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オークの集落偵察後から二日後。
今日はオークの討伐日となるはずだったが、ラグナ・インテンスがオークを壊滅させてしまったため予定が無くなってしまった。
このことに残念がる者やホッとする者など多種多様な反応が存在していた。
俺としては討伐対象がオークで、緊急依頼という通常よりランクが上げられた割安感のあるものだったので、是非とも参加して単位を取得したかった。
いつまでも依頼をこなさず単位を取得しないでいるのは愚の骨頂なので、早速冒険者ギルドにやってきている。
中に入るといつもいたアストル・グリンエッジの姿は見当たらなかった。
休憩中か休みなのだろう。
会って気まずい雰囲気になるのはごめんだったので、ちょうど良かったと安堵している。
掲示板へと足を向け、依頼を確認する。
もちろん下から順にではなく上から順にだ。
毎度の如く一番上に張り出されている依頼などなかったが二段目には三枚張り出されていた。
内容を見比べていくと、どれもここから距離のある依頼だった。
俺としてはアストル・グリンエッジだけでなく、レティシアとそのメンバー、特にユリシアと会うのは非常に気まずくなるので、数日出かけることになる依頼は歓迎するところだった。
二段目にある三枚のうち一番距離のある依頼を手に取り受付へ持っていく。
「この依頼を受けたいのですが」
渡した依頼書をギルド職員が目を通す。
時間はかからなかった。
「何人で依頼を受けられますか?」
「一人で」
「一人ですか……こちらとしては一人で受けるには些か難易度が高いのではないかと思います」
「その点は大丈夫だ」
「そうですか。パーティーを組めばその分単位が減ってしまいますが安全に事が運べます。単位より命の方が大事ですので忠告はしておきますね」
依頼についている単位はすでに決まっており、パーティー内で単位を分割することになる。
たとえば、五単位の依頼を五人で受ければ一人一単位の配分となる。
そのため身の丈に合った依頼を受注し、少数精鋭で挑むのが効率のいい単位の取り方と言われている。
「もう一度確認しますが、期限切れもしくは失敗した場合は取得予定単位数分引かれることになります。この時もパーティーメンバーがいればリスクを分散させることもできますが、それでも一人で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「分かりました。では、この依頼を受諾させていただきます。サインをお願いします」
依頼書にサインを書き込み、正式に依頼を受けることになった。
ギルドの職員に一人で大丈夫かと二度も聞かれ少し苛立ちを覚えたが、業務上仕方ないことだろうからこのことで責めるのはお門違いだと言い聞かせた。
それに普段ならこんなことで苛立ちは覚えないが、早くこの場から離れたいという焦りから苛立っていたということに気付くことはなかった。
出立する用意をするため家に帰ってくる。
陽気の良い日差しに当てられてか、山吹と白藍は外で待って寝てるとのことだ。
そのため一人で玄関を開けると、当然のようにミラが迎えに出てきてくれる。
「おかえりなさい。今日は早かったね」
「依頼を受けてきたしな。用意ができ次第、目的地に移動する。後、三日四日は帰ってこれなくなる」
「そんなに!? どこまで行くの?」
「アレクサ草原まで」
アレクサ草原はグレイディアから北に馬車で一日かかるところにある草原地帯だ。
見渡す限り草原と言うだだっ広い草原地帯で、多種多様の生物が暮らしている。
気性の荒い生物は少なく穏やかな生物が一般的だが、一度怒らせるとどちらかが殺られるまで戦い続ける生物が多い変わり種の地域だ。
「そういうところしか依頼書なかったの?」
「もちろん近場もあったよ。けど、単位のことを考えると、これぐらい離れたところの依頼しかなかった」
「それでもそんなところまで行く必要なんてないんじゃないの? 単位数も大事だけど、私たちのことも考えてよね?」
留守を守る者にとって当たり前な回答。
独り身で束縛のない者なら自由気ままに過ごせるが、俺はそういうわけにはいかない。
俺はミラとカスミを守る立場にあり、守ることが義務だ。
それを一時的にも放棄するわけなのだからこのように言われても仕方がない。
まあ、ミラが俺と少しでも会えない日があるのが嫌なため、このように言っている可能性もあるのだが。
もしそうであるなら、これほどうれしいことはない。
それにミラが一緒に住んでおらず、カスミと二人で暮らしていたなら、何が何でも一日で終わる依頼ばかり行うことになるだろう。
ミラの実力や人柄に全幅の信頼を寄せているからこそできることであった。
本当にミラには頭が上がらない。
二階の自室に戻り、道具や装備品の確認をする。
特にポーションなどのアイテムは入念に行った。
いくら格下と考えられる相手でも何が起こるか分からないのが実戦だ。
そのためどんなことが起きても対処できるようにしておかなければならない。
何かあってからでは遅いのだ。
何度も確認してから、それらを身に付けていく。
動けないほどではないが、それなりの重さが身体に掛かる。
無いものねだりをするのは癪だが、この世界にはアイテムバックと言うものが存在する。
一つの入れ物にその大きさからでは考えられないほどに物を出し入れすることができる魔道具。
収納可能なキャパシティーにもよるが、価格はピンキリで無制限の物になると、人生を五回は遊んで暮らせるだけの馬鹿げた価格になっている。
王族ですらおいそれと持つことができない代物だ。
ちなみに最低限のキャパシティーの物でも人生を一回遊んで暮らせるだけの価格だ。
ここまで高価な訳はアイテムバックを作ることはできないからである。
アイテムバックは時空間魔法が使われているとされ、この稀有な魔法を行使できる者が現在いないため現存している物しかない。
数が決まっているためアイテムボックスを所持しているということはそれだけのステータスを持っているということになり、価格高騰に拍車をかけている。
そんなアイテムバックを持てたらな、と夢すぎる夢を思い浮かべながら玄関へ向かう。
階段を降りると玄関にはミラが壁に寄り掛かり待っていた。
「待ってたのか?」
「すぐ終わると思ったしね」
「なら、もう少し早く準備終わらせたのに……待たせてごめんな」
「待ちたくて待ってただけだから、気にしなくていいよ」
俺だけのために微笑みかけてくれる。
顔が熱くなるとともに無性に体の奥底から嬉しさがこみあげてくる。
思わずミラの頭に手を伸ばし、やさしく撫でる。
この時のミラはと言うと、顔を赤く染め、恥ずかしそうにもじもじとしているが、嫌がることなく素直に撫でられている。
やめようと頭から手を離そうとすると手を捕まえられ、再度頭に持っていかれる。
「も、もう少しだけ、こうしてて……」
おねだりが飛んできた。
少し上目遣いな感じで、羞恥に欲が絡み合った色で瞳を染めるミラ。
そんなミラの言うことを聞かないなんて俺の中ではありえない。
要望通り撫で続ける。
摩擦など感じさせないミラの髪は触れていて気持ちの良いもので、いつまでもやっていられそうだ。
しかし、現実はそういうわけにはいかず、ある程度した後、手を離す。
俺もミラも少し名残惜しそうにしたが区切りはしっかりとつけた。
「もう行くよ」
「気をつけてね」
「ああ、気をつけるよ。何もなくてもマリアンさんに頼れば何でもしてくれるから、遠慮なくマリアンさんに頼ってお世話焼いてもらいな」
「そうね。マリアンさんに頼ることにするね」
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
相好崩してお互い破顔しあう。
玄関の戸を開けて、日向ぼっこをしていた二匹を起こし、依頼の場所のアレクサ草原へ向けて踏み出した。
通りを抜け、クレイディアの門番二人に挨拶し、門をくぐる。
早く依頼を終わらせるために魔力を体に巡らせ、疾風の如き速さで駆けていく。
門番二人ともが驚いた表情を見せていたが、どちらもたじろぐことはなかった。
俺は二つではなく三つの視線を浴びているような気がしたが、気のせいだと結論づけ、何もすることなく目的地に向かって行った。
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