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三度目の正直を必ずこの手で  作者: 池春 藤斗


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クリックしていただきありがとうございます。

朝。

それは一日の初めの時間であり、清々しい気持ちになれる特別な空間を届けてくれる。

そんな朝だが俺は清々しさも減ったくれも感じていない。

ただただ眠いだけだ。

それも当然なわけで俺は興奮するあまりなかなか寝ることができず寝不足なのだから。

それでも重い足取りの中、刀はもちろんあるが弓や矢筒を背負った普段とは違う父さんの背中を必死に追いかける。

今俺は森の中にいる。

何度か地面からひょっこりと出している根に足を取られたりしたが、幸い転倒することはなかった。

父さんはその危うげな俺をとても心配そうに見ているが気にしないし弱音も吐かない。

吐いてしまえばその瞬間に狩りが終わってしまう可能性がある。

それだけは阻止しなくてはいけない。

森に入り始めて一時間程度進んだところで父さんは足を止める。

いきなりだったので父さんに顔から突っ込んでいくという醜態をさらしていたが、周りに誰もいないのでそこまでは恥ずかしくなかった。

赤くなった鼻をさすりながら父さんが何で動きをやめたか周囲を見て考えてみたが分からない。

そんなきょろきょろしている俺を見かねてか、父さんが注意してきた。


「そんなにきょろきょろしていると気取られるぞ、レイ。俺の勘だが大物がこの近くにいる。これから命のやり取りが始まるんだ、しっかりと緊張感を持つように。あと大きな音を出すんじゃないぞ」

「わかった」


あまりにずっしりと響くその声は俺のスイッチを入れるには十分すぎるものだった。

そう、今から命を懸けた狩りが始まるんだ。

そう思うと身が引き締まった。

かかとからつま先へと足裏を着けていき、足音を極力立てずにゆっくりと前進していく。

その分進んでいく速さは落ちるが狩りにはとても重要なことだ。

それから数分後、父さんがまた止まった。

だが今度はゆっくりと俺に振り返り口元に人差し指を立てて、進んでいた方向に指をさした。

そこには発達に発達を重ねた太くて長い牙を持つ大きな猪が草をむさぼっていた。

辺りを警戒するも他に猪の姿は見当たらず、目の前の猪に集中できそうだった。

俺はやる気満々で前に行こうとしたが父さんに防がれた。


「レイ、やる気があるのは良いことだが、まだ狩りをしたことがないんだ。今回は気配を消して隠れながら俺のことをよく見ておけ。それぐらいできるだろう?」


そう言うと俺の頭を撫で父さんは動き出した。

猪の近くにある背が高い草むらに身を隠し機会をうかがっている。

俺は大きな木が近くにあったので視界を確保しながら言葉通りに隠れた。

いくら初めてといっても俺も狩りに参加したかった。

狩りをするつもりで来たんだから。

それでも父さんには逆らえなかった。

様々な修羅場を潜り抜けた父さんが言っているんだから不満はあっても従うしかない。

それにしても周りはやけに静かだった。

俺と父さんと猪。

この空間には三つの存在しかいないような異様な雰囲気だった。


「いかにも群の長って感じなんだから手下の一匹や二匹ほど連れててもいいのに」


小さく声の出し愚痴る。

だがその言葉に反応するかのように猪がこちらに顔を上げる。

俺はすぐさま身を隠した。

まさか今ので聞こえてたの!?

そう内心で呟いた。

しばらくして恐る恐る猪の方を窺うとちょうどまた草を食べ始めようとしていた。

俺はこのときホッとした。

だがこの瞬間自体は動き出した。

父さんが矢を放ち猪に命中させる。

それに放ったと同時に飛び出し腰に帯刀していた刀を抜き左目を貫く。


「グモモォォォォォォ」


猪とは思えない咆哮が響き渡る。

俺はその大きさの声量に反射的に一歩下がってしまう。

だが俺より近くにいる父さんは物怖じすることなく果敢に攻め込んでいる。

左目に差し込んだ刀を抜き、反対側へと移動しようする。

抜かれた後の左目からは血が大量に噴き出している。

見ていて気持ちがいいものではなかった。

父さんの動きに合わせるように猪もご自慢の牙で父さんに襲い掛かる。

父さんはそれを右へ左へはたまた飛んだり屈んだりと華麗にかわし、今度は反対側の右目に刀を突き立てる。


「グモモォォォォォォォォォォ」


再び響き渡る咆哮。

父さんは刀を抜き、猪を足裏全部を使い蹴り倒す。

為されるがままに倒された猪はそれ以降動くことはなかった。

俺の聴いた咆哮はこの時点で断末魔へと変わり果てた。

父さんが布を刀にあてがいながらこちらに歩いてくる。

白い布は次第に赤く染まっていく。

その下には先ほどまで生きていた命を奪った銀色に光り輝く刀。

俺はそんな刀から目を離すことができなかった。


「どうした?」


父さんが尋ねてくる。

俺の視線に気づき、何か嬉しそうに口角を上げ話し出した。


「この命を奪った刀に恐怖でも覚えたのか、レイ?」

「……」

「何も答えないか、まあいい。別に貶すわけじゃない、むしろ俺はそう思ってくれているだろうレイがうれしい」


父さんは布で血をふき取った刀を俺に見せてくる。


「この刀はいとも簡単に命を奪うことができる。そう今さっき俺が行ったように……」


父さんは俺から視線を外しわざわざ後ろに振り返り横たわっている猪へとそれを向ける。

俺も当然その動きにつられ猪の方へ目を向ける。

血はもう止まっているようだがその周りはとても赫赫しい。


「だからこそレイは命を奪うことに、刀を握ることに恐怖を覚えてほしい。いや忘れないでほしい」


父さんが俺に握っていた刀を手渡した。

刀はずっしりと重く刃先を地面へとぶつけてしまう。

とっさに父さんの顔を見上げるがそれを気にした様子はなく再び言葉が紡がれた。


「重いだろう。それが命を絶つ重さだ。だから安易に使うんじゃないぞ。例外があるとしたら、狩りをするとき、己の敵に立ち向かうとき、そして女を守るときだ。まあこんな世界では例外の方が多かったりするのだがな」


父さんは俺にそう言って笑って見せた。

その顔は豪快というには物足りず、微笑にしては笑いすぎていた。

そんな表情だが優しさが十分に満ち溢れていた。

愛されている。

それがおのずと分かった。

だからわかったと言わんばかりに気持ちを込めて父さんに刀を返した。

それを受け取った父さんは何も言わず腰に下げていた鞘に刀を差し込み納刀した。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

評価や感想をいただけると励みになります。

また世間が夏休みに突入したこともあり、時間を分けて複数話投稿しようと考えています。

楽しみにしていただけると幸いです。

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