15.絶望の淵
俺はただひたすら歩いた。
どこに向かうわけでもない。
目的地などない。
ひたすら歩いた。
温もりを求めて……
ただひたすら歩き続けた。
失った希望をこの手で掴むために……
-絶望の淵-
KANAが死んだ……
敦子というKANAのおばさんが聞かされた現実……
そんな現実、受け入れられるわけがなかった。
頭の中は真っ白だった……
「KANA……」
それでも眼を閉じて浮かび上がるKANAの笑顔。
しかし、その笑顔をもう見ることが出来ないと思うと切なくなる。
……いや、切ないではすまない。
ただひたすら胸が締め付けられ、怒り、哀しみ……
色んな黒い感情が俺を支配し始めていた。
「くそっ……!」
散々痛みつけ、皮がめくれ血が滲んている右手。
痛いはずだが痛みを感じない。
心に負った傷の方が深かった。
どうしてこんなことになった?
KANAがなんで犠牲にならなきゃいけなかったんだ……!?
次第に俺の中ではKANAの両親や止められなかったおばさんへの憎しみを抱き始めていた。
KANAを失った俺に残ったもの、それは憎しみ、復讐心だけだった。
それから俺はどれだけ彷徨ったのかも分からない。
家にも帰らず学校にも行かず歩き続けた。
結局、警察に補導され充おじさんに迎えに来てもらって連れられ家に帰った。
充おじさんも志穂姉も何があったのか聞いてくる……だが答えられなかった。
口に出すとそれを認めてしまうことになるんじゃないかと怖くて……
俺は一言、何もなかったと言い、部屋に閉じこもった。
同じ場所に座り、何も食べず飲まず……ただひたすら空を見ていた。
「もう……同じ空気吸えないんだな……」
弟のためドナーとして肺を失ったKANA……
いや、そもそも命すら助からなかったんだ。
肺を失ったじゃ済まない。
どうして……って言葉だけが俺の頭を駆け巡っていた。
どれだけ考えても決して答えに辿り着かない。
辛い……苦しい……
でもあいつはもっと辛く苦しい想いでいたんだな……
「なんで気づいてやれなかった……!」
分かっていれば止められた。
バカな考えを捨てさせることができたはず。
俺はKANAからの手紙を読み直した。
「バカやろう……」
お前の最後のお願いなんて聞けるはずないだろう。
俺には……お前しか考えられないのだから……
…………*
それから充おじさんも志穂姉も何も聞かなくなった。
三食、ご飯を持ってきてくれるが言葉を交わすことはなかった。
そのご飯も最低限しか手をつけなかった。
KANAのもとにいけるなら食べなくてもいいとさえ思っていた。
だけど俺には……
「永一、いるんでしょ? 入るわよ!」
声で分かった。伊万里のやつがついに来た。
いつか来るだろうと思っていたが……
早いのか遅いのか俺は分からなかった。
もはやどのぐらい時が経ち進んでいるのか……
興味すら持たなくなっていた。
「かなえ……関係あるんでしょ?」
伊万里の問いかけに無視を貫いたが、KANAの名前に思わず反応してしまう。
伊万里も鈍いやつじゃない。むしろそういうことに関しては鋭い方だ。
説明せずとも察してくれる。
「伊万里……」
俺は伊万里の方を向き、一言だけ発した。
「俺……あいつのこと守れなかった……」
俺は悔しさ、悲しみ、色んな感情がまた湧き始めた。
KANAが死んだというのに俺だけのうのうと生きてるのが許せなかった。
「俺は――ッ!」
もう力の入らない右手を床や壁に叩きつける。
人間、案外丈夫な生き物のようで脆い生き物だ。
こうして痛みつけても傷だけで済むのにKANAはあっという間にいなくなってしまうのだから……
伊万里が必死に俺の腕を掴んできた。
俺は特に抵抗せずに行為をやめた。
そして伊万里はそっと腕を離すと部屋から出て行った。
「……KANA……」
伊万里に言えなかった。KANAが死んだこと……
なんでKANAは死んだんだ?
弟に肺を提供するドナーになったから。
なんでドナーにならなきゃいけなかった?
KANAの親がそう望んだから。
そいつらがいなければ……KANAは死なずに済んだ……のか?
復讐の二文字が俺の脳裏に浮かび上がった。
KANAを殺した両親、そして守れなかったKANAのおば。
許せるはずがなかった。
俺から大事な人を奪ったやつらに復讐をしてやる。
俺の心は決まった。
生きていくために必要なモノを最低限カバンに詰め込んだ。
そして伊万里たちにバレないようにそっと部屋を出た。
もう二度と会うこともないだろう。
復讐を果たし、俺はKANAのもとへと旅立つ。
待ってろよKANA……
俺はお前と共に永遠となることを誓うよ。




