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三度目の正直を必ずこの手で  作者: 池春 藤斗


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クリックしていただきありがとうございます。

プロローグはここまでとなります。次話から本編になります。

あれから10年の月日が流れた。

前世での教訓を活かし武芸を磨き続けた。

二度と後悔しないように。

体が成長するごとにますます切れのある動きができるようになった。

どうやら剣技の才能があったらしい。

今では若くして剣聖と呼ばれ、他国にも名が轟くほどに成長した。

それに婚約者までできた。

その相手は自国の姫であり、前世の記憶と同じ容姿や性格を持つ女性だった。

こちらに来て初めて出会ったときは、人目を憚らずただただ涙を流していた。

嬉しかった。

たとえ前世の記憶が彼女に受け継がれていなくても、そばに居れるだけで十分だった。

そして再度誓った。

今度こそ守り抜くと。

現在は戦の準備をしていた。

隣国が国境を越えて攻めてきたのだ。

ここ数年は平和な暮らしができていたが、どうやらそれも終わりを告げたらしい。

平和と言っても俺たちの国限定の話で、他国では他国同士で幾度も衝突していた。

ではなぜ今までそれがなかったのか。

それはこの国は辺境にありかつ重要な拠点ではないからだ。

攻めてもあまり利のないところに攻めても時間の無駄。

そのような認識が他国では広まっていた。

そう眼中になかったのだ。

仮初の平和。

今までのを表現するにはあまりにも言い当てている言葉だ。

だがもうそうではなくなった。

降りかかる火の粉は振り払わなければならない。


「姫、どうかお逃げください。何か嫌な予感がします」


俺は陣中の椅子に腰かける姫であり、婚約者でもある彼女に膝をつき頭を垂れ具申していた。


「なぜそのようなことを? 今は我が軍勢が優位な布陣を敷けているのに。退却する理由がない」

「それはそうなのですが私の勘と言いますか、何と言いますか、ただ御身に何か良くないことが起きそうな気がするのです」

「よく分からないわ。まあいい、二人きりにさせなさい。少し話し合うわ」


そう命じると陣中に居たものは全員いなくなり二人だけになる。

それを確認するや否や彼女は態度を一変させ、近づき俺の両頬に手を当ててくる。


「私を想って言ってくれているのは女として素直に嬉しい。大事に想われているのが分かるから。でも私は一国の姫でもあるの。だから逃げ出すのはダメなの。剣聖と呼ばれるあなた様ならわかるでしょう?」

「それはわかってる。だから俺は士気を上げるために我が軍の象徴として先陣に立ち一番槍として働くつもりだ」

「なら総大将も必要よね? 文句はないよね?」

「いやある。今回だけは何とかして退いてくれ。騎士としての勘、それに男としての勘も警鐘を鳴らしているんだ。俺はお前が手の届かないところに行きそうな気がして怖いんだ」

「じゃあ、あなたの手で私の身に集まる暗雲を取っ払って。あなたが活躍すればするほど暗雲はなくなるわ」


彼女は優しくそう告げると俺の唇に彼女の唇を重ねてきた。

時間が遅く感じる。

実際には数秒ほどだろう。

だが俺にはそれが数十分、数時間にも感じられた。

彼女は唇を遠ざけ俺に抱きつき耳元で囁いた。


「大丈夫、私は死なないわ。だから安心して。遠くからでも私を守ってね」


彼女は立ち上がり陣中から出ていく。

俺もそれに倣い、一番槍を成し遂げるため想いを内に秘め移動した。

そして敵と睨みあうこと数分、開戦の狼煙が上がった。

出だしは上々、俺の部隊の特効がうまくいき敵兵を縦に割ることができた。

中盤でやや押し返されることもあったが何とか持ち直した。

魔法などない。

ただ腕っぷしだけで決まるこの世界。

ゆえに実力がある者とないものでは大きな差が生まれる。

俺はまだ傷一つ受けられていない。

剣聖と呼ばれるだけの成果を上げていた。


「よし、このままの勢いで攻め返すぞ!」


俺の号令と共に一気呵成に兵が動き出し、敵陣を崩すことに成功した。

今回の戦は貰った。

俺の考えは杞憂に終わったと思った。

だがまたしてもたやすく裏切られた。


「ご報告します。姫様の本陣付近で陣取っていた後詰隊約三千の兵が謀反。姫様方を強襲しているとのこと」


俺に近づいた兵はそんなことを報告してきた。

このときの俺は本陣に向かうことしか考えられなかった。

またあのような思いをしなければいけないのか。

それだけは何とかして避けなければならない。

そんなことばかり考えていた。

先程まで味方だった兵が俺に向け矢を放つ。

それでも俺は足を止めなかった。

俺に当たる矢だけを刀で弾く。

立ちふさがる者はすべて切り伏せた。

倒し損ねたものが後ろから矢を放つ。

後ろを振り向く時間も今は惜しい。

そのため次々と訓練用の藁人形のように背中に刺さっていく矢。

痛みなど気にしていられない。

大切な人を失うよりマシだ。

そして血まみれの藁人形のような姿で本陣に辿り着いた。

全力を賭して駆け抜けた。

だが一歩遅かった。

大切な人は縄で縛られ、首を落とされようとしている。

俺は声を上げながらまた駆けだした。

それに気付いたのか姫であり婚約者でもある彼女はこちらを向き、申し訳なさそうに俺を見ている。

そして軽く微笑んで何か言葉を言い終わった後、俺の目の前でその命は絶たれた。

あの時の言葉は恐らくごめんねだったと思う。

聞こえなかった。

最後くらいはしっかりと聞いてやりたかった。

また後悔をしてしまった。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


慟哭を上げる。

俺の生きる意味がなくなった。

それに俺の灯もあとわずかだ。

血を流しすぎた。

だがその前にやらなくてはいけないことがある。

裏切りの首謀者を殺らなければ気が済まない。

怒りに染まった俺が今更ながら気づいたことがあった。

今回の首謀者の将軍、それはあの時の男と同じ顔をしていた。

今まで接点が全くなかったのと前世との体格があまりにも違っているため気付かなかった。

それに俺自身が転生しているならこのことも配慮して警戒しておかなければならなかった。

またしても俺の落ち度が原因だった。

それでもこの昂る怒気は抑えられない。


「またお前か!」


将軍へ向かって走り出す。

たどり着くまでの間、何度も剣で切られ、槍で刺された。

立っているのが不思議なほどだった。

将軍への攻撃可能範囲に入り抜刀。

そしてそのまま振り抜いた。

数秒無音の世界が充満した。

そして一番初めに音を立てたのが俺が地面に倒れ込んだ音だった。

俺の背中には槍の穂先が飛び出しており、それは心臓を正確に貫いていた。

俺の完敗だった。

もう何もすることができない。

最後に見たものは下劣な笑みを浮かべる将軍だった。

次第に視界は暗くなり見えなくなる。

そしてこの期に及んで最後に願ったのは剣聖如きの力ではなく、何ものにも屈せず大切な人を守れるだけの絶対強者の力が欲しい。ただそれだけだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

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