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久しぶりに会ってみたいななどと思っていたことを知らないユリシアはさらに他の体の部分も隙間を無くすように抱きついてくる。
急なアプローチに訳が分からなくなりつつある俺はカスミに接するかのように彼女の髪をやさしく撫でまわしていた。
もちろんこんな行動をとってしまったのは一番最後に一緒に居たのがカスミだったからで他の人ならまた違う行動をとっていただろう。
その行動に驚いた彼女は素早く顔を上げるが、あどけない笑顔を浮かべ俺の胸に埋めてくる。
傍目から見ても、もちろん俺から見ても桃色の空間がそこにはあった。
「あ、あの久しぶりに再会して盛り上がっている最中に申し訳ないのですが、少しいいですか?」
「ダメよ! この瞬間をどれだけ待ち望んだか。邪魔するなら排除するわよ?」
俺に抱きつきながら末恐ろしいことを口にする。
体の芯が冷えそうだ。
「そんなこと言わなくてもいいんじゃないか? 同じ大学校の制服を着ているということはこれからはいくらでも会える機会はあるんだし」
「それでも久しぶりの再会なんですよ! こんなにも可愛らしくなった愛しの嫁が目の前にいるのですよ? それにもかかわらず男を選ぶのですか!?」
「愛しの嫁とかはともかく初めに声をかけてきたのはあの男だろう? なら話を聞かないのは悪い」
「そうですか……ネオ、命拾いしたわね」
目つきが怖いですよ!
それにあの男めっちゃ震えてますよ!
少しだけこちらから見える目だけでも十分怖いのに真正面から睨まれたら相当な恐怖を味わっているのだろうなと勝手に想像できた。
茶髪の男の言葉を待つがなかなか出てこない。
仕方なく俺から声を発する。
「それで俺に何の用なんだ? 特にないのならもう行くが」
「すまない。俺はネオティウス・イヴァン。侯爵家の長男だ。単刀直入に言わせてもらう。どうか俺たちの仲間になってくれないか?」
「そんなお偉いさんが平民の俺なんかを入れたら評判が落ちるぞ?」
「むしろその反対だ。自分の評価を甘く見すぎだ。今どれだけ多くの者が求めているか分かっているのか? レイナルド・スミスディアが仲間になる。それだけで集団の地位と実力の向上を見込める。それほどまでに優良物件なんだよ、レイナルド・スミスディアは」
予想以上に俺のことについての情報が出回っているみたいだ。
周りを見渡すと俺に視線が良く集まっている気がする。
ネオティウス・イヴァン同様俺を勧誘しに来た者たちだろうか。
俺の一挙手一投足が見られているような錯覚、いや、錯覚ではなく事実と言った方がいいかも知れない。
そのためやすやすと受けるわけにはいかなかった。
この場で容易くしっぽを振れば権力にひれ伏す者となる。
そんなイメージを周りに持たせたくなかった。
「要するに俺を侯爵家の権力で人気取りの見世物に仕立て上げたいと?」
「そんなことをするわけがない。もしそんなことをしてしまえば俺は殺されてしまう」
「ならどうして俺を求める?」
「純粋にレイナルド・スミスディアの力が欲しい。俺たちだけでは成し遂げられないこともたくさんある。だから欲しい」
空白の時間が訪れる。
だがその目は俺を真っ直ぐ見抜いていた。
一点もぶれることもなくただひたすら俺を見続いている。
根気負けして口を開こうとした刹那、一人の少女が口を開く。
その少女は水が流れるように長く美しい金の髪に、首も胴も手足も細長く一つの芸術作品のような体格。
胸のふくらみもそこそこで燃え盛る紅葉のように紅い瞳をしていた。
「どうか私たちに力を貸していただけないでしょうか?」
その振る舞いはとても気品に溢れ、ただものではないことを瞬時に理解させられる。
それにどこか懐かしい既視感に駆られる。
「どこかでお会いしたことありますか?」
「ないと思います。あるとするなら入学式の時ぐらいです」
思わず丁寧に聞いてしまったが相手もそれに合わせてくれる。
その言葉を聞き入学式のことを思い出す。
そうだ、俺は見透かすような笑みを浮かべた彼女を見た時に……
最後まで思い浮かべることができないまま頭痛に襲われ思考を閉ざす。
先程まで白髪の少女を支えるような格好だったが今は彼女に支えてもらうような格好になり果てている。
頭を手で押さえる。
足腰に力が入らない。
「レティシア……あなた、なにをしたの?」
低く重い言葉が発せられる。
それは到底仲間などに使う言葉のテンションではなかった。
「私は何もしてないわ!」
「嘘よ! だってさっきまで意識は私とネオに向いていたわ。なのにレティシアが口を開いて意識を持っていった直後にこの様子よ! レティシアが何かしたとしか思えない」
最悪と言い切れるほどの険悪な時間が流れる。
周りにいた者たちも口を開くこともできず、あまつさえ身動きも取れていなかった。
このどうしようもなく重い空気を払拭するのに一番適しているのは俺に違いなかった。
そのため俺が何かしらの行動をとるしかなかった。
頭を抱えていた手を離し、俺を支えてくれている白髪の少女の肩に手を置く。
そして一呼吸挟んだ後、彼女の肩に乗せていた手を下ろし、己の足二本で立つ。
「俺は……大丈夫だから。だから……喧嘩は……やめてくれ。それに……もし魔法的要因で……俺がこのようになっているのなら……この二匹たちはその要因となったところで……すでに自身を……赤く染めているだろう」
ありのままに現実に起こりうるであろうことを言い放った。
その二匹は周りのものを警戒するように観察している。
それもただ観察しているのではなく殺気を身に纏いながら俺の両脇に侍っている。
ギラギラに輝くその瞳はいつもの馬鹿で間抜けのものではなく、完全に捕食者の瞳に変わっている。
殺すことに躊躇などしない心の内が現れていた。
そんな俺の言葉に二匹の態度で周りの者は行動を起こせなくなっていた。
もし変に動き出し敵と定められた暁には、己の赤で染まった二匹を見る羽目になることが容易に想像ができたからだ。
そのため膠着状態が続いた。
数分、数十秒、数秒。今の俺にはどちらかは分からないが少し時間が経ち、頭痛が少しは和らいできた。
今回は意識を手放すことがなかった。
それは前回のものよりマシだったからなのか、それともまだ一度だけだが慣れてしまったのかは分からない。
ただ俺個人としては慣れではないで欲しい。
痛みになれるなどごめんこうむりたい。
「今日は疲れた。だからこの話はまた今度に」
そう伝え、俺はこの場から去っていく。
その際、白髪の少女が俺を追いかけようと一歩踏み出し手を伸ばすが、その手を引き戻し胸元で握りこぶしを作り俯いていた。
周りのものは俺が立ち去ったことにより緊張状態から解放され安堵の表情を浮かべていた。
だが声をかけてきた三人はただ立ち尽くしていた。
その三人と一緒に居て一言も話していない紫髪の少女も茶髪の男を心配そうに見つめて動けずにいた。
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