13 寝不足の朝
カーテンが閉め切られている部屋は暗い。外から鳥の鳴き声が聞こえる為、朝を迎えていることだけはわかるが、一睡もできなかったおかげで瞼は重たく感じた。
夜中のうちにクロヴィスの下から這い出ていた私は、ベッドの足元側で眠る彼の寝顔を眺めた。ゆっくりとしたリズムで上下する胸元に、まだ彼が夢の中にいる事を悟る。
「……アメリアとクロヴィスにこんなペア会話あったっけ」
婚約者同士が結ばれる展開は、ゲーム的には王道だ。何周とプレイしてきた私は、クロヴィスの会話集は一通り回収してきていたが……。
キャラ同士の好感度上昇イベントでも、アメリアとクロヴィスにこんなシーンはなかったはず。
「……ん」
彼がみじろぎする。
やばい、起きる!
何故か焦りが生じ、慌ててベッドから立ち上がり窓際の方へと駆け出した。カーテンに隠れるように、彼から背を向ける。
「……あれ、いつのまに。アメリア?」
「あ、あの、クロヴィス様、ええっと……お、おはよう、ございます……?」
布が滑る音が聞こえ、彼が起き上がったのがわかる。チラリとカーテンの隙間から覗けば、少し寝ぼけた様子の彼の丸い瞳が私を捉えていた。
あんな顔するのね……。
「どうして君がここに……ああ、そうか、俺か」
彼が眉間を押さえながら項垂れる。やはり昨晩は酔っていたのだろう。いくらモルツ村が隣町とはいえ、日中は公務もあったはず。いつから追いかけていたのかは分からないが、夜遅くまで出掛け、酒まで入れば眠気も訪れよう。
「クロヴィス様、昨晩はお疲れでしたわね?」
「え」
私は何を言っているのだ! 「え」って聞こえたぞ。困らせてしまったではないか!
「む、無理もございませんわ! だって、いくら近いって言っても、一時間くらいかかりましたものね! さ、さあ、私は帰りますから」
カーテンから出て、そのまま扉の方に向かう。昨日は夜に移動するのが危ないからと泊まることになってしまったが、外はもう明るい。一人でも帰れる。
「アメリア」
「は、はい!」
「……送っていく」
「え、な、何をですか!」
「君を」
扉の取手に手を掛けていた私はピタリと動きを止めた。
「そ、そんな、お気になさらないでください、クロヴィス様! 今日もお忙しいんでしょう? 私のお屋敷に来る時間なんてないはずよ」
「時間の調整はつく。すまない、すぐに給仕の者に君の着替えを用意させる」
「大丈夫よ、着替えなんて! ここまできたらこれで帰るから」
そんな手を煩わせることではない。だがクロヴィスは扉まで移動すると外に出てしまった。
「あの、どちらに」
「マーカスを呼んでくる。ついでに君の支度も」
そこにいてと言われ、ぽかんとしてるうちに彼は出て行ってしまった。パタンと閉じられた部屋の扉に、私は一人クロヴィスの私室に取り残される。
クロヴィスが屋敷まで同行してくれるそうだが気まずさしかない。頭の隅で昨晩の事が延々と巡っている。
「……覚えて、ない?」
昨晩、クロヴィスが言っていた『滅亡ルート』という言葉。私のようにゲームのプレイヤーならば、ルートというゲームシステムについて知っていておかしくないが、あの人は転生者とかではないはずだ。どうしてあの言葉が出たのだろう。
「聞きたいけど、聞けるわけないじゃない……はあ……」
本来クロヴィスの口から出るはずのない言葉。つまり本来のアメリアも知り得ない言葉のはずである。私は純粋なアメリアじゃありませんと、彼に自らの正体を明かすのも同然ではないか。
「アメリアのなりすましって、思われるのだけはまずいわ。いや、でも私もアメリアの記憶はあるわけだし、この世界に転生して憑依しちゃったと思ったけど実は違うのかな? ああー、もう、どういうことなのぉ」
寝不足も相まって頭痛がしてきた。
上手く彼から直接、あの言葉の真相を確かめるしかないのだろう。昨晩はクロヴィスも酔っていたのだ、そう言えばあんなこと言ってたけどどういう意味ですの? と、さらっと聞いてみれば良い。
「……王国ルートに分岐して安心してる場合じゃないわよ、私ったら」
両手で頬を押さえ、大きなため息をついた。




