9 王国ルート、始まりました?
「ま、待ってレナード、行くって誰が」
「俺と君と」
「わ、私!?」
やっぱり私だった!
レナードがこの世界をどう認識しているのかは知らないが、今頃私のステータス画面でも見られているのかもしれない。
それに王城はともかく、辺境伯の娘が勝手に王都の外にでるなんて出来るのだろうか。
「そうと決まれば……今日の責任者に声をかけてくるよ」
「あの、レナード」
「アメリアはここで待っていて!」
「あ、あの……あ、行ってしまった」
小走りで訓練場の中に入っていくレナードの後ろ姿に手を伸ばす。行き場を失った指先を引っ込めると、ぽつりと呟いた。
「どうしよう……」
レナードと二人きりで出掛けたなんて知られたら、クロヴィスになんて思われるだろう。
このゲームは戦記物と謳われてはいるが、遊び方は人それぞれな訳で。クロヴィスが最推しで一筋なのに、プレイヤーとフラグを立てるなんて!
私がプレイヤーとの仲を深めて行けば行くほど、クロヴィスが別の誰かとペアエンドを迎えてしまう可能性が高くなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。一番望んでいない。
「……やばいわ。悪役令嬢ふしだらバージョンになってしまうわね」
婚約者以外と仲睦まじくし、それに気付いたクロヴィスが真の愛する相手を見つける……戦記物ゲームの世界で断罪されるなんてごめんである。
ゾワリと悪寒が走る。
真冬の冷たい風が吹き付けてくるようだった。
◇◇◇
モルツ村までは歩いて一時間もかからず、思っていたよりも近場であった。
レナードは黒地を基調とした騎士服に着替えており、袖口を青く縁取られた質素ながらも高貴さも漂わせている。青色を取り入れているのは、王国を象徴する色だからだろう。
「着いた、アメリア。あそこの酒場にいる人たちに聞き込みに行こう」
「ええ……」
ああ来てしまった……。令嬢が王都を出たというのに、検問所の騎士は誰も引き留めてこなかった。これがゲームの強制力というものなのだろうか。
レナードが村に入ってすぐの赤い瓦の平屋に向かうのを追いかける。酒場だと言った場所は、ゲームのストーリーでも真っ先に入る所だった。
扉を開けると、ガランと重めのドアベルの音が鳴る。中は長いテーブルが数卓並べられ、一番奥のカウンター席には人影があった。長く伸びた赤毛を頭の高い位置に結えた女性だ。テーブルを拭いていた彼女は、入って来た私達に気付くと髪を揺らしながら顔を上げた。
「……なんだい、まだ店は開けてないんだけどねぇ」
「えっと、すみません。俺は王国騎士のレナードと申します。最近この辺りで盗賊が出るという話を聞いて、調査しに来ました」
「王国騎士だって……? 誰か連絡でもしに行ったっていうのかい?」
女店主は目を丸くすると、手を止めた。
私もレナードに続き、彼女に声をかける。
「騎士団にこちらの村出身の方がいらっしゃるの。詳しくお話を伺えないかしら」
「あんたは……」
女性の目が私を品定めするように動く。「うっ」と身を引きそうになるが、しっかりと前を見据えた。自国領の民が困っているのに、令嬢が尻ごみしてどうするのだ。
「……ふぅん、騎士とご令嬢ね……まあ、いいわ。それで、何が聞きたいの?」
「ありがとうございますわ。いつ頃襲撃にあったのか、場所はどの辺りだったのか、他にも知っていれば聞かせて欲しいのだけれど」
「ああ、それなら」
店主はロザリーと名乗ってくれた。彼女が話してくれた内容によると、賊は一週間近く前に現れ、村外れの家二件がやられたというのだ。犯行時間は深夜。村を出た森近くの街道に、テントのような物を見た旅人がいるらしい。恐らくそこが彼らの拠点だろう。
ふむふむと頷きながら聞いていたレナードが、突如胸を叩いた。
「ありがとう、ロザリーさん。賊のことなら俺たちに任せてください。頑張ろう、アメリア」
「えっ、ええ……うん」
自信に満ち溢れた顔が私に向けられる。
これは……やるしかないのだろう。




