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試験官が駆け寄ってくる。
その後ろには医療班らしい人がポーションを詰めた鞄をぶら下げてくる。
「おい、君。いったい何をしたんだ!? 魔法は召喚魔法しか使えなかったのではないのか!?」
「使えないとは言ってないですよ。それに何をしたって言われましても見られていた通りのことしかしてませんが」
「それならなぜやけどがこんなにも少ない!」
「それは『水の城塞』でしたっけ? それを使ってたからじゃないんですか?」
どうやらこの人たちは一酸化中毒を知らないらしい。
俺でも半年ほど前に初めて知ったのだ。
科学に興味がない人が知っている方がおかしいので当たり前の反応だ。
「まさか呪詛などという邪道なものを使ってはないだろうな!?」
「なんでそうなるんですか!? 呪詛なら調べればすぐに分かりますよ。それに呪詛が使われているかどうか分からない人が試験官だなんてことはあってはならないと思うんですが」
「チッ!」
盛大に舌打ちを鳴らす。
呪詛とは対象者の身体能力や魔力や五感などの低下、もしくは無くす呪いの魔法だ。
そのため邪道と認識され嫌悪されている。
そんなものを使ったのかと疑うだけならまだしも、受験生に向ってこのような態度が許されるのかと思ったが棚上げにする。
それよりもこのラグナ・インテンスが負けるとはこの試験官は全く予想していなかったようだ。
まあ田舎者丸出しの雰囲気を漂わす俺が相手をしたんだから使用がないところもあるかもしれないが、こいつを心配しすぎている気もするし、俺に対して向ける感情もむき出しだ。
裏でつながっているんじゃないかと疑ってしまう。
そしてポーションの効果が効いてきたのか目を覚ました。
「おお、大丈夫ですか?」
「まあ、何とか。記憶がまだ曖昧ですが」
「それでもご無事でよかったです」
試験官は胸を撫で下ろしていた。
そんな様子を見て俺は気に食わなかったが、何か言ってそれが試験不合格の原因になってしまっては元も子もないので胸の内に秘める。
「試験官、合否はどうなんですか?」
単刀直入に聞いた。
大学校の入学試験の合否はその場で決められるため、すぐに結果を知れる。
合格した者は良いが不合格になったものはどうするのかとなるが、その点は不合格者でも本日中なら何度も試験を受けることができ合格を目指せる。
ただし、一度受けた試験はまた受け直すということができず他の試験に回らなければならない。
だからこそ俺は聞いた。
もともとから評価があったやつを倒したんだ。
これで俺が落ちてあいつが受かったなどということがあれば実力行使による異議申し立てをしなければならない。
「どちらも合格とする。はっきり言ってお前を合格などさせたくなかったが、黒だとはっきり言える証拠がない。それに勝者が落ちて敗者が受かるなどそんな矛盾したこともやりたくてもやれないしな。試験官人生での最大の汚点になりそうだ」
俺は途轍もない怒りで血が沸騰しそうだった。
不正などせず真っ当に受けてここまで非難される意味が分からない。
何か俺が悪いことでもしたのかと反論したい。
だがそんなことをして合格を取り消されるわけにはいかない。
こぶしを握り締め、爪が食い込み皮膚が裂け血で滲む。
痛みで感情を抑える。
そうするしか自制できそうになかった。
「分かりました、合格ですね。しっかりと聞きましたから。よろしくお願いしますね」
俺はその場を後にした。
足取りは決して朗らかではない。
そのためか皆が俺がに気付き通る道を作る。
中には怯える者もいた。
通常ならそのことにも気づいたが頭に血が上っている今は到底そこまで気が回らない。
「レイ様、レイ様、レイ様!」
はっとする。
足元には試験時と変わらない姿の山吹がいた。
「ようやく気付いてくださいましたか。レイ様、お気をしっかりしてください」
「悪かった。どうやら相当頭に来ていたみたいだ」
「それはともかく早く魔力の放出をお止めになってください! 魔力に敏感な者が怯えています!」
ここで初めて俺は無意識に膨大の魔力を垂れ流しにしていたことに気付く。
手綱をしっかりと握り魔力放出を止める。
新たに怯えだす者はいなくなったがすでに怯えていた者は未だに震えが止まっていない。
「レイ様、ここにいてはレイ様も周りの者も悪影響しか生み出しません。いち早くこの場を離れるのが良いかと」
「そうだな……」
俺は逃げるように立ち去った。
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