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ラグナ・インテンスは動揺していた。
躱すならともかく己の魔法を切り捨てられたのだ。
それも避ける素振りすら見せず真正面から。
それはある意味俺が勝てないことの証明だった。
「くそがー!」
声を張る。
思わず出た言葉だっために心の内がしっかりと現れていた。
次々と棘を繰り出していく。
それも隙間がないほどに枝分かれさせ目の前の敵、レイナルド・スミスディアを打倒せんがための攻撃だ。
しかしこの攻撃に動揺することなく漆黒も刀で次々で切り捨てられ、純白の刀で斬撃を飛ばされる。
『水の城塞』は攻防一体の魔法だ。
だからこそ攻撃されようと何とか対応ができていたが近づいてくるにつれ反応ができなくなってきた。
それと共に焦燥も生まれてくる。
それでも抗うがとうとう眼前にレイナルド・スミスディアが迫ってきた。
白い制服の上に来ている黒いコートが翻る。
その刹那死神のように感じてしまった。
焦燥から恐怖、そして恐慌へと陥った。
「あ、ああ、ああああああああああああ!!」
恐れるあまりに無茶苦茶な魔力の行使を始める。
その結果手綱を握っていられなくなり、魔力があふれ出し暴走し始める。
暴走した魔力を制御する手段など持ち合わせていなかった。
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ラグナ・インテンスの眼前まで迫りあとは水の膜、『水の城塞』本体を菊花で切り裂くだけだった。
それが今ではできなくなっていた。
迸る魔力の奔流に『水の城塞』は反応し歪な形へと姿を変え俺を襲ってくる。
対応はできなくもなかったが絶え間なく襲い掛かる触手の様に柔軟になった棘のおかげで少しずつ後退を余儀なくさせられる。
異変に気付き出したラグナ・インテンスが連れてきた者や観客席の者たちが騒ぎだす。
中にはこの事態に対応できる人を探しに行ったのだろうか、急いでこの場を離れる者もいる。
先程から後退しかしていなかったため思い切って勢い良く後退する。
「レイ様、どうされますか?」
後退した地点に山吹が近づき問い掛けてくる。
「どうすると言ってもな。方法はあるにはあるが殺してしまうかもしれないからな」
俺が考えた方法は菊花で魔力をとことん吸い上げ俺自身が暴走する前にラグナ・インテンスに向って桜花で斬撃を放つというものだが、そうなると暴走させないために必然と桜花に乗せる魔力量は多くなりラグナ・インテンスの上半身と下半身を切り離す可能性がものすごく高い。
これが魔物や魔獣相手なら何の躊躇もなく執行していたところなんだが、人が相手でかつ場所が俺とカスミが通う大学校と学園の敷地内だ。
俺が下手をしたらカスミの居場所を奪ってしまう。
どうするか悩んでいると山吹から提案が出た。
「これだけの魔力です。菊花で魔力を吸収しながら何か召喚すれば一石二鳥ではないですか?」
「確かに通常より膨大な魔力を得ることができるから高確率でピラミッドの頂点の魔獣を召喚できるだろう。だがあまりにも危険だ。菊花と召喚で両手が塞がる。反撃も防御もできない」
「その点に関しては本来の姿に戻れば何とでもしてみせます」
「いや、それでは目立ってしまう。父さんの言いつけが」
「レイ様! レイ様はお気づきか分かりませんがラグナ・インテンスを倒している時点で注目されてしまっています。それに常人では不可能と言われている魔法を斬るということをなされました。この時点でただものではない実力を持っていると周知されたといっても過言ではありません。もう隠してもあまり意味がないのです」
山吹に冷静に諭される。
ラグナ・インテンスと出会った時点でどうしようもなくなっていたということだ。
情報を隠匿するには最低でもこの場にいる者を抹殺しなければならない。
この場を離れた者や試験で出くわした者もいる。
それに情報は広がれば無数に拡散していく。
すでに手遅れということだ。
ならどうすれば面倒なことに巻き込まれないで済むか考える。
考えに考えて考える。
そこで一つの結論に至る。
中途半端に強いから舐められて絡まれる。
なら中途半端な強さではなく圧倒的な強さを誇示し近づけさせなければいいだけのこと。
そう思うとモヤモヤしていた気持ちが晴れやかになる。
細胞の一つ一つが喜んでくれている気もする。
それに最近では隠すことに意識を向け目を逸らしていたことがある。
「絶対に後悔だけはするな。どんな理不尽でも跳ね返せる力を手に入れろ」
何故か幼い頃から鮮明に覚えている言葉。
そう俺は貪欲に力を欲する必要がある。
どんな出来事も己の糧にして、成長し続けなければならない。
今回はいい機会だった。
なら乗っかるしかない。
俺は決意した。
父さんの言いつけは破ってしまうが権力者までも口を開くのが憚られるほどになるまで高みまで登りつめる。
意志は固めた。
ならあとは行動だけだ。
「山吹、本来の姿に戻って俺を死ぬ気で守りながら攻撃をひきつけろ。新しい魔獣を召喚するために魔法陣を描く」
「御心のままに」
そう言って山吹は九本の尾に山吹色の大きな体、それに魔獣の頂点に君臨できる数少ないうちの魔獣の膨大で禍々しい魔力を迸らせる。
見ている者さえ怖気させる絶対的な存在感をもって降臨した。
山吹はラグナ・インテンスに向って攻撃を仕掛ける。
それに対抗するように山吹ばかりを触手状の棘が攻め立てる。
タイミングを見計らい気配を隠しながら近づき、そんな攻防を前に俺はひたすら魔法陣を描き続ける。
何度かこちらに飛んできそうなものがあったがすべて山吹が対処する。
ところどころに山吹が悲鳴を上げる。
その度に顔を上げそうになる。
それでも我慢して描き続ける。
そして完成した。
「山吹、よくやった! もういいぞ!」
叫びながらラグナ・インテンスに向って疾走する。
本来なら菊花を刺しながら召喚をしたいところだが不可能だ。
ならどうするか。
少し離れたところに魔法陣を描き魔力のコントロールなどせず菊花で根こそぎ魔力を奪い取り魔法陣に使う。
そんなことをすれば俺が暴走しかねない。
まさに死と隣り合わせの行為だ。
それでもこれだけのリスクを負うだけの価値はある。
魔法陣とラグナ・インテンスとの距離は十メートルほど。
こんな一瞬で辿り着く距離でも反撃が飛んでくる。
左横腹と右腕の上腕が棘で貫通する。
激しい痛みが体を蝕む。
それでも止まることはできない。
間合いに入り、何の制御もしていない菊花で暴走した『水の城塞』とラグナ・インテンスを斬る。
押し寄せる巨大な津波の様に魔力が流れ込んでくる。
膨大すぎる魔力が外に逃げようと体の内で暴れまわる。
想像以上に体に負担がかかるが手綱を離さないように懸命に魔力をコントロールする。
一歩進むごとにどこかしらから出血する。
視界もぼやけ思考もままならない。
それでも魔法陣に向って前に進む。
わずかな距離だが俺の通った道には赤いレールが敷かれていた。
やっとの思いで魔法陣に到着する。
口からも吐血しだした。
だが血にもあふれ出た膨大な魔力が滲んでいたのか反応しだし魔法陣が光り出す。
苦しみから解放されるため一気に魔力を流し込む。
体内で暴れまわっていた魔力はすべて魔法陣に注ぎ込まれ魔法陣が神々しく輝いた。
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