しい顔立ちに見惚れてしまっているだろうが、今は恥ずかしさが先行してそんなことは起きなかった。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
評価や感想をいただけると励みになります。




