16.それぞれの決意
かなえちゃんが退学し、永一が失踪した日から一年以上が経った。
二人とも元気にやっとるか?
ワイらは皆、高校卒業することになったわ。
本来なら一緒に笑っていたはずの二人。
せやけど、ワイは諦めてへんで。
また一緒に笑える日が来るって信じとる。
せやから……早く元気な姿、見せてほしいわ。
-それぞれの決意-
「あー……退屈やったわ」
卒業式が終わり、ワイは思いっきり体を伸ばした。
体育館から教室に戻ってくるな否や、写真を撮り始めたり、メモ帳などに寄せ書きを書くなど
皆、最後の時間を共有しようとしていた。
「中井くんもメッセージちょうだい」
「一俊、写真撮ろうぜ!」
「おぉ、ええで」
自慢やないけどクラスの中心人物で人気者のワイは引っ張りだこやった。
なんぼ写真を撮ったか、なんぼメッセージを書いたか分からへん。
せやけど、皆と過ごす最後の時。
ワイは辛気臭いのが苦手やさかい、ただひたすらに笑顔でおったわ。
「相変わらず人気者だね」
「なんや雅憲、そのボロボロの制服は」
皆、仲良しやけどその中でも一番の親友とも呼べる雅憲が少し疲れた様子で話しかけてきた。
雅憲は顔がカッコイイし、フェミニストやから女子からも人気が高い。
恐らく女子に引っ張りだこになってボタンも取られたんやろう。
「大変やな、モテモテの人間は」
「茶化すなよ、まったく」
「ま、今日は特別や。カンニンしたってな」
「君が言うのかい……」
ワイと雅憲は高校生活のほぼ同じ時間を共有した親友。
他にもいるんやけど、ワイらのいわゆるグループは人気者が集まっていた。
偶然やけど、そういうわけやから目立つグループやった。
皆の進路やけどまずは雅憲。
雅憲は滝田グループの後継者として後を継ぐべく、大学で経済やらなんやら学ぶらしい。
難しいことは分からんさかい許してな。
「卒業おめでっとう!」
「お、伊万里元気やなー」
「当たり前でしょ。こういう時は盛り上がるに限るわよ」
「せやな。同感や」
続いて伊万里。伊万里も男女関係なく人気がある。
性格がワイと似ているのもあって男女共に単純に慕われている感じや。
雅憲の人気があるとはちょっと違うな。
ま、顔もカワイイ分類に入ると思うんやけど。
で、伊万里は新聞記者になるそうや。
元々、部活動も新聞部の部長を務め、学校内やけど危険な記事を書いていたわ。
生徒から先生からお構いなく、誰と誰が付き合っとるとかな。
見る分には面白く人気もあったんやけど、対象になった時のハラハラ感はおっかなかったわ。
「ほら、未央や美咲も早くきなよ。写真撮ろう」
「お、美咲ちゃんも綺麗やな。化粧しとるん?」
「褒めても何も出ないわよ」
「ツンデレやなー、美咲ちゃん。もう笑った顔がカワイイことぐらいしっとるで」
「なっ――!」
「お、照れた顔もええな」
「う、うるさいわ!」
三年に上がって同じクラスになってからグループに入った藤山美咲ちゃん。
あの日以来、一緒にアイツを探してくれたりして伊万里が一番仲良くなったわけや。
氷の美少女と呼ばれ、学校始まって以来の秀才と呼ばれた彼女。
せやけど、ワイらと過ごすことで表情も柔らかくなり、男が寄るようになった。
でも直接的に彼女を変えたのはアイツやろうな。
で、その秀才の美咲ちゃんは当然有名大学に進学するもんやと思ったら……
獣医になる夢を持っていたらしくそっちの道を進むことにしたみたいや。
これは学校側や親の反感を大分買ったみたいやけど、意志を貫き通した結果やからいいんちゃうかな?
「あんまり藤山さんをいじめない方がいいですよ」
「いじめとらんで。からかってるだけや」
「からかわれてる側はいじめられると思うこともあります」
「そうかー。ほな気をつけるわ」
伊万里と仲良くなったキッカケでグループで話すようになった未央ちゃん。
異性と話した経験が少なく、男を苦手としてたんやけど……
大分打ち解けてきて、今ではちゃんと突っ込んでくれるまでに成長した。
未央ちゃんは大学に進学を選択。
ちなみにやけど、ワイも同じ大学に進学するんや。
つまり……そういうわけや。
え? 分からんて? そんなん知らんわ。察しろや。
「写真撮ってやー」
とりあえず暇そうに座っている人を捕まえて、グループの写真を撮ってもらう。
もう二人、本当はいるんやけど……
ま、こればっかりは言っててもしゃーないしな。
皆、とびっきりの笑顔で写真を撮った。
卒業しても仲間や。その絆の証明がこの写真になるはずや、きっと。
…………*
下校し、着替えに帰ってからワイらは再び、ある喫茶店で合流した。
「遅いぞ、一俊」
「しゃーないやん。ワイ、一番遠いんやで?」
皆、すでに集まっており、ワイがびりっけつやった。
いつも集まるさいはワイが最後や。狙ってるわけやないんやけど。
ま、伊万里とはいい勝負やし、別に気にはしとらんけどな。
雅憲の憎まれ口にももう慣れたわけやし。
最初から気にしてないやろって言われたら、ま、その通りや。
「外で待っとらんと中で待っとったら良かったやん」
律儀にも皆、喫茶店の出入り口前で待っておった。
「さ、中井くんも来たことだし入ろうか」
伊万里がこの場を仕切って、喫茶店に入った。
ドアについているベルが鳴り響き、マスターが迎えてくれた。
「いらっしゃい。皆、良く来たね」
ここの喫茶店は高校二年の夏をキッカケにワイらの集会場ともいえる場所になった。
だからマスターともすでに顔馴染みや。
「ねぇ、充おじさん、志穂さんは?」
皆がマスターと呼ぶ中、伊万里だけは名前で呼ぶ。
小さい頃からの知り合いやそうだ。
「志穂なら買い出しを頼んだ。もう少しで来ると思うよ」
「ほな、マスター。ワイ、コーラ」
早速飲み物を注文し、皆も各々飲みたいものを頼み始めた。
そして一口コーラを飲んだところで、志穂さんが店に入ってきた。
「あら、もう皆来てたのね」
志穂さんはマスターに頼まれ買ってきたものを渡してワイらが座っている席に来た。
「皆、卒業おめでとう」
志穂さんのお祝いの言葉にワイらは頭を下げる。
一時期より志穂さんもマスターも表情が戻ってきたと伊万里は言う。
確かにあの時……アイツがいなくなった時期の二人の表情は曇っていた。
伊万里から聞いただけやけどそれほど精神的に来るほどアイツの表情は死んでいたという……
なんでその時相談してくれなかったんや、とワイは怒った。
でも怒ったところで後の祭り。アイツはワイらの前から姿を消した。
せやけど、ワイらは諦めてへん。
アイツ……永一も、そして黙って学校を辞めたかなえちゃんもきっと元気にしとる。
そう信じて、ワイらは今日、ここに集まったわけや。
それぞれの進路、それぞれの未来に旅立つ時。
せやけど二人を決して忘れない。それぞれの道を歩む過程で二人を探し出すというワイらの決意。
「問題はかなえなのよね……」
伊万里はオレンジジュースを一口飲んでからそう呟いた。
永一がおかしくなり失踪したのは間違いなくかなえちゃんが関係あるはず。
そう思い、ワイらはかなえちゃんの家に行ったわけやけど……
そこにはもう住んでる人はいなかった。
単純に考えれば引っ越した、となるんやけど永一があそこまでおかしくなるはずがない。
まぁ、どんなにおかしくなってたかは伊万里や志穂さんから聞いただけなんやけど。
つまり、ワイらが知らないことが起こっていて、より問題が深いことは間違いない。
「永一は間違いなくかなえを追った。なら永一を探すよりはかなえを探した方が早いわ、きっと」
「せやな。人が警察にも見つからんと過ごすとしたらよっぽどや」
「……それってどういう意味だい?」
「言いたかないけど裏社会にそまってる可能性が高いってことや」
ワイの言葉に皆、静まり返った。
伊万里の言うとおり、永一を探す方は困難だろう。
かなえちゃんがもしただ引っ越して普通に過ごしているならそっちの方が見つけやすい。
「あーもう、暗い話するために集まったんちゃうやろ」
「それもそうだね、すまない」
悪いことを聞いたと雅憲が謝る。
でも現実から目を背けるのもいいことではない。
難しい問題や。
「ま、とにかくあたしは永一とかなえを追うわ。二人に一発ずつかまさないと気が済まないもの」
「同感や」
ワイと伊万里はニッと笑い合った。
それを見て、他の皆は苦笑していた。
「僕も力になるよ。僕の社会的な地位を利用すれば難しくはないと思う」
雅憲が髪をかきあげながらそう言った。
自分で言うのもなんやと思うけど、それほど雅憲も二人を探したいという一心なんやろう。
「わたくしも協力するわ。深見くんには色々とお世話になったしね」
「わたしも微力ながら!」
美咲ちゃんも未央ちゃんも参加表明をする。
それを聞いていた志穂さんが不意に涙を流した。
「まったく……こんないい友達がいるのに、永一はどうして頼らなかったのかしら……」
ほんまや。一人で抱え込んで、何がしたいんかワイには分からんかった。
全て見つけ出してからお前は間違ってたってこと体に教え込んだる。
「まぁ、でも皆は皆の進路があるし、表立っての活動はあたしと滝田くんに任せて」
「そういうことだ。何かあったらすぐ連絡しよう」
「約束やで」
ワイは立ち上がった。
「皆、各々の夢とかあるはずや」
皆、立ち上がったワイを注目する。
他にも客がいるんやけどこの際、気にせんといておこう。
「別々の道を進むことになる。せやけどワイらはいつも一緒や」
皆、ワイの言葉に頷いてくれた。
確認する必要はないというわけや。
「必ず二人を見つけて、またここで会おうやないか!」
ワイはグッと拳を天に突き上げた。
しかし皆の反応は……
「当然よ」
伊万里が冷たく放つ。
「当たり前なこと言うな」
雅憲が今更と言わんばかりに言う。
「まったく何を言うかと思ったら……」
美咲ちゃんが呆れながら言う。
「酷っ……! 言い過ぎや、皆!」
「クスクスッ」
未央ちゃんはそんなやり取り傍目で見て笑っていた。
そして自然と皆、笑顔になった。
「約束しよや。必ず二人を見つけて、ここで再会や」
皆、コップを片手に持ち全員で合わせる。
それぞれがそれぞれの道を歩む。
せやけど、ここで誓った絆がワイらにはある。
「さぁ、行こうや。ワイらの未来へ!」
こうしてワイらの高校生活は幕を閉じた。
けど終わりやない。むしろ始まりや。
良いことばかりやないと思う。
二人を探すにしたって、手がかり一つない状態や。
それでもワイらはこの道を選ぶ。
大切な仲間やから。
今もなお、苦しんでるなら助けてやりたい。
皆、夢を持って自分の道を進み、希望を持って二人を探す。
また皆でそして二人も一緒にこの場所で笑える日が来ることをワイは信じとる!
そしてこの決意した日からという六年という月日が経とうとしていた……