11 赤い星々
「……おや? さっきのお嬢さんじゃない」
「あ、ロザリーさん、ええっと」
作業の手を止めてくれたロザリーを見るが、隣からはクロヴィスの目が鋭く私を睨んでいる。怖い、絶対に怒られる。何のことで怒られるかって、それはきっと従者も付けずにこんな時間まで外にいることだったりで……。
「あの、街道にいた人たちのことなのですが」
声を発すると体がガタガタと震えた。
クロヴィスを見るまいと目を逸らすが、顔の角度からして私を見つめ続けているのがわかる。絶対にやばい。
「まさか、見に行ってきたのかい?」
「ええ、見にいって……やっつけ、じゃなくて、捕縛いたしました。もうこの村に現れることはないでしょう」
「捕まえてきたって言うのかい! お嬢さんとあの彼で?」
ゴトン、と鈍い音が聞こえた。グラスが机に置かれた音だ。クロヴィスに会話を聞かれている。
彼からの無言の圧に涙目になるが、ここに来た目的を忘れてはならない。
「実はこれから彼らを騎士団に引き渡そうと思っていまして……王都まで荷台か何かお借り出来ないかしら」
「荷台を……? 構わないけど、すぐに行くのかい。二人で大丈夫なのかねぇ、夜明けまでしばらくあるし、私ゃ心配だよ……」
「大丈夫よ。早く戻らないとですから。必ず荷台もお返しに参りますわ」
「でもねぇ……」
「それなら俺が行こう」
「え」
イスが引かれる音が聞こえると、背後にふわりと花の香りが舞った。嗅ぎ慣れた薔薇の香りの中に、ほのかにアルコールのにおいが混ざっている。
肩をがしりと掴まれ抱き寄せられる。
「道中、しっかりと話を聞かせてもらおうかな……アメリア」
「……ヒッ、クロヴィス様」
シィっと彼が人差し指を口元に添える。
「クロー……だよ」
ぎ、偽名だ!
不敵に微笑む彼の瞳は、ちっとも笑っていなかった。
クロヴィスに腕を引かれるまま外に出れば、レナードはマントを着た男と話しているようだった。ちょうど影になっており見えなかったが、近づいて見ればその正体はマーカスであった。
「クロヴィス様、レナードを見つけ……そちらもアメリア様を見つけられましたか」
「ああ。さあレナード、勝手に人の婚約者を連れ出してどういうつもりなのか、あとで聞かせてもらおうか」
「うわ、殿下までいるなんて」
「ク、クロヴィス様、あの、レナードは村の事情を聞いて力になろうとしただけで」
怒らないでやって欲しい、その思いでレナードを庇おうとすると、クロヴィスに冷たく見つめ返される。
「君もだよ、アメリア。王都を出るのに黙って行くなんて何を考えているんだ」
「ご、ごめんなさい」
ごもっともだ。私は何も言い返せず、口を閉じた。
「無事だったから良かったものを……」
「クロヴィス殿下、そのアメリアは俺が無理言って連れ出したようなもので。だからその、処罰ならきちんと受けますのでどうか俺だけで」
「……誰が君を処罰するって? 事の経緯は聞かせてもらうが、処断するかどうかは後で決める。マーカス、すまないが手を貸してくれるか」
マーカスは一度離れると、酒場の裏から馬を二頭引き連れて戻って来た。レナードから盗賊を引き取ると、それぞれの馬の背に俵の如く乗せて行く。
「レナード、馬の扱いは?」
「は、はい! いけます」
「なら、マーカスを手伝ってくれ」
クロヴィスは馬の手綱をマーカスとレナードに任せた。
「アメリア、疲れているところすまないが、歩いて戻ってもらうよ」
「構いませんわ」
勝手に出て来たのはこちらだ、馬に乗せろなんて図々しい事は言わない。疲れてはいるが、歩けないほどではない。
馬の鼻息が夜空の下響く。
王都に向かい歩き始めると、クロヴィスが私の手を強く握った。
「……クロヴィス様?」
「…………レナードがいると狂うな」
何が、と聞き返す前に彼は歩調を早めてしまう。
村を抜け、森のそばの道を歩く。
ふと空を見上げて見れば、煌めく星々が浮かんでいた。三つ横並びに強い光を放つ星があるのが見え、その形に見覚えのある星座を思い出す。……オリオン座みたい。だが色はどれも赤い。
私を振り向いたクロヴィスが、同じく空を見上げた。
「三つ星か……」
「赤い、ですね」
「……ああ。あまりこういった類は信じないようにしているのだけどね」
クロヴィスが声を落とした。
「……天は帝国に吉兆をもたらしている、か」
「……え」
彼の言葉に、心に冷や水を浴びたようだった。彼の目には、星々の不気味な色が写っている。
赤い星は、運命は帝国に傾いているということなのか? 王国ルートに分岐したはずなのに。
「クロヴィス様……帝国にとは、何のこと……」
「ただの星詠みの言葉さ。この時期の空には赤の三つ星が見える。毎年のことだ、気にしなくていいよ」
「そう、なのでしょうか……」
ゲーム内でクロヴィスがこんなセリフを言ったことはあっただろうか。わざわざ言葉にしたのは、クロヴィスは帝国との間で気掛かりなことがあるからなのか。
モルツ村の後のストーリーを思い出す。まだ一章の序盤のはずだが、次章に進めばクロヴィスがレナードを連れ国境付近の軍備の確認に向かう。その際に弟王子のヴィンセントに会うはずだ。
ふと、どうしてクロヴィスがモルツ村にいたのか疑問に思う。レナードがクエストメンバーに選んだのは私だけだ。
「クロヴィス様、今日はどうしていらっしゃったの? お忙しくしていたはずじゃないかしら」
「ん……? それなら城に戻った時、君が訪ねに来ていたと言伝を賜ってね。詰所の方に向かったというから聞きに行ってみれば、レナードと王都から出たとかいうから」
クロヴィスの視線が後ろを歩くレナードにちらりと向けられる。
「辺境伯に知られたら、二度と屋敷から出られなくなるかもしれないね」
「お、お父様がそんなことするかしら。クロヴィス様こそ、お城を抜け出して大丈夫なの?」
「いいんだ、俺は。知っている行き先で良かったよ」
「……もしかしなくても、常習犯ね」
「何かな、アメリア」
王子が城を抜け出して城下町に繰り出すなんてのはよくある話ではあるが、クロヴィスもか。
「さ、アメリア。レナードと何をしていたのか話してもらおうか。マーカス、レナードが離れないようしっかり見張っておいてくれよ」
「はっ、クロヴィス様」
「な、何もありませんわよ、クロヴィス様!」
王都に着くまで私とレナードの弁明は続いた。




