17.出会い
雨の日だった。
私の心を表してるかのような大雨。
仕事で失敗して、憂鬱な気分で帰宅する。
早く帰って横になりたい気持ち。
どこかで飲んで気分転換をしようかという気持ち。
様々な想いが私の中を駆け巡っている。
こういう時、彼に電話したい。
けど、迷惑じゃないかと思い、さっきから携帯を開けては閉じてを繰り返している。
雨が一段と強くなってきた。
決めた。今日は帰ろう。
そう思い、家路を急いだ。
その時だった。
公園の前を通り、ふと公園内を見ると大きな木の下で木にもたれかかっている男性を見つける。
厄介事はゴメン……っていつもの私なら思うはずなのに今日は違った。
立ち止まり、男性を見つめる。
まるで死んでいるかのように動かない。
私はゆっくりと男性に向かって歩いていた。
男性は手で脇腹を抑えていた。
ケガをしているの?
目の前まで行き、声をかける。
私の声に反応し、見上げてくる。
その男性の瞳を見て、私は言葉を失った。
なんて冷たく、哀しい瞳をしているんだろう。
私は更に近づき、持っていた傘を男性に差し出す。
今日の私は本当におかしかった。
けど、何だか放ってはおけなかった。
雨のせい?
気分が沈んでいるせい?
分からない。
それにどうしてそんな瞳をしているのか……
こんな冷たくて、哀しい瞳をしている人を見るのは初めてだった。
だからこの男性……いや、彼を放ってはおけなかったんだろう。
彼の手を取り、引っ張り上げて立ち上がらせる。
そしてそのまま部屋まで連れて帰った。
-出会い-
部屋に戻って早速私は洗面所に行き、タオルを持ってリビングに行く。
彼は窓際に座って外を見ていた。
私は後ろから頭にタオルをかけ、拭いてあげる。
「……なんの真似だ?」
瞳同様に冷たい声。
「風邪、ひくわよ」
「……別にいいさ」
「良くないわ。それに脇腹、ケガしてるでしょ? 見せなさい」
微妙に抵抗を見せる彼の腕を抑え、服をめくり上げる。
脇腹は確かに傷が酷かったが、その周り……いや、体中に傷があった。
新しい傷、古い傷、化膿してしまっている傷さえあった。
私は言葉を失った。
けど何とか冷静を保ち、薬箱を取ってくることにした。
「身体、拭いておいてね」
病院に連れて行った方がいいと思うけど……
彼の様子じゃ行かないだろう。
ならせめて消毒ぐらいしておかないと大変なことになる。
薬箱を片手にリビングに戻ると彼がタバコを片手にまだ空を見ていた。
身体は拭かれていなかった。
「ねぇ、身体、拭いておいてって言ったわよね」
「……必要ない」
「必要なくない」
「……お前、何のつもりだ?」
「え?」
「小学生でも分かる。俺が危険なやつぐらいな」
どうやら自覚があるみたい。
私だって普通だったら関わりたくないわ。
「それとも何か? 誘ってんのか?」
「男には困ってないわ。ただ放っておけなかっただけよ」
私は彼の服を再びめくり上げ、傷の応急処置をする。
彼は顔色一つ変えずにタバコを吸っている。
この傷だったら相当しみてるはずなんだけど……
「ねぇ、痛くないの?」
「痛いさ」
相変わらずの口調だったけど、今の声は少し今までと違った。
意識だけで説明しづらいんだけど、冗談めいた感じに聞こえた。
本当はもっと優しく明るい性格なんじゃないかなって思えた。
じゃあなんで今はこんな冷たく、哀しい瞳をしているんだろう?
その瞳でタバコを吸いながら空を見続けている、
「空、好きなの?」
「別に」
「じゃあなんでずっと見てるの?」
「……さぁな」
携帯灰皿を取り出し、タバコを消し入れる。
ちょうど私の応急処置も終わった。
「何か食べる?」
「……お前……変わってるな」
「え?」
「追い出さないのか?」
「……まずは食べてからでもいいしょ。私、お腹すいてるの」
「……変わったやつだ……」
彼は苦笑した。
でも顔が少し緩んだ彼の顔は印象的だった。
相変わらずくすんだ瞳をしているけれど……
悪い人には私にはどうしても思えなかった。
そして彼のことをもっと知りたいと思う自分がいた。
決して男として魅力を感じたとかそういうわけじゃないけれど……
この想いは何なんだろう?
どう考えても危険だと思われる彼に惹かれていた。
これが後に決して男女の仲にならないけど、奇妙な絆で結ばれる彼と私の最初の出会いだった。




