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お昼のピークが過ぎたのか先ほどより人が少なくなっている。
通りを歩いていると先程のサンドイッチの出店が見えてきた。
「おばちゃん、ただいま戻りました。カスミを見ていただきありがとうございました」
「別に構いやしないよ。それよりも……いろいろとうまくいったようだね」
「はい、おばちゃんのおかげです」
この時俺の隣にはミラがいた。
ただ隣にいるだけではなく、左腕をこれでもかというくらいに抱きしめていた。
男としては大変光栄なことだが、あまりに密着していたため歩きづらくてしょうがなかった。
それでもこの綺麗な女性は俺の恋人なんだという優越感には負けるので文句は言うまい。
「兄さま、おかえりなさい」
「ただいま、カスミ。迷惑かけなかったか?」
「そんなことしないもん」
「まあ、そうだな。カスミは賢いしな」
「そうなの。それにまだ帰ってこないと思ってた」
「なんで?」
「マリアンさんが2、3時間は帰ってこないだろうから、サンドイッチを食べたらお店手伝ってって言ってたし」
宿で告白した後、キスしただけで他は何もしていない。
個人的はその次の段階に行きたかったし、実際に行けただろうが、カスミを預けていたこともあり、自重した。
しかし、その預け先がそんなことを考えているとは思いもしなかった。
「あ、あのおば……いえ、マリアンさん? カスミに何か変なことは言ってないですよね?」
「変なことって何さね?」
「……いえ、何でもないです。何かおすすめのサンドイッチいただけませんか? おなか空いてまして」
「なら、これにしな。この店一番の商品だ」
おばちゃんことマリアンさんから肉とタマゴのサンドイッチをミラの分ももらい、ほおばる。
噛み締めるごとに肉の味が口の中で広がりタマゴもそれを邪魔しない程度に強調してくる。
とてもおいしい。
胃の方も満足している感じだ。
ミラも満足そうだ。
表情が緩む俺を見ながらおばちゃんは尋ねてくる。
「あんた今どこに住んでいるんだい?」
「今は宿屋の部屋を借りてますよ。いつまでも宿屋にいる訳にもいかないんで今から不動産でも見に行こうかと」
「それならリベル不動産に行けばいいよ。この道を真っ直ぐに行けばすぐ分かるから」
「ありがとうございます。行ってみます。カスミも行くよ」
感謝を告げ教えてもらった不動産に向かう。
迷うことなく目的地にたどり着いた。
すぐ分かると言われたがここまで分かりやすいものはなかった。
この一画のどの建物よりも大きく豪勢な作りだった。
「ここでいいんだよな……」
店の看板にはリベル不動産としっかりと彫られていた。
立ち尽くしていると店の中から女の従業員が出てきて声をかけて来てくれた。
「リベル不動産にようこそ。物件をお探しですか?」
「そうです」
「誰かから紹介など受けましたか?」
「この道を進んだところにあるサンドイッチのおばちゃんに紹介してもらったよ」
その言葉を聞いた瞬間、従業員は恭しく頭を下げ、
「会長のお客様でしたか!? 早く中へどうぞ」
誘導され、中で別の従業員の後ろをついていき通された部屋は煌びやかな一室だった。
まさにVIPルームだ。
今までこんなところにいたことのない俺にとってここは少し居心地が悪い部屋だった。
先程の従業員がお茶を持ってきてくれすぐに丁寧に頭を下げ部屋から出ていく。
そして数分後扉の開く音に振り向くと店を紹介してくれたが入ってきた。
「しっかりと来てくれたようだね」
「マリアンさん、これはどういうことなんですか?」
俺は問い掛ける。
従業員が漏らした通りだと目の前にいるおばちゃんはこの不動産の会長ということだ。
だから確かめないといけない。
そう思った。
「どうもこうもないよ。私の名はマリアン・リベル。このリベル不動産は私が会長を務める店さ」
「ならなんでサンドイッチの出店なんて? それにお店ほったらかしでいいのですか?」
「それは私の趣味さ。出店は他の者に任せてあるよ。それにこの店にいるより良い情報がよく舞い込んでくる。あんたみたいに客にしたいと思うほどの強者と出会うこともできる」
俺はとっさに身構えた。
今更だが周囲の気配も探る。
俺の警戒値は上限を振り切っていた。
「俺をどうするつもりだ。返答によっては家族を守るためこの場所が灰燼に帰すぞ」
「まだまだ若いわね。そこまで警戒せずともいいさね。あんたの実力など全く知らないわね。そのように導き出せた理由は長年の経験と勘。それだけよ」
マリアン・リベルは溜息を吐く。
それは未だに警戒を解こうとしなかった俺を見てのことだろう。
「この不動産は西大陸二大不動産のうちの一つよ。今まで様々な貴族や強者、猛者の物件を紹介してきたからこそ分かることなのさ。どういう雰囲気を纏っているとどれほどの実力を兼ね備えているかとかね。理解できたかい?」
先程までいろいろと親切にしてくれた人だ。
とりあえず信じることにした。
「マリアンさんのこととりあえず信じてみるよ」
「とりあえず、ね。まあいいさ。でどんなのを探してるんだい?」
「3人で暮らせるところであれば文句はない」
「それならちょうどいいのがあるね。今から見に行こうか」
おばちゃんに引き連れられ俺たちは物件を見に来た。
大学校に近く、二階建てで、白い外壁も新築並みの綺麗さでそこまで築年数が経っているとは思えないに不安が募る。
「マリアンさん、ここで誰か死んだりしてないよな?」
「物騒なこと言うんじゃないよ。事情があって新築で建てたのにも関わらずすぐ出ていった者がいて、売りに出されていたところを買い取っただけよ」
「で、これでいくらするんだ?」
「お金などいらん」
「いやそう言うわけにはいかないだろう。ありがたい話だが……」
「なら遠慮なく受け取れ。後々有名になってくれれば良いのだ。先行投資だよ、先行投資」
「先行投資されるほど有名になる予定はないのだが」
「いや、あんたは意識していなくても勝手にそうなる。そういう男だよ」
「まあいいか。ありがたく受け取るよって言いたいところだが俺が勝手に決めるわけにはいかない。ミラ、カスミここはどうだい?」
「兄さま、ここでいいと思う!」
「私もいいと思うけど中も見てみないと」
「マリアンさん、内見できますか?」
「できない不動産屋なんてありやしないよ」
中に入ると新築と言っていた通り、壁や床に傷は見当たらなかった。
ほこりも一切なく丁寧に保管がされていたことがうかがえた。
玄関付近でこの様子なら他も同じような感じだろう。
少し期待が膨らむ。
「兄さま、2階見てきてもいい?」
「ああ、見てきなさい」
カスミが駆け足で2階に行くなり、すごいや広い、ここ私の部屋にするなどの声が聞こえてくる。
この家に住む気満々という感じだ。
ミラは先ほどのことに影響してか、家事に関係するところを中心にチェックし、こちらも満足げだ。
「それでどうするかね。ここにするかい?」
「二人とも気に入ってそうだしここにするよ」
「おやその言い方だとあんたはあんまりってとこかい?」
「そんなことないさ。二人に満足してもらえるところに住みたい。それが俺の理想さ」
俺たちはこうして家を手に入れた。
学生の身でありながら一家の大黒柱。
何かおかしいような気もするが気にしない。
宿屋に到着し受付で明日に出ていくことを告げ本日分の料金を支払う。
明日から生活に期待を膨らませ、眠りにつくのであった。
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