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そして夕食。
この間にカスミを撫でることはなかった。
それでも別に構わない。
絶対に撫でないと気が済まないという気持ちは持ち合わせていないし、カスミの狂信者でもない。
あるとすれば、ただあのサラサラなカスミの髪を撫でれたらなという願望くらいだ。
夕食は前からずっと変わっておらず机を五人で囲んで食べる。
俺とカスミはいろいろと成長した。
だから目の前にいる父さんも母さんもどこかしら変わっているはずなのだが、俺の分かる限りではなにも変わっていない気がする。
老けた様子など一切なく若々しく元気に暮らしている。
それも歳を取っている証拠が欲しいくらいにだ。
ミランダも背丈や格好などは変わっていない。
ただ大人の色気というのか妖艶さというのか、そういうものがさらに増し、より魅力的な女性になっていた。
この村の人たちは見慣れてあまり反応をしなくなったが、町などに放り込むと本当に大変なことになりそうだ。
見慣れている俺でさえミランダは美しい女性だと思っている。
夕食のメニューはカスミの予想通りボタン鍋で美味しくいただいた。
完食後は恒例の談笑だ。
今日は何をしただのそれでどうだったなどありふれた話ばかりだった。
そして終盤父さんが口を開いた。
「レイ、お前は今年で十五歳。成人だ。非常にめでたいことだと思っている。だが本来ならその期間に色々と経験しなければいけないことを経験していない。だから今からでもそれを学びに行って来ないか?」
「要するに大学校へ行かないかって言ってるんだよね? けど大学校って学園を卒業したり、特待生の推薦をもらったりしないといけないんじゃなかったっけ?」
「大半はそうだ。だが入学試験を突破できれば何も問題はない」
「それに、もしレイが行きたいって言うならどれくらいの効力を持つかは分からないけど私の名で推薦状を書くつもりではいるよ」
ミランダが話に割り込んできた。
ミランダは前から俺が学園に行くことに賛成の立場だった。
だからこの話に割り込んで来ても全く不思議ではなかった。
「それにだレイ、お前は今いるこの世界を飛び出したいと思っているんじゃないか?」
俺は吃驚した。
さすが親というべきか、俺の心情を見事に見透かしていた。
「確かにそれは思ってるよ。このままじゃ何のために今まで苦労してきたのか分からないから。けど飛び出した後、父さんたちはどうするの?」
「どうするも何もこのまま俺たちは平穏にここで暮らすさ」
「じゃあミラはどうするの?」
「わ、私は……」
「あぁ、ミランダならレイの嫁にするつもりだから心配などしなくてもいい」
「はあっ!」
「えぇっ!」
俺とミランダはここ最近で一番の驚愕を受けていた。
まあ俺とミランダの間柄は俺がミラと呼ぶ程度には親密にはなっていた。
数秒固まった後、互いを見つめ合い、父さんに説明を求めた。
「父さん、それはどういうこと?」
「俺はミランダをこの家に招き入れた時からそのつもりだったぞ。前にもそのような話はしてるしな。それに実際問題ミランダの年齢のことも考えればよい嫁ぎ先が残っている方が稀だ。結婚できても娼婦のような立場になりかねん。これに関してはこちらにも責任はあるしな」
確かにそのような話は出ていた。
だがその時は俺が五歳の時だ。
いくらなんでも昔のことすぎる。
忘れかけていたところだ。
それに父さんの言う通りこの世界での結婚適齢期のピークを過ぎた女性の立場はあまり良くない。
再婚ならまだしも初婚ともなれば何か問題があって結婚できなかったと捉えられるからだ。
「でどうなんだ、レイ?」
「どうと言われてもミラの気持ちもあるしね」
ミラに話を振った。
情けないかも知れないが女性に選択をゆだねてしまったのだ。
そのミラは何故かもじもじしながらすぐに答えようとしない。
「レ、レイは私にとって弟のような存在ですし、あと、き、急なので少し、か、考えさせてください」
確かに急なことのため考える必要があるだろう。
ただ先ほどから俺をちらちら見ていることを考えるとまんざらでもなさそうだ。
「レイ、それでどうする? 大学校の方は行くのか? それともまた辞めておくか?」
父さんは「また」と言って笑いながら挑発してきた。
学園の話を蹴って今回の大学校の話も蹴るのかと。
正直むかついた。
だから俺は挑発に乗ってやることにした。
もちろん外の世界に飛び出したいと思う気持ちもあったからだ。
「行くよ。それで父さんですらたどり着けなかった高みまで登ってやるから、しっかりと見といて」
宣戦布告。
何とちっちゃな争いをしてるのかと思う場面だが誰も何も言わない。
親子の会話だ。
それをわかっているため水を差されることはない。
「そうか、なら明日の朝、庭に来い」
父さんはそう言ってお開きになると思われた。
だがそれを食い止めた者がいた。
「カスミも兄さまと一緒に学校に行きたい!」
カスミだった。
「父さん、カスミがああ言ってるけど、どうするの?」
俺が何か言うとめんどくさいことが起きそうな気がする。
だから父さんに任せた。
「カスミにはまだ早いからお父さんと一緒に居ようね」
「いや、兄さまとだけは離れたくない!」
「離れると言っても少しだけだよ?」
「それでもいや! 兄さまといたいの!」
「カスミ、お父さんとは離れてもいいのか?」
「お父さんとはいい! 兄さまとだけは絶対に離れたくない」
「うっ、じゃあせめてお父さんのこともお父様と呼んで」
「なんで兄さまと同じ呼び方をしないといけないの!? 兄さまとお父さんが同じなんてありえない!」
俺は歓喜の涙を流していた。
幸せでいっぱいだった。
一方父さんはカスミに大ダメージを負わされ椅子から崩れ落ちて悲しさで血涙を流していた。
父さんがカスミに撃沈されたことにより今度こそ閉幕となった。
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