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九尾の私は目を見張っていた。
できてもこの劫火を避ける程度だと。
だが現実は己の劫火が飲まれ、相手の青白い劫火が自身に迫ってきているということ。
今までにない経験。
ゆえに思考が停止し何もできなかった。
劫火に耐えるため目を瞑る。
しかし一向に劫火は己の身を焼こうとしない。
目を開くとそこには劫火などなく、代わりに少年が立っていた。
「これで俺と契約する気になったか?」
少年に問われる。
どれだけプライドが高かろうと真正面から力尽くでねじ伏せられてはどうしようもない。
それに一度完膚なきまでに折られたものは元には戻せない
「はい、私はあなた様に敗れました。あなた様の配下にどうか加えてください」
「そうか、それはよかった!」
悔しさは十分にあるがそれ以上に強者のもとにいれる喜びの方が勝っていた。
魔物や魔獣は強者の言うことには基本無駄口を叩くことなく嬉々として従う。
私の場合頂点に立ち、久しくそれがなかった。
だから私をも軽々超える実力を持つこの少年に出会えたことは運命でしかなかった。
この少年の命果てるまで運命を共に。
そう誓えるほどに。
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「そういえば俺の名を言ってなかったな。俺の名はレイナルド・スミスディア。これからよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願い致します。レイナルド様」
「そんなに畏まらなくていいから。俺はそんなことを望まない」
「わかりました。ではレイ様でいいでしょうか?」
「それでいい」
九尾に畏まられ、肌が寒くなったり痒くなったりしたが、何とか落ち着いた。
俺は無事に九尾を手に入れることができた。
「では、レイ様。私に名と魔力を与えてください」
今まで名づけをしたことがない俺は自身がなかった。
これから一生呼び続けるかもしれない名だ。
責任重大だ。しばらく考えてみるも出てこない。
ならいっそうのこと体の色からとることにした。
「お前の名は山吹だ。体色も山吹色だしちょうどいいだろう」
「分かりました。では私はこれから山吹と名乗らせていただきます」
「よし! 後は魔力を流し込むだけだな」
そう言って俺は山吹の胴体に触れる。
その毛並みはとても柔らかく心地がいい。
そして魔力を流し込む。
山吹は一瞬ビクッと動いたがその後は何もなく魔力を受け取っていた。
ある程度流し終えた俺に向って山吹は口を開いた。
「レイ様は自身がどれくらいの魔力を保有しているか分かってますか?」
「あまり気にしたことないから分からないな」
「そうですか。通常召喚者は何かを召喚すると一定量魔力を吸い取られ続けます。ですがレイ様の場合魔力量が膨大すぎて上限が見えません。そのため私がずっと顕現できる可能性があります。どうされますか?」
俺自身魔力量には自信があったが想像以上に俺は魔力を持て余しているらしい。
それも山吹が驚いてしまうほどに膨大にだ。
「それならそのままでいてくれ。何でも魔法陣を書いたり消したりするのはめんどくさいからな。あとその姿だと目立つから他の姿になれないか?」
「分かりました。化けるのはキツネの領分です。お任せください」
そう言うと小型犬ほどの大きさになり尻尾も一本だけになった。
先ほどの姿には凛々しさがあったが、今は可愛らしさが前面に押し出されている。
カスミが見ればほぼ間違いなく抱きつくだろう。
こうして俺は山吹と契約することに成功した。
ミラは未だに少し離れたところで上の空状態だったが、何とかこちらの世界へ呼び戻すことができた。
「レ、レイ!? け、契約は上手くいったのですか?」
「上手くいった。だから言ったろ、大丈夫だって」
俺は屈託ない笑顔でミラに言った。
ミラも未だ顔が赤いままだが釣られて笑う。
そんな時に、
「いい加減早くくっつけよ!」
余計な言葉が邪魔してきた。
「父さん、うるさいんだけど」
「いやいやお似合いだから言ってるんだよ」
邪魔をしたのは父さんだった。
その隣には母さんとカスミもいる。
カスミは山吹を見るや否や迷いもせず山吹を全力で抱きにかかった。
「ひゃあっ!」
山吹から思わず漏れる悲鳴。
カスミは手を抜くという言葉を知らないようだ。
「レ、レイ様。この方は?」
「あぁ、妹のカスミだ」
「カスミだよ! 狐さん、お話しできるんだね! お名前はなんていうの?」
「わ、私は山吹と言います」
「山吹かー。じゃあブッキーね。ブッキーよろしくね」
山吹がとても戸惑った顔をしている。
それに俺に助けを求めている目だ。
しょうがないとばかりに溜息を浮き、カスミに声をかけた。
「カスミ、山吹が辛そうだから下ろしてあげな」
「残念だけど、兄さまが言うなら……」
カスミに下ろされた山吹は急ぎ足で俺の下へ来て、
「レイ様、お助けいただきありがとうございました」
「そういうのは良いよ。契約初日から災難だったな」
軽く言葉を交わした。
父さんたちは先程までの光景を温かく見ていたが口をはさみだした。
「レイ、契約おめでとう。これからも精進しろよ」
「そんなことくらい分かってるよ」
「それとだ、これをお前にやる」
父さんから渡されたのは二振りの刀だった。
「父さんこれって!?」
「レイの思っている通りいつも飾ってあった刀、ハイドラ戦で使った刀だ。銘は柄や鞘、刀身に至るまで純白で一筋の桃色の線が入っているのが桜花。そして桜花と対を成す、柄や鞘、刀身に至るまで漆黒で一筋の黄色の線が入っているのが菊花だ。覚えておけよ」
「そんなの当たり前だよ。それに何でこの刀たちをくれるの?」
「初めから決めていたことだからだ。剣術が優れようと優れまいとお前が生まれた時から成人祝いにこれをやろうと思っていたからだ」
「父さん、ありがとう」
剣士にとって刀や剣は今までの苦楽を共にした己の分身と言ってもいい。
そんな大事なものを父さんはくれると言っているのだ。
嬉しかった。
嬉しくないはずがなかった。
続いて母さんが手にぶら下げていたカバンから黒のコートを取り出した。
それは刀を腰に差しても邪魔にならないような作りになっていた。
「一応そのコートはドラゴンの革でできてるから、ある程度の攻撃なら防いでくれるわ」
何気にとんでもないことをサラッと言っているが母さんは顔一つ変えない。
ドラゴンは魔獣の中でも最高峰に位置するとんでもない化物だ。
そんな化物の革を使っているなんていったいどれだけのお金がかかっているのか心配になってしまう。
だがそんなことを言ってしまえば一瞬で空気がぶち壊れるので喉まで出かかっていたが何とか飲み込むことができた。
「ありがとう、母さん。大事にするよ」
お礼を言う。
ミラからはなかった。
まあ召喚魔法がそうなんだろう。
俺的にはプレゼントは私的なもので良かったのだが。
「よし、少し早いが成人祝いも終わったことだ。ゆっくりするか。そうそうレイ、お前が受ける大学校の試験だが一ケ月後とのことだ。だから早いうちに荷物まとめろよ」
「そんな重要なことなぜもっと先に言わなかった!」
俺は怒鳴った。
大学校は大陸の中央に位置するのだ。
辺鄙なところにあるこの村からだと遅くても明後日までには出ていかないと間に合わないと考えられる。
今からでも取り掛からなくてはいけない。
俺は急いで支度を始めた。
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