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三人の女性からワームのようなものが貫かれたのを見た瞬間思わず目を逸らしていまった。
まさかこのような場所で人が人を殺しにかかるとは思いもしなかった。
吐くことはなかったが手を口元に持っていき押さえていた。
何度も響き渡る叫喚に耳を傾ければ私自身が狂いそうだ。
それにこの時これからもこのような場面をいくつも見ていくような気がした。
何故かはわからない。
だが直感がそう叫んでいた。
人が死ぬのを見たくない私にとってこの直感は祈りをしてまでも回避したいものであった。
そんな想いを抱きながらも特待生にまでなれるだけの戦闘技術の実力を身に付けたのは第三王女である自分自身を守るためだ。
それに王族には様々な派閥が存在している。
その中でも私の派閥勢力は小規模ですぐに消される可能性があった。
そのために努力した。
決して人を殺すために高めたものではない。
だから目の前で人を殺しそうな雰囲気を纏いレイナルド・スミスディアを見た瞬間、気付けば体が勝手に駆けていた。
私自身集落内に入り事態を確認して足手纏いになりそうな気がしていたため傍観することに決めていた。
そのためこのような行動をとっている私自身が一番驚いている。
けれども心のどこかで彼のそばに駆け寄りたいという気持ちもあった。
殺させたくない。
罪を背負わせたくない。
笑っていて欲しい。
会って間もない者にどれも抱く感情ではないような気がする。
それでも懸命に駆け寄った結果、刀を振り下ろす前に到着し後ろから抱きつく。
体の体温、心臓の鼓動、彼から放たれる微かな匂い。
どれも懐かしさを覚える。
『どこかでどこかでお会いしたことありますか?』
ふと思い出すこの言葉。
彼もこのような変な感覚に襲われていたのだろうか。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
状況が状況だがずっとこのようにしていたかった。
落ち着くし、何より心から安らげる。
触れ合うことにより初めて知る感覚。
それは細胞レベルでの願いでもあった。
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静寂に包まれた森の中。
周りからは夥しいほどの肉塊へと姿を変えたオークと血生臭さが鼻に突き刺さるほどに撒き散らされた紅い海。
認識したくなくても無理やりにでも主張してくるそれらは四人の足枷になっていた。
だが俺はそのようなことはなかった。
まずこれらを認識していたことを忘れているのだ。
俺の脳内を支配しているのは一つの感情だけ。
殺してやりたいという負の欲望。
刀を振りかぶりあとはそれを振り下ろすだけ。
そんな俺の行動が背中から伝わる感覚により阻害された。
殺し一辺倒だった黒い感情が少し霧散していく。
刀を振り下ろす代わりに口を開いた。
「レティシア、何をしている?」
「分からない。体が勝手に動いたの」
「なら、離せ」
「いや。手を、手を血で紅く染めないで」
「なんで?」
「ここでラグナ・インテンスに手をかけたら、生きてても死んでても私の立場が危うくなるわ」
政治的理由で止められたのかと思った。
確かに今はレティシアの、第三王女の派閥に入っていることになる。
もしインテンス家が他の派閥に属しているのならレティシアの立場が危ぶまれるのは当然のことであった。
所詮駒扱いなのかと軽く憤りを感じるが、まだ続いていた。
「王女としてはそうだけど、私個人としてはそんな姿見たくない……手を血で紅く染めるところなんて見たくない……」
レティシアの切実な思いが胸に突き刺さる。
ラグナ・インテンスに振り下ろすことなく桜花を下ろす。
切先は下に向ける。
森からの突風が俺を撫でる。
先ほどまでの殺気は風に攫われ顔色に感情が戻っていた。
「そういうことだ、ラグナ・インテンス。お前が殺した三人には申し訳ないが、たとえ知り合った期間が短くても今を生きてる人を悲しませることはしたくない。だから俺はまだ堕ちることができない」
先程までの歓喜に満ちた笑みが消え、憤慨の形相を見せたが次第にそれも無くなり言葉を紡いだ。
「もういい、興が削がれた」
俺を一瞥した後、レティシアに憎悪に満ちた視線を送り立ち去っていくが、俺を少し通り過ぎてから何かを思い出したように立ち止まる。
「レイナルド・スミスディア。今度俺から素敵なプレゼントをやるから思う存分に楽しんでくれ」
それだけを言って何もせずこの場を離れる。
俺は何かが襲ってくるのかと警戒したが何も起こりはしなかった。
静寂な時間と環境に悪い匂いが辺りを包み込んでいた。
森特有のざわめきを感じることができない。
そのため音は良く通った。
「ねえ、レティシア。いつまでそうしてるつもり?」
ふと響き渡る声。
その声の持ち主はユリシアであり、レティシアを冷ややかな目で見ていた。
レティシアは未だにレイナルドに抱きついていたことに気付き、俺を押し飛ばして離れる。
まさかの展開につんのめりそうになったが何とか堪える。
あまりにもひどい態度に喉元まで出てきた不満を言いたくなるが我慢する。
今は二人の会話だ。
変に口を出すとこちらまで火の粉が降りかかる。
「まあいいわ。レティシアなら歓迎よ!」
「……えっ?」
「だからレティシアなら嫁同盟を結んでいいって言ってるの!」
「意味が分からないんだけど」
「レイのことが好きなんでしょう? そうじゃないとあんなことできないよ。こんなにも愛してる私ですら咄嗟に動けなかったんだから」
ツッコミどころ満載の内容だったがそんなことはしない。
いや、むしろ無理やりにでも会話に入った方が正解だったかもしれない。
けどそんなことをすればいい的になるだけで……
そんな感じで俺は胸中を右往左往していた。
しかしそれもすぐに終わった。
「私は別に好きではないわ。止めるには声を出すのではなく行動する方が良いと思ったからで、そういうことは一切ないわ」
完全否定が飛び出した。
これはこれで傷つくものがあった。
「ならなんであんなに抱きついてたの? すぐ離れればよかったよね?」
「それは……少し怖かったからで……」
「こら、いじめないの」
「いてっ」
唐突にユリシアに言葉と手刀が繰り出される。
頭を抱えるユリシアを泰然と眺めるリア・オルタンスがいた。
手を出した本人のためその態度が普通なわけで、そんな彼女が徐に声を発する。
「ユリシアができなかったからって嫉妬しない。レティシアも何も想ってないならややこしいことはしない。二人ともが悪い。はい、これでおしまい」
そう言ってパンっと手を叩いて鳴らす。
この時お姉さんだと心の内で盛大に叫んでいた。
今までネオティウス・イヴァンにしか興味がないんじゃないかと思っていた俺が馬鹿みたいだ。
そんな感心を内に秘めていた。
だが、
「あと、もしネオに抱きつくとかそんなことをやってしまった時はそれ相応の覚悟はしておいてね」
この言葉で感心は崩れ去った。
せめて最後までネオティウス・イヴァンの名前は出さないでいて欲しかった。
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