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10 初クエストは後の方が問題で


 日が暮れてからのこと。

 私はレナードと二人、森の茂みに身を隠していた。

 目の前には人が数人は余裕で入れそうなテントと燃える焚火。その焚火を囲うように、袖が所々破れた服を着ている男が二人座り込んでいるのが見える。漂ってくる匂いから、彼らは魚を焼いているらしい。


 クロヴィスに会いに家を出てきただけなのに……。


 どうして盗賊退治なんてすることになってしまったのやら。


「俺が先に仕掛けるから、アメリアは後から魔法であいつらを気絶させて」

「ええ、わかったわ」


 隣で身をかがめているレナードにそう言われ、返事はしたものの。そう簡単に言わないでほしいと、ひっそり歯ぎしりする。


  ちょっと城に行ってくると出掛けた主人が、夜が更けても戻ってこないなんて。屋敷の方で騒ぎになってないことを祈るしかない。帰ったらメイドのリリーには叱られることだろう。


 そもそも気絶って……上手くできるものなの?


「せーの、の合図で行くよ」


 草陰に隠れながら、レナードが移動する。私は心の準備なんてできていないのだが、レナードがわざと物音を立て盗賊立たちの気を引き付けたのに合わせ、茂みから出た。


 もう、なるようになれだ。


 侵入者に気付いた盗賊の一人が振り返る。レナードは腰に提げていた剣を鞘に納めたまま振りかぶると、盗賊に向って一思いに振りかざした。


「……ぐはあ!」


 鈍い音のあと、地面に倒れる音が聞こえてくる。まだ意識がある方の男が、レナードを振り返った。


「あ、兄者ぁ! 何者だ!?」

「……いまだ! アメリア!」


 レナードに呼ばれ、私は片手を伸ばすと残った盗賊に向けて魔法を放った。動きを封じるだけの、弱い魔法。


「観念なさい!」


 バチリと手元から電流が伸びる。身体の中を駆け巡るほんのりとした熱。あまりにも簡単に放たれた小さな雷撃に、私は一人感心する。


「……ぐっ!」

「ナイス、アメリア」

「こ、こんなの、簡単なのだわ」


 盗賊の男が地面に転がった。

 二人ともぴくりとも動かず、初回のクエストはこれでクリアできたのだろう。


「こいつらは俺が縛って詰所まで連れて行くよ。ありがとうアメリア、協力してくれて」

「とんでもないわ。民を守るのは私達の役目だもの」


 すらすらと令嬢らしい言葉が口から滑り出ていく。

 ふわりとレナードが笑う。

 トクンと鳴る鼓動に、はっとして彼から顔を背けた。何をときめいているのだ。慌てて被りを振る。


「ああもう、私はクロヴィス様のことが好きなのに! このシステム、厄介ね……」

「ん、システム……?」

「いいえ、何でもないわレナード。さ、早くモルツ村の方に報告して、王都に戻りましょう!」


 テントの隅に放置されていたロープを手に取ると、適当に盗賊の体に巻き付けて行った。だがぐるぐる巻いたはいいが、途中で手が止まる。どうやって固定すればいいだろう。


「ああ、貸して。俺がやるって」


 レナードに手元のロープを奪われる。手慣れた手付きで簀巻きにされた盗賊たちは、彼が両肩に担いで村まで運んだ。


 この人、筋力に初期ステータスを振り分けすぎてない……?


 もしかすると変わった遊び方をするタイプのプレイヤーなのでは。デフォルト名だからまともな人だと油断していた。


「アメリア? 黙っちゃってどうしたの」

「……何でもないわ。力持ちなのね、意外と」

「まあね。適当に振っちゃったんだよね……て、アメリアにはわかんないか。ははは」


 やはり、ステータスの振り分けがめちゃくちゃだった。

 私はわからないふりをして、一先ず微笑んでおいた。



◇◇◇


 

 村の中心に着くまで、レナードの歩みが衰えることはなかった。

 酒場の前まで移動し、レナードと顔を見合わせる。このまま王都に行くには、レナードも盗賊二人を抱えた状態では体が辛いだろう。ロザリーに報告がてら、荷台を借りられないか頼もうと思った。


「聞いてくるわね。ここで少し待っていてくれる?」

「え? 別に俺、背負っていけるよ」

「途中で転んだりしたらどうするのよ……」


 もう、口をとがらせて言えばレナードは困った様に笑いながら頷いた。どれだけ筋力値に偏っているのだろう。


 酒場の扉を開ける。夜の今は営業時間真っただ中で、空気の流れに乗り運ばれてきたお酒の香りが鼻の奥を突く。


「……うっ」

 

 店内は半分ほど席が埋まっており、カウンター側にも客が座っていた。カウンター席の客は屋内にもかかわらず外套を着たまま、フードを深々と被っている。


 ……変わった人。何で脱がないのかしら。そう思い首を傾げながら店の奥へと進む。


 カウンターの中では、ロザリーが作業していた。彼女に声を掛けようと近付いた時、チラリとフードの中の色が目に入り視線を向ける。爽やかな色味のブルーの瞳に、フード内の両サイドからは柔らかそうな銀髪が見えた。

 あれ、この色は……と気づいた瞬間、私は反射的にびくりと肩を震わせた。「うそ……」と呟く私に、フードの男が笑いかける。


「やあ、こんな時間に君も一人酒かな。それとも……誰かと二人で」


 クロヴィスだ。

 どうしてこんなところに彼がいるの!


 彼のアイスブルーの目が細められ、ゆるりと弧を描いていった。



 

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