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三度目の正直を必ずこの手で  作者: 池春 藤斗


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クリックしていただきありがとうございます。

一触即発の雰囲気から和やかな雰囲気にまで改善できるのは長年の付き合いの賜物だろう。

これだけでも仲の良さや互いの信頼度がいかほどのものか窺うことができる。

それにしても先程から会話に一向に入ろうとしないネオティウス・イヴァンの影が薄く感じるのは俺だけだろうか。

そんなことを考えながらオークの死体などを集め焼却する。

そうしなければ新たな魔物が臭いに引き寄せられ食い散らかすか、アンデットとなりこの森の中を彷徨う害悪になる可能性があるからだ。

それを防ぐために必要だった。

早くこの場所から離れたかったが、三人の女性の身元が分かる遺品を見つけたいとの女性陣の意向により何とか探し出し撤退した。

大学校内の冒険者ギルドで遺品と事の顛末を話す。

だが一つだけ話さなかったことがある。

それはラグナ・インテンスが人質の女性三人を殺したことだ。

開示した方が良い情報なんだろうが狂った男を追い詰めて手を付けられない状態になるのは避けたかった。

当たり障りなく話していると疑うように俺の目を見てくる。


「ねえ、何か隠してない?」


話が終盤に差し掛かった時にその言葉は放たれた。

緑の髪に翡翠色の瞳。

その瞳の色は髪の色より鮮やかなためか同じ緑系統でも映えて見える。

容貌はギルドの受付嬢を担当しているだけもあり見目麗しい。

それに目を見張るほどではないがそれでも豊満な胸は女性の魅力として十分に役立ち、引き締まった腰に膨らみの大きい臀部。

これらは幼児体形とはかけ離れた大人の女性の体つきを持つ女性。

誰かと同じく将来の嫁だと発言したり、俺の胸で泣いたりもした若いギルド職員。

彼女が看破してきた。

声や表情、態度には出さなかったが焦りが胸裏をかき乱していた。


「そんなことはないんですけど……何か変でした?」

「そうだったらいいの。将来の妻としての勘が働いただけだから」


将来の妻。

この言葉で少し空気が冷えた気がした。

恐る恐る後ろを振り向くと定番の如く目が笑っていないユリシアの笑顔が待ち受けていた。

森からどこにも立ち寄らず一直線に来たため冒険者ギルドには五人で来ていた。

俺だけなら流すだけでよかったもののユリシアがいることによって痛手を負わないおもちゃの爆弾が本物の爆弾へと姿を変えた。


「職員さん、将来の妻っていうのはどういうことですか?」


ユリシアが俺の隣まで寄って来、変わらぬ笑顔で尋ねる。

冷や汗が背中を伝う。


「どういうことも何もそのままだけど?」

「ちょっ、何を言って」


つま先を勢いよく豪快に踏まれ、最後まで言わせてもらえない。

ユリシアの笑みはさらに良い笑顔になっていた。

だが目が氷点下よりも冷たいものになっていた。


「確か大学校内を堂々と見せつけるように歩いていた女性は青色の髪って聞いてたんだけど……この人の髪、緑色の気がするんだけど私が聞き間違っていたりする?」

「その人はだな……」

「それは私じゃないですよ。私も青色の髪って聞いてましたし」


何いらないことを言ってんだ!

胸中で怒鳴っていた。

ますます踏まれる力が強くなる。

逃げたくても逃げれない。

穴に入りたくても入れない。

言い返そうとしても一蹴されるだけ。

八方塞がりだった。


「職員さん、お名前なんて言うんですか?」

「アストル・グリンエッジと言います。あなたは?」

「私はユリシア・ヘルンベルツと言います。このレイナルド・スミスディアの正妻ですので以後お見知りおきを」

「正妻さんでしたか。でしたらもう結婚を?」

「……そ、それはまだですが近々その予定です」

「なら私が正妻になれるチャンスがあるのですね」


はにかんで両掌を合わせるギルド職員、アストル・グリンエッジ。

受付嬢をしているだけあって今のしぐさや表情はとても魅力的に映り、異性の枠として十分捉えることができる。

だが、どこか俺を使って遊んでいるとしか思えない気もする。

それを頷けるかのように他のギルド職員の目は呆れかえっているように見えると来た。

一時の心の揺らぎが跡形も残さず消えていく。

やはり異性の対象として見れそうにない。

それにユリシアだが俺に対して隠しもせず好意を伝えてくる。

しかもハイドラの時から想ってくれているらしい。

これは男冥利に尽きる嬉しい話だ。

しかし、あまりにも一緒に過ごした時間が短いため好意を持てずにいる。

それでも遊びで言っていると思われるアストル・グリンエッジよりかは幾分マシだ。

大好きと言ってくれてものすごく嬉しかったのだ。


「ねえ、話聞いてる?」


少々怒り気味にユリシアから問われる。

つま先は未だに踏まれっぱなしだが、心なし圧力が強まっている気がする。


「悪い、聞いてなかった」

「なんで聞いてないのよ! だから私とこの女どっちを正妻にして結婚したいって聞いたの?」


この質問に対して俺は問われる前から答えが出ていた。

だから迷うことなく答える。


「悪いがどっちもない」

「えっ?」


ユリシアの小さく漏れた声が俺にはよく聞こえた。


「い、今なんて言ったの? もう一回言って?」


少し言うか悩む。

ユリシアの面様は嘆きに満ちていた。

追い打ちをかけるようで躊躇ったが踏ん切りをつけもう一度言い放つ。


「悪いがどっちもない。どちらも選ばない」


ユリシアの瞳から滂沱の涙が頬を伝い落ちていく。

俺のつま先を踏んでいた足が一歩二歩と離れていく。


「なんで選んでくれないの? あの日以来ずっと想い続けて、いいお嫁さんになるために努力したんだよ? 一日だって忘れたことなんてない。どうしたらいいか分からないから仲が良いネオとリアを見て、リアの様にしたらいいのかなって真似てみたりしたんだよ。なのに、なんで選んでくれないの?」

「すでに婚約者がいるからだ」

「こ、婚約者……なんでいるの……噂の青い髪の女? 私どうすればよかったの? どうすれば選んでくれたの? どうすればこんなことにならなかったの?」


ユリシアがもう一度近づき、俺のコートを掴み赤くなった瞳で見つめてくる。

ここで何か言えればよかったのだろうが、何も言えず視線を逸らす。

この行為は拒否でしかなかった。

無言の答え。

それを受け取ったユリシアは手をコートから離し、冒険者ギルドから勢いよく飛び出していく。


「待って、ユリシア!」


レティシアが飛び出したユリシアを追う。


「バカ」


リア・オルタンスが俺を罵り二人を追いかけていく。


「どうして想いに応えてあげなかったんだ?」

「応えるも何も婚約者がいる身だ。いくら一夫多妻が認められている世界でも俺が身勝手な行動に出るわけにはいかない」

「確かにそれは言えるな。けど考えてやってはくれないか? 長年一緒に居たから分かる。いつもユリシアは何かのために頑張っていた。当時はそれが何かは分からなかったが今ならはっきりと分かる。すべてお前のためだ。だから、頼むな色男」


ネオティウス・イヴァンが俺の肩を軽く叩いて冒険者ギルドを出ていく。

残されたのは俺と受付嬢のアストル・グリンエッジ、その他のギルド職員だ。

途轍もなく気まずい空気が流れる。

原因を作ったのは受付嬢のアストル・グリンエッジ。

決定打は俺だ。

ゆえに俺がこの空気を作り出したといっても過言ではない。


「ごめんなさい、まさかこんなことになるとは思いませんでした」


アストル・グリンエッジから謝罪が述べられる。

その面持ちは真面目なもので先程とは比べ物にならないほどしっかりしていた。

だからと言ってこの状況が変わることはない。

切り替えるのが遅すぎた。


「謝罪なんていいですよ。遊ばれていることを理解できていないユリシアも悪いですし、早く伝えなかった俺も同罪です」


アストル・グリンエッジの相好が一瞬寂し気に見えたような気がしたが、気のせいだと片づけ言葉を続ける。


「それに俺が最後の問いに違う選択肢を選んでいればこんな風にはなっていなかったかもしれない。どの道俺が悪いことには変わりないんですよ。話がだいぶそれてましたがオークの件に関しては報告した通りですからお願いしますね」



********************



告げることだけ告げられ、冒険者ギルドから出ていく姿を目線で追いかける。

その背中はとても実力者とは思えない。

私を救ってくれた時とは違い、少し儚げでひどく小さく感じた。

後悔が募る。

私のせいでメンバーが解散なんてこともありうる。

それだけは何とか無いようにと祈るばかりだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

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