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12 王国ルートですよね……?


◇◇◇



 王都の詰所に着くと、マーカスがレナードを引き連れ側を離れた。捉えた盗賊を騎士達に引き渡しに行くそうだ。

 モルツ村の一件もこれにて解決。さて私も帰るかと思ったのだが、クロヴィスにしっかりと腕を組まれており動けない。


「クロヴィス様?」

「アメリア、君はこっちだ」


 ぐいっと腕を引かれ、されるがままついて行く。城の中に入り、どんどん奥へと進んだ先に辿り着いたのは……。

 パタンと閉められたドアに、呆然と立ち尽くす。


 なんで私、ここにいるの?


 案内されたのは寝台がある部屋だった。

 白い壁と大理石の床、紺色の重厚なカーテンが窓側に垂れ下がり、壁一面を覆っている。寝台の向かいのデスクにはランプが置かれ、揺れる明かりが夜の薄暗さを醸し出す。


「アメリア、家に帰るのは日が登ってからにしよう。今日はここに」

「あの、クロヴィス様。こちらのお部屋は……誰かの寝室だと思うんですが」


 部屋の中は綺麗に整えられているが、デスクの上には読みかけなのか栞が挟まれた本が置かれていた。

 来客用にしては、寝具の素材やデザインの細やかさからして高級感がありすぎるように思える。


「俺の部屋では不満かな」

「うぇっ、クロヴィス様のお部屋なんですか!」


 私は扉の方まで後退りした。ドンっと背中が扉に当たり、息を塊で吐き出した。


「かはっ……、ぐ、どうして。あの、クロヴィス様?」

「部屋の用意をさせても良かったんだが、こんな時間に君が外出してるなんて話が広まってもね。着替えなら女性の侍従に持って来させるから安心して」

「つまり、私、と、泊まるんですか。どこに」

「ここに」

「どこで」

「そこで」


 クロヴィスが寝台を流し見た。

 待って欲しい。ここはクロヴィスの自室なわけで顔面に熱が集まっていく感覚に、両手で頬を押さえる。


「えええ! だめ、だめです、私たち、まだ……ダメですって!」

「アメリア?」


 ガクガクと首を横に振る。

 クロヴィスは私に一緒に寝ろというのか!


「わ、私達は婚約者ですけど! 確かにクロヴィス様は推しだけど、でもまだ早いわ! 私は床で結構ですから! 慣れていますから!」

「床で?」


 前世では仕事で疲れて、帰宅するなり玄関で寝たことが何度かある。一日くらい床で寝ても問題あるまい。

 クロヴィスの顔が引き攣っている。


「いや、床に寝させるわけには。俺はそこの長椅子で」

「長椅子! なら私が長椅子で! クロヴィス様はお願いですからベッドで、どうぞどうぞ」


 両手を差し出しクロヴィスに譲ろうとした。

 だが私は直前の彼の言葉を思い出して固まった。どこに泊まるのかと聞いた時、「ここに」と答えていた……?


「はっ! 待ってください! 泊まるなんて、私がクロヴィス様のお部屋にということ!?」

「アメリア、声を静かに。人が集まってしまうだろう」

「本当にここに泊まるんですか!」

「ああ。理解したかい?」


 泊まるしかないのか!

 プレイヤーとして画面越しに見る分には構わないが、実際にその場にいるとなれば話は別だ。

 私達はまだ、『婚約者』なのだ!


「そんな、はい喜んでなんて……言えるわけないじゃないですか!」

「落ち着いてくれ、アメリア。君がベッドを使う、俺はそこ。いい?」

「クロヴィス様がベッド、私が床ですね」

「いや、床は駄目だって……どこに婚約者を床に放置する男がいるんだ」


 虐げられヒロインならあるかもしれない。


「でも私は床で大丈夫ですから。ちょうど固めのマットレスが欲しかったところなの! まあ、なんてきれいな床なのかしらー!」

「まったく、君は……」


 やれやれと言いながらうなだれた彼の姿を視界に収める。

 さあ、床で結構よ! と、そのまま座り込もうと膝の力を抜いた時、トンッと体を押された。


「あれ」


 どさりと倒れ込む音……私だ。部屋の高い天井が見える。柔らかな手触りの布が、背面に感じられた。


「え」

「アメリア、体を冷やしたらいけない……いつも言っている事だよね?」


 いつの間にか寝台の上に寝そべっている。先ほどの軽い衝撃は、クロヴィスが私を押し倒したからだ。

 首だけ起こすと、こちらを見てほほ笑む彼と目が合った。


「大人しく使ってくれるなら、レナードと勝手に出かけたことは皆には黙っておこう」

「それは! ……ううっ、ずるいですよ……」

「……ふっ、ずるいのは君だろう?」


 クロヴィスが近づく。彼の足がマットレスに乗ると、私の体は滑り落ちるように傾いた。スプリングの軋む音が響く。彼は片手を付き、青い瞳が真っ直ぐに私を捉えてきた。

 見下ろす彼の横髪が、重力に従いはらりと落ちる。


「……アイツを迎え入れない方が、都合がよかったかな。まったく、予想外のことをしてくれる」


 氷のような目。

 レナードを迎え入れない方がよかった? 彼の言葉に違和感を覚えた。

 王国ルートでは、プレイヤーとクロヴィスの仲は分岐の初期段階から好感度が高かったはずだ。だが今の彼を見ると、レナードに対する印象はあまりよくないように思える。


「君が不安そうだからだよ? 俺のことが好きだったんじゃないのか」

「あの、クロヴィス様……どうしたんですか」

「……」


 彼との間に落ちる、無言の時間。

 クロヴィスの様子が何か変だ。少し耳の辺りが赤らんでいる。モルツ村でお酒を飲んでいたが、もしかして酔っている……?


「滅亡ルートは嫌だといったのは君なのに、アメリア」

「……んえ!?」


 瞬きも忘れクロヴィスを見つめ返した。

 私はいつクロヴィスにルートの話をしたのだろう。高まっていく緊張感で、身体が強張っていく。


「前のように、アイツを帝国側に引き合わせておけばよかったのか」

「前……え、クロヴィス様、何の話をして……」

「……あの後、君に残せるものがあったら良かったんだが…………」

「ク、クロヴィス様? ……あれ」


 彼の目が徐々に閉じていく。やがて彼はゆっくりと倒れ込み、ズシリと私の体の片側に重みが加わった。

 耳元に聞こえてくるのは、穏やかな寝息。……寝落ちした?


「うそ……クロヴィス様、寝ちゃった……?」


 気のせいでなければ体が熱く感じるが、やはり酔っているのか。

 彼が言った滅亡ルートの言葉が気にかかる。軽く背中を叩いてみるが、反応はない。


「……重い。どうしよう……」


 彼と密着することは何度もあったが、こう覆い被さられるのは初めてで……!


 だ、誰かー!

 叫びたい一心を必死に抑え込んだ。




 やがて私は一睡もできずに朝を迎えたのである。

 なぜか持ってきてくれるはずの着替えは、来ることはなかった。


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